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誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございます!
無重力バイクの目処が立ったという報告は、機体の共同開発元である某バイク会社と一緒に記者会見で行われた。と言っても現状は魔力満タンの状態でも一時間も持たない凄まじい魔力食い虫な訳で、まだまだ商品化のレベルではない。
だが、この発表はエンジンを持たずに魔法だけで動く車両が実現したという、その報告の為だけに行われた。それが世界の常識を一変してしまうとヤマギシも某バイク会社も確信していたからだ。
「なるほどぉ。エアコントロールの機能を持った端末を増やして風力を強化するんだ。先輩さん考えたね。まだまだ改良点は多いけど」
「曲がるのがクソ難しいんだよなぁ、今のままだと」
一花がノロノロと無重力ビークル、便宜上の名称としてはフロートバイクと名付けられた試験機を動かしながら感想を述べる。先輩さんも一花の言葉に素直に頷いている。彼をしても中々改善できない問題点であるのだろう。
このフロートバイクはそもそも地面と接していない為、現状移動や姿勢制御の全てをエアコントロールに頼っている。エアコントロールの性質上強風などにも影響を受けずに済むが、やはり元々空気調節の為の魔法だ。
どんなに強化しても出力自体はそこまで強くないので、バイクと名付けてはいるが速度はママチャリくらいかな、という程度。この間の魔法の畳よりは大分早いが、やはりもう少し速度は欲しい所ではある。
現状はエアコントロールと並行して、恭二に風の魔法でも開発してもらってそれをアクセルとブレーキに、エアコントロールを完全に姿勢制御用に扱おうかという方向で纏まっているのだが、そうすると今度は曲がれないという問題も出てくる。
いや、曲がれないというよりもかなり大きく回り込むことになる、か。カーブにも風の魔法を使うと考えると今度は姿勢制御用のエアコントロールに影響を与えかねないそうだ。調節も難しくなるだろうし、この部分が解決すれば開発も一気に進むそうなんだが。
「空飛ぶ鉄男方式は駄目なの? エアコントロールの端末を一気に増やしてさ。各方面からの調節して姿勢制御するの。前に進む時は幾つかの端末を進行方向とは逆にして速度も確保!」
「ジャービスがないと調節が無理。処理しきれない」
「ミギーくんなら?」
「それだ!」
「それだじゃないです」
結局解決にならないじゃねぇか。でもコンピューターで姿勢制御ってのは良い案だと思う。戦闘機とかの技術にそういうのがありそうなんだけど、一度ブラス家にも頼ってみた方が良いかもしれないな。
等と考えていたのがいけなかったのか。
『やぁ、イチロー。いきなりの招待ですまないな』
『いや、別に良いけどさ。ジョンおじさん』
横田基地司令のジョナサン・ニールズ大佐に丁重な招待状を貰った俺と先輩さんは、久方ぶりにやってきた横田基地の司令室でのんびりとお茶を楽しんでいた。
「い、いいいい一郎君、そ、そそそれでこんかいは」
「先輩、翻訳。翻訳使いましょう」
訂正。一部全然のんびりできてないな。というか落ち着きましょうよ先輩。別に取って食われるわけじゃありませんから。
『それで、今回はどんなご用件で? お願いしている事は特になかった筈ですが。あ、お茶会のご招待って意味なら喜んで。最近暇してたんで』
『ああ、それはいい。今度タローを誘って山中でキャンピングと行こうじゃないか! まぁ、今回はちょっと違うんだがね。これは政府筋から頼まれた件で。電話で話すにはちと……出来れば実務担当のミス・オガワも居てくれた方が助かったんだが』
シャーロットさん、今日は冒険者協会の用事で都心から離れられないんだよなぁ。あ、太郎ってのはうちのじいちゃんね。
ジョンおじさんは狩猟が趣味で、うちの爺さんは本職の猟師だ。この二人、予想以上に馬があったらしく、休日にはプライベートで奥多摩に来ているジョンおじさんを見る事も珍しくない。
その関係なら話は早いかなぁと思っていたのだが、おじさんの表情を見るにどうやらそうは上手くいかないみたいだな。
『まぁ、これは君たちの会社にも正式に連絡をすることになるとは思うのだが……君たちの開発したフロートバイク、開発に米軍も噛ませてほしいんだ』
『ひへっ!?』
『……成程?』
先輩さんの驚愕の声を聞きながら、右手をライダーマンに切り替える。物が物だけに米軍からも何かしらの反応は来ると思っていたが、予想以上に真っ直ぐ突っ込んできたなぁ。
『わかりました。詳しくお話を伺いましょう』
椅子に座り直し、ニールズ大佐の目を真っ直ぐと見る。その様子に驚いたような顔を浮かべた大佐は、ジョンおじさんの顔からジョナサン・ニールズ大佐の表情へと切り替わった。
これはちょっと気合入れて交渉しないといけないかもしれないな……流石に兵器開発までは責任取り切れん。