奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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ようやく自分の中で折り合いがついたみたいです。

誤字修正。ハクオロ様、KUKA様、244様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第百六十三話 真一さんの復帰

「……」

「おい……頼む。無言で涙ぐむのをやめてくれよ」

 

 ボディアーマーを着た真一さんの姿に思わず立ち止まってほろりと来たのだが、その姿が罪悪感をわかせてしまうらしい。真一さんは顔を背けて、「悪かったな」と呟いた。

 

「全然かまわないよ兄貴。さ、指示を頼むぜ。このまま40層まで行っちまうか」

「行かねぇよ馬鹿たれ」

「いてっ」

 

 普段の1.5倍位元気な恭二を真一さんが小突く。懐かしいと感じる光景だった。まだ1年も経ってないんだがなぁ。

 

「おかえりなさい」

「……ああ。ただいま」

 

 目元をぬぐって右手を差し出す。真一さんは少しだけばつが悪そうに苦笑を浮かべてその右手を握りしめた。

 

 

 

「浩二さんと美佐さんは4月になったら来てくれるらしい」

「ベンさん達も4月までにはって言ってたから、そうなるとまたチーム分けが難しくなるな」

 

 31層。メンバーは真一さんをリーダーに恭二、俺のツートップ、中に真一さん、そして後ろを沙織ちゃん、シャーロットさん、一花で固める、初期チームでは一番オーソドックスなスタイルだ。

 

 久しぶりの深部探索なので完全に対策が出来ているバジリスク相手にチームの慣らしを行いながら、これからのチーム分けについての会話を交わす。バジリスクはその視線にさえ気を付ければ正直怖い相手じゃない。実際出会ってサンダーボルトで問題なく対応できるし、奴らの速度ならこのメンバーで対応できない者は居ない。

 

「恭二、次の交差点、頭を見せずに中にフレイムインフェルノを打ち込め。一郎は恭二の魔法の後に広場に入れ」

「了解です。魔法越しでも石化が飛んでくるかの確認ですか?」

「ああ。見えない波がぶつかってきたイメージがあったらそれだ。前々から試したかったが機会が無かったからな」

 

 まぁ、対策が出来過ぎていて特に苦労する場面が無いので途中からはこんな風にデータ集めに切り替わったんだがな。開発陣にも所属している真一さんはやはり発想や想定する場面が多いらしく、戦闘前に色々な注文を付けてくる。特にバジリスクの視線のような魔法は実際には目で見る事が出来ない物だから色々知りたいらしい。

 

「個人的にはこう、魔眼ってのも興味があるんだよな」

「……恭二のそれは魔眼じゃないのか?」

「いや、何か鑑定っぽいのは出来るけど魔眼とは別なんだよな」

 

 こまめに左目が赤くなってるんで何かと思ったらそれ鑑定だったんかい。

 

「ちょっと待て。初耳だぞ、おい」

「いや、言うタイミングが無くて。下手な時に言ったら一郎みたいに悪目立ちするかなって」

 

 家族である真一さんも知らなかったらしく、慌てたように恭二に問いただす。あ、真一さんは知ってると思ったけどそちらにも言っていなかったのか。てっきりどっかのヒーローみたいに目からビームが出るから止められてると思ったんだが。

 

「もしもしケイティ? デカいニュースがある」

「ダンジョンで電話は繋がらないだろうが」

「それはそうとして俺の悪目立ちって最初期の筈だろ?」

「まぁ、その。うん」

 

 グッと恭二の首に手を回して締め上げる。この野郎、そんな能力があるのに3年も隠してたのかい。

 

 文字通り締め上げた後に恭二に能力の詳細を吐かせると、最初は収納した物のレベルというか、熟練度的な物が見える程度だったらしい。

 

 それが、魔力が上がる内に少しづつ、少しづつ見える範囲が広がり、今では魔力を帯びた物の簡単な判定が出来る様になったのだとか。

 

「熟練度的な物ってどんな?」

「刀とか長持ちしてるのあるだろ。俺が今使ってるのは今+12位かな。多分普通の刀より切れ味良くなってると思う」

「+で性能が上がってくんだ……どれ位変わるのかチェックだね」

「ああ。まさか冒険者に戻って最初の発見が弟のだとは思わなかったぞ」

 

 一花がメモ帳に書き込みながらそう呟き、それに頷くように真一さんが返した。何となく隠そうとしてるのは知ってたからそのまま聞かずに居たのだが、もっと早くに確認しておけば良かったかもしれない。

 

 これは戻ったらまたデカい騒ぎになりそうだ。何せ恭二の特性はその圧倒的なセンスだと思われてたんだからな。それが蓋を開ければ魔法や魔力を帯びた物品を調べる目だった、と。

 

 本当にケイティに連絡を入れたい。アメリカから飛んで来かねないぞ、これは。

 

「ねぇ、真一さん。チェックしたい項目ってまだある?」

「うん? いや、取り敢えず最低限必要なデータは揃った、かな」

「なら、もう良いよね。サソリ」

 

 一花がその名を口にした瞬間、真一さんの顔が強張るのを感じた。真一さんが一時リタイアした原因、重力を操る大サソリは、未だに真一さんの心に影を残している。

 

 だが、これを突破しない事には真一さんの完全復帰は有り得ない。心に影を残したままより深く潜る事は出来ないのだから。

 

「今日は、サソリを一体狩ったら帰る。だよね?」

「……ああ。調べる事も出来たし、そう、だな」

「一人で。戦うんだよね?」

 

 一花の険しい表情に真一さんが一瞬だけ口ごもる。この一人で戦うというのは、真一さんが口にした言葉だ。

 

 始めてオークにぶっ飛ばされた時も真一さんは一対一でオークを倒しその恐怖を克服した。

 

 なら、サソリにも、と真一さんは冒険に出る前に全員の前で宣言をしたのだ。そして、一花はそれに対して反対意見を口にした。

 

 危なくなればすぐに助けに入る。その事だけは念押しして、俺達は先へと進む。

 

「真一さん」

「……何だ?」

「サソリって食べられるらしいですね」

「……クッ。今度専門店でも行くか」

 

 少し気負ってる風に見えたのでそそっと真一さんに近寄り小さくそう呟くと、真一さんが苦笑してそう答える。そうそう、食ってやる位の気持ちで挑まないとね。

 

 なお、結果は全く問題のない戦いぶりで真一さんが大サソリを退治して終わった。対策さえしてれば後は尻尾が怖い位だからな。それよりも専門店を調べる方が大事だ。真一さんは捕まえたし恭二も連れて行こう。


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