奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第百六十一話 MS()クランクアップ

【馬鹿ナ。ゲートヲ!】

『仕組み自体は単純な物だ。少年、それに妹さんも手伝いなさい』

『はい!』

『わかり、ました!』

 

 噴火を始めようとした富士の火口。突き立てられたオークスタンプの根元でドクター・ストレンジとハジメとハナが魔法の光を走らせる。ゲートは広がりながら富士の火口を下り、ドンドン奥深くまで移動していく。

 

『噴火のエネルギーを全てゲートの向こうへ飛ばす。自分の行動のツケは自身で払うべきだ』

【ヤメロォォォ!】

『お前の相手は僕だと言っている!』

 

 オークの王が吠えながら月の民の秘宝を掲げようとするが、その右腕をウィラードの刀が捉えた。切り飛ばされる右腕、不死の力によりすぐさま再生が始まるが、炎を纏った魔剣は切断した瞬間にその部分を焼き焦がす。そして取り落とされた月の民の秘宝はスパイダーマンの糸に絡めとられ、彼の手に渡る。

 

 そして、衝撃。地鳴りのような音がすると周囲が揺れ動き、強靭な足腰をした超人たちですら立てない程の揺れが富士山火口を襲い……やがて消えていく。吹き飛ばされると身構えていた周囲の人間たちは自身がマグマの海の中に居るわけではないと知り、安堵の表情を浮かべる。そんな中、ただ一人……オークの王はガクリ、と膝をついた。

 

 あのゲートの先には彼の王国がある。彼の故郷が、あの先にあるのだ。

 

【我ガ国……我ガ民が……】

『……お前が選んだ選択だ。あのゲートが開いた時、もしもお前達が友好的に接触を図ってきていたなら……僕達は戦う必要すらなかったかもしれないのに』

【……オノレェ、下等種族ガァァア!】

『……本当に、残念だ』

 

 月の民の秘宝により手に入れた不死はすでにその手にない。だが再生した右腕と全盛期を取り戻した肉体を持った彼は変わらず最強のオークの王であった。本来の得物ではないが腰に帯びた剣を抜き去り、ウィラードに襲い掛かる。

 

 だが、振り上げた刃がウィラードに襲い掛かることは無かった。

 二つの方向から同時に発射された蜘蛛の糸が、一つはオーク王の右腕を巻き上げ、もう一つの蜘蛛の糸がオーク王の足を地面に縫い付ける。

 

『ウィラード、ありがとう。本当に……君のお陰で俺はここまで来れた』

『言うなよ。友達じゃないか……友達は助け合うものだろ』

 

 ウィラードの側にパーカーを着た黒髪の少年がスタっと音を立てて降り立つ。彼はウィラードの肩にポン、と手を置くと、万感の思いを込めて感謝の言葉を口にした。その言葉にふっ、と笑みを返してウィラードは肩をすくめる。

 

『仲が良いようで羨ましいや。友達は大事にしないとね、スタークさん』

『……う、む。そう……だな』

 

 そんな様子を眺めながら、少し離れた位置に全身を赤と青を基調としたタイツスーツで覆った男と、赤い装甲服を身に付けた男が降り立った。彼らの様子に装甲服を着た男――アイアンマンは少し言いよどんだが、タイツスーツの男――スパイダーマンはそれに気づくことなく彼らを羨ましがる。

 

『さて……よう、うちの妹が随分とお世話になったみたいじゃないか』

 

 パーカーを着た少年はポケットからマスクを取り出しながらそうオーク王に声をかけた。歯ぎしりするような彼の表情を眺めながら、ゆっくりと頭にマスクを被る。手作りのチャチなマスクだ。ただ顔を見えにくくするために作ったものだった。今では自分の一部の様に感じるそのマスクをつけた時、ハジメはただのハジメではなくなる。

 

【魔法使イノ小童メが】

『違う。俺は小童じゃない』

 

 マスクを付けた後に、パーカーのフードを被り直し、両手をポケットに突っ込む。コキリと首を鳴らしてハジメだった男はオーク王に向かって言い放つ。

 

『俺はマジック・スパイダー。アンタを倒しに来た』

 

 最後の戦いが今、始まる。

 

 

 

『俺はマジック・スパイダー。アンタを倒しに来た』

「ヤ メ ロ」

 

 クランクアップを祝う宴の最中。唐突に翻訳魔法付きでそう言い放った恭二に膝蹴りをかます。周囲は大爆笑である。しかもご丁寧に変声まで使いやがって。隣でジュース飲んでたハナちゃん役のアイドルの子が凄い噴き出してるじゃないか。

 

『いやぁ、ほら。俺も最近20層までしか潜れてなくて暇だし』

『まぁ、そうだろうけどな。でも結構2種免許保持者が増えたんだろ?』

 

 諸事情あって日本からとんぼ返りしてきた恭二は今、アメリカの冒険者協会から丁重な扱いを受けて二種冒険者の数の底上げを行っている。今日本でやってる教官キャンプの卒業生がそろそろ帰ってくるから、彼らの補佐役と来年度の教官候補者の育成が恭二の主な仕事だ。

 

『そこら辺はほら。マスターが居たからさ。やっぱスゲーわ……あの効率は俺には真似できんな』

『ああ……あとそろそろその変声やめろ。自分と話してるみたいで違和感がすごい』

 

 この現場を見てない人から見たら俺が一人で延々としゃべってるみたいになるじゃねぇか。後スパイディ笑いすぎ。これ頼むからインスタに流さないでくれよ?

 

『よう、MS。そっちで友達と遊んでないでこっちにも来いよ。後マスターはどうした?』

『そうよMS。次の映画までお別れなんだしこっちで一緒に話しましょう。所でマスターの姿が見えないけど』

『イチカは学生なんでもう国に帰りました……知ってるでしょうに』

 

 キャップとウィッチさんが壁の華になっていた俺達に声をかけてくれる。ウィルの奴はこういう時セレブ出身だからか知り合いが結構いて問題ないんだが、俺はどうにもこういうパーティーだと落ち着かないんだよな。やっぱり周囲が大人ばかりってのもあると思う。

 

「あの、お二人は何て……?」

「ああ、こっちに混ざらないかって。あ、翻訳切れてるんですね。ちょい待ってください」

 

 ハナちゃん役の女の子が二人の言葉に首をかしげていたので、恭二が彼女に翻訳をかけ直した。器用な奴は他人にも翻訳がかけられてうらやましいものだ。1、2時間くらいしか持続できないらしいが、もうこの宴の間は切れる事もないだろう。

 

 因みにこの子は一花の学校の後輩らしく、日本の方で殆ど出番が終わっていたので撮影への参加も冬休みに入ってから。最後のシーン辺りに出る為に一花と一緒に渡米してきた。クランクアップまで参加する予定だったので、明日明後日には帰る予定だ。

 

 彼女とは数少ない日本人同士の上に共通の知り合いが居たので、結構撮影中に仲良くなれた気がする。学校内の一花の様子も知れたし、彼女――松井 花ちゃんとの出会いは今回の撮影で一番の収穫だったかもしれない。

 

『本当にイチローさんにはお世話になって……私、一生の思い出になると思います』

『いや、また映画で共演もありそうだし。帰りの便も一緒だろ? 妹共々コンゴトモヨロシク』

 

 彼女には学校での一花の様子を教えてくれと頼み込んでいる。何だかんだ上手くやってるとは花ちゃんの言葉なのだが、この娘も一花の影響を受けちゃってるみたいだけど割と感情の制御が上手くて慕ってる以上の表現もしてこないし。

 

 一度日本に戻ったらダンジョン研修に連れて行こうかね。初代様も見込みがありそうな子は紹介してくれって言ってたし。アイドル業ってどんなものか分からんけどスタンさんが見出したって事はそれなりに素質はあると思うしね。

 

 まぁ、どちらにしても……

 

『ヘイMS。どっちの糸が早いか勝負と行こうぜ』

『OKスパイディ。もうアンタの時代は終わったと教えてあげますよ』

 

 今は俺が作ったウェブシューターで遊んでる俳優達に冒険者としての力を見せつけるのが先だ。魔力で糸を出すから暫くしたら消えるからって奴らは暴れ過ぎた。俺の食べ物を巻き取った罪を数えてもらおうか。


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