奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。椦紋様、ハクオロ様、244様ありがとうございました!


第百六十五話 34層攻略

「フリーズ!」

 

 33層ではやはり大サソリが雑魚として出てきた。といってもすでにこいつは対策がたってる相手だから問題ない。仮に問題があるとしたら群れて出て来た時くらいだったんだが、こいつらはどうも多くても2、3匹くらいしか同時には出てこないらしい。

 

 つまり、まるで問題なく対処できるって事だ。恭二が開発した氷属性の魔法、フリーズは発動が早く、しかも相手の動きを封じる効果がある便利な呪文だ。特にこの階層の敵は炎系の魔法の効きが悪い為、フリーズで動きを止めて止めを刺すかサンダーボルトの連射が効率的になる。

 

「やっぱ対策立ってる相手は楽だな」

「そっすね」

 

 今は後衛組の慣らしの為に場所を譲って広域警戒に移っている俺と真一さんは、周囲に目線を向けながらこの階層の感想を述べた。これが仮に重力系の魔法を開発する前だったら本気で命がけの階層になっただろうから、恭二博士の開発力様様である。というかいつの間にかビーストモード解除されたんですね。

 

「いつまでもテンション上がりっぱなしなのも疲れるからな。でも、久々に暴れられてすっきりしたわ」

「そらあんだけ暴れればすっきりもしますわ」

 

 顔を見合わせて、笑いあう。さて、戦闘も終わった事だし慣らし運転もこんなもので良いだろう。ここからは本番……初見の敵との戦いだ。

 

「……牛?」

「体は牛だな。顔は猛獣だが」

「キメラにしては……不細工ですね」

 

 一花の言葉に真一さんとシャーロットさんが答える。敵は胴体は牛、頭は猛獣……獅子? みたいな外見のモンスターが一体にサソリが2体。頭脳担当3名がもし敵の正体を判明出来れば多少は身構えられるんだが、分からないんならしょうがない。とりあえずはオーソドックスな戦法で行こう。

 

「じゃ、行ってきます」

「おう、アンチグラヴィティは打ち込んどくから安心してくれ」

「了解でっす」

 

 返事と共に天井に糸を張り付けて跳躍。部屋に入った瞬間にサソリが魔法を放ったようだが背後から援護として飛んできたアンチグラヴィティが相殺したのだろう。何事もなく天井にたどり着くことが出来た。そのまま両足を天井に付着させて上空から蜘蛛の糸を乱れ撃ち、糸に絡まって動けなくなったサソリと牛? に連続でサンダーボルトが撃ち込まれる。

 

 流石に牛はサソリ程アッサリ倒せなかったが、フリーズで機動力が殺されているせいでほぼカモ状態になっており、最後には恭二の2発目のフリーズでそのまま氷漬けになって消滅した。ドロップ品はある意味予想通りの角だ。

 

「……弱くね?」

「違う。サソリを無効化できなかったらこいつに全員ひき殺されてたかもしれん。相手の戦法を完全に封じたこちらの作戦勝ちだ」

 

 思わず、と言った様子で呟いた恭二の言葉を否定して真一さんがそう結論を下した。要は相手がやりたい事を逐一こちらが潰した結果であって、もしこれが上手くいっていなければ一人二人ぶっ飛ばされてた可能性はあるわけだ。この巨体に轢き飛ばされたらバリアがあるとはいえ無事に済むかはちょっと分からんな。

 

 遠距離攻撃があるわけでもなさそうなので牛は対応可、という事で階層を進めて34層。恭二のテンションはダダ上がりである。

 

「流石にこの層をクリアしたら帰るぞ。この角も調べなければならんからな」

「……あい」

「お前……」

 

 真一さんの制止に途端にやる気を失う恭二という男。いや、こういう奴だって知ってたが。

 

「とりあえず角のサンプルは少し欲しいから適当に3、4匹狩ってからボス部屋に行こう。この階層を詳しく調べるのは次回だな」

「オーケー、なら次は私がメインで行くわね」

 

 真一さんの指示に従い沙織ちゃんがセンターに出る。各自の戦闘経験って意味でも今回の敵はある意味楽だ。タフさは厄介だがその分色々試せるしね。

 

 結局ボス部屋まで行く途中で折良く5回の戦闘を行う事が出来た。それぞれが一度ずつメインを張って戦う事が出来たしある程度のパターンも分かったので、この牛の相手はもうそれほど苦労はしないだろう。

 

 という訳で本日のメインディッシュの時間である。

 

「また牛……だけどこいつはすげぇや」

「有名人来ちゃったねー」

 

 牛の頭を負った2m以上はある巨体の男を前に真一さんと一花が場違いな感想を述べる。まぁ、うん。言いたいのは分かる。いつか来るだろうなとは思ってたけどここで来るか、ミノタウロス。いや、日本だと牛頭馬頭の牛頭かな?

 

 ミノタウロスは巨大なその牛頭がすっぽり隠れるようなサイズの幅広で無骨な斧を右手でブルンブルンと振り回しこちらにやる気をアピールしてくる。ボディビルダーみたいな筋肉が腕の動きに合わせて盛り上がったりしていて傍から見る分には面白いんだが、あれを叩きつけられたらバリアがあっても怖いな。

 

「というわけで一郎、フリーズが効かない時は頼んだ」

「了解っす」

 

 一先ずはここまでの鉄板戦術が通用するかを試すため、フリーズで全体の動きを止めた後に一斉砲撃という道筋を立てて作戦会議は終了。「あ、もういいの?」的な表情でこちらを見ていた牛頭にお待たせ、と手を上げる。こいつ随分と表情豊かだな。

 

『ブモォオオオオオ!』

「おっとやらせないよ! FREEZE!」

「一花、それ違う奴。フリーズ!」

 

 それぞれがミノタウロスや御付きに出てきた牛? にフリーズをかける……が。

 牛は問題なく封じられたがあの牛頭、フリーズをレジストしやがった。大分対魔力が高いらしい。かといってあの筋肉だるま相手に接近戦はやりたくない。という訳で早速蜘蛛の糸に絡まってもらうとしよう。

 

 最近映画とかで発想を得た時限式蜘蛛の巣爆弾も駆使してミノの進路に配置し、右手から糸を連射。一発二発はレジストしても数には抗えまい。案の定、暫くしたら牛頭はレジストしきれずに蜘蛛の糸に絡めとられてその場に倒れ伏す事になる。

 

「お前……容赦ねぇな」

「いや、止めにサンダーボルト撃ちまくってる奴が言うなよ。お前のが容赦ないわ」

 

 恭二が眉を顰めてそう口にするが、封じただけの俺より明らかにオーバーキルって位魔法打ち込むお前のが傍から見たら怖いぞ。というかレールガンはどうしたレールガンは。

 

「いや、サンダーボルト何発で倒せるかの実験的な」

「……ああ、確かに他の人には必要だわな」

「そうだろ? 今思いついたけど」

 

 もっともらしい言葉を言い放った口に蜘蛛の巣を放ち、オーバーキルされてあっという間に煙になった牛頭の居た辺りへと向かう。ドロップは予想通り斧、か。持ってみるがストレングスなしだと振るえない重さだ。

 

「おし、じゃあ今回はここで終了だな」

 

 真一さんの指示に頷き、俺達はボス部屋から出て元来た道を戻る。しかし、あの牛、妙に表情豊かだったな。蜘蛛の巣を数発無効化してたし、ごり押しは有効だったみたいだが……少し検証してみた方が良いか。まぁ、まずは家に帰って腹いっぱい飯を食ってからだ。牛を見たし今日は牛肉だな。


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