色々突っ込まれてて長いです。普段の倍くらい。
誤字修正。244様、薊(tbistle)様、kuzuchi様ありがとうございます!
「良いかい一郎君、これはね、人類史に残る革命的な発明なんだよ。人類はついに重力を克服したんだ」
「あ、はい」
「反応が小さい!」
いや、どないせいっちゅーねん。
「それで、俺は今回何をすれば良いんですか?」
「うむ。君の発明したウェブシューターは非常に素晴らしい発明だ。魔力を持つ人なら誰でも強靭で柔軟性のある蜘蛛糸を発射できる。この誰でも、というのが素晴らしい。君の蜘蛛糸には前々から目をつけて居たんだが、このウェブシューターのお陰でわざわざ君にご足労を願う必要がなくなったのだからな。加えてじっくり試させて貰ったがこの糸の性質が素晴らしい! 強靭さと柔軟性が良いんだ、このバランスが良い。しかも使用後に魔力を切れば少しづつ消えていくという環境に配慮した設計も素晴らしい。ある種この蜘蛛糸こそ」
「先輩さん、先輩さん」
「失敬」
一声かけるとすぐに眼鏡をくいっと持ち上げて先輩さんは正気に戻る。まぁ、こういう人なんだこの人。同じような経緯で働いてることもあってアメリカの変人兄ちゃんとも意気投合してるらしいから、この人も純度の高い変な人なんだろうな。
今日はヤマギシ第二の暗部と名高い開発室に朝から呼ばれている。暇なのかって? その通りだ。諸事情あって今凄い暇なんだよ。
臨時冒険者に関しては全ダンジョンできっちりシフトを組んで行えるようになったし、ならもっと深くのダンジョンに行こうと思っても真一さんも恭二も凄く忙しい状況なんだ。
実は二人とも暫く奥多摩から離れる事になっちまってな。というのも、恭二の目の事が原因で宮内庁からの依頼が来てしまったのだ。恭二は当事者、真一さんはヤマギシの代表として。あとは付き人みたいな感覚で沙織ちゃんも恭二に着いて行ってしまった。
あの3人はここ1、2週間ほど全国津々浦々を巡っており、各地にある遺跡や古物を鑑定眼で見る作業を行っているらしい。
守秘義務的な事で余り詳しくは語れないそうなのだがまだ始まったばかりの調査でも結構な発見が重ねられているらしく、偶に恭二から連絡が来る時は大概「日本ヤバい」から言葉が始まる。
何がヤバいのかは答えられないらしいのだが、正直物凄く気になるのでついていけばよかったと心の底から後悔している。
「いや、一郎君まで離れたら不味いでしょう」
「そうですかね? シャーロットさんも一花も居るし、御神苗さんやデヴィッドももう十分超一流の冒険者ですよ」
「君か恭二君のどちらかが即応できるってのはやっぱり安心感が違うからね。どちらも長期で出かけるとなるとやっぱり不安の声は出ると思うよ」
カチャカチャと機械のセッティングを続けながら先輩氏はそう語る。この人も実は2種免許持ちの冒険者なんだよな。というかヤマギシの幹部扱いの人で2種未満の人は居ないんだ。社長も、うちや下原さん家も全員2種以上持ってるし、社長なんかあれで教官免許保持者である。
魔法の才能は遺伝が結構デカイみたいで、真一さんや恭二の親ってだけあって物凄くセンスのある人なんだよな、社長。ブラス家も兄妹はケイティに似て凄くセンスがあったし。
その点我が鈴木家は一家揃ってセンスがあんまりないので、一花式ブートキャンプで無理くり魔法を覚え込む羽目になった。一花があんなに教導をやり辛そうにしてたのは後にも先にもあれだけだったな。
それと先輩氏が言ってる不安の声というのは、今のヤマギシの立ち位置というか日本冒険者協会におけるヤマギシの立場が大きく影響している。
ちょっと長くなる話なんだが、前回の教官合宿で日本の全ダンジョンにある程度の教官免許持ちの冒険者が増え、現在日本中の1種、2種免許持ちの冒険者はどんどん数を増やしている。
この冒険者の総数が増えた事で各地のダンジョンでは無理なく臨時冒険者への対応が出来るようになったり、これまでほぼ一人でダンジョンの育成計画を切り盛りしていた昭夫君やネズ吉さん、そもそも教官免許持ちが居なかった他のダンジョンなどにも教官免許保持者が赴任し始めた。
これによって人材不足という面では確かにかなり解消できたのだが、今度は前々から予想されていた別の問題が表面化してきた。
冒険者の数が急増したことによりダンジョン内部に入る人間、特に5層以降へ足を踏み入れる人間の数が一気に増えた為、何か事故が起きた際に対応できる人間が限られてしまうのだ。
「まぁ、勝手に頼りにされてる君からすれば業腹だろうがね。よし、これに乗ってみてくれ」
「仕方ないでしょう。他に出来る人も居ないんですし、名前だけはやたらと有名ですからね、俺。おお、結構安定してますね」
現在、各ダンジョンでは入口の受付で何階層まで潜るのかある程度の制限がかけられる。例えば2種冒険者とはいえいきなり2、3層と続けて新階層への突入は出来ないようにしてあったりする。レベル11ならば12層まで。レベル12なら13層までといった具合にだ。違反した場合は入場停止などの罰則もある。
これはいきなり高レベルの敵と遭遇する危険を減らすと共に、ダンジョン内部での遭難等の危険を減らすための制度だが、とは言えダンジョン内部には別に監視などがあるわけではなく潜ろうと思えばどこまでも行けてしまう。
一応5層から6層への階段の所には朝9時から夜9時まで交代制で見張りの冒険者が居るが、彼らはあくまでも見張り。臨時冒険者や1種冒険者しか居ないようなPTならそこで止めるがそれ以上の冒険者免許持ちは通る事が出来るので、そこ以降は各自の判断という物になってしまう。
勿論基本装備として渡されているカメラ付きのヘルメットは装備を義務付けられており、このカメラに受付から渡されたSDカードを入れて冒険者は潜る事になる。後でバレる事になるのは皆分かっているのだが、どんな業種にもズルい奴や抜け道を見つけようとする奴は居る。SDを壊したり攻撃された振りをしてヘルメットを捨てたり、という事例は実はすでに何件か報告が入ってきているのだ。
とは言えそんな連中でも、ダンジョン内部で人死にを出す事は避けたいというのが冒険者協会の偽らざる本音だ。
そんな状況で日本冒険者協会がまずとった方策は各ダンジョン内での巡回班の創設。有体に言えばダンジョン内部の自警団を組織した。それも各ダンジョン毎に。
警察にもダンジョン担当の冒険者免許持ちの人は居る。だが、彼らはあくまでも犯罪捜査の為の人員で、常にダンジョン内部に常駐する訳ではない。当然ダンジョン内部の治安維持の為には、常にダンジョン内部に張り付いている治安維持組織が必要になるわけだ。
そして、そんな巡回班には勿論そのダンジョンの教官免許持ちと2種冒険者が所属しているわけなので大概の問題は彼らで解決できるのだが、米軍が公表したかつてのダンジョン内での事故は未だに苦い経験としてダンジョン関係者の間では語られている。その為、冒険者協会としてはその上で更に一つセーフティーを用意する事にした。
それが緊急時における日本最高の冒険者たちによる救助支援、通称ヤマギシコールである。
「その為だけに協会から貰った新型の長距離移動用ヘリが上にあるんだっけ」
「しかも最新機器をガンガン使った特注品らしいっすね。一度乗りましたけどやたらと早かったです」
「だろうねぇ。あれ北海道も九州も無補給で行けるんでしょ? おし、じゃあ飛んでみて」
「はい」
この日本冒険者協会の動きは世界冒険者協会側でもかなり注目されており、危機管理のテストケースとして用いられているらしい。一時期は軍用ヘリを、と言われていたらしいが流石にそれは不味いという事で、民間でも一番航続距離に優れたヘリを用意してくれたそうだ。
各ダンジョンにある日本冒険者協会支部には奥多摩への直通の電話が設置され、これが一度鳴ればその瞬間にスクランブル。奥多摩に詰めているヤマギシチームのメンバーでチームを組み問題が起きたダンジョンへ向かう事になっている。まぁ、設置してから1、2か月経つが一度もなった事のない代物だがね。
「あ、これエアコントロールを使ってるんですね」
「ああ。空気調整が出来るって事はある程度の風量も調節できるって事だからね。これで速度を出して、着地の際は」
先輩さんがグッグッと手を握る動作をしたのでハンドルについているブレーキらしきものを握りしめる。
すると恐らく逆風が吹いているのだろう、急激に俺が乗っている乗り物の速度が落ちていき、止まった後にプシャァ、と乗り物の下部から白い糸の様な物が噴出して乗り物と地面を繋ぎとめる。
「ON/OFFが複雑になりすぎたからね。そいつは魔力が続く限り浮かびっぱなしなんだが、その際にウェブを錨の代わりにしているんだ。それに緊急時のスイッチを押せば全方位にウェブを発射して強制的に止まるようにもなっている。非常に安全に気を遣った設計の代物だよ」
「おぉ、すげぇ」
「無重力ビークルって所かな。乗り心地はどうだった?」
「凄く安定してましたね。乗り込んだ時はどうなるかと思いましたが」
「重量の安定にはかなり気を遣っている。こいつは実は見た目よりもかなり重いんだよ」
俺の言葉に気を良くしたように先輩氏は語って、ポンポンと先程まで俺が乗っていた無重力ビークルを軽く叩いた。確かにこれは世界の乗り物業界に革命を起こす代物になるかもしれない。
「まぁ、今はかなり魔力が潤沢な状態じゃなきゃ使えないんだがね。ダンジョン内とか」
「魔力電池の需要がまた上がりますね……」
「うん。あ、魔力切れた」
先輩の言葉と共にドガン、と凄い音を立てて無重力ビークルが金属製の床に落ちる。床が補強されてるのはこれが理由か。
成程、確かにこれは重い。そしてまだこれは実験段階だなぁということも確信する。さっきたっぷり魔力を込めてまだ20分も経ってないからなぁ……こいつは先が長そうだ。
流石に疲れたので明日は短めの予定です。