誤字修正。アンヘル☆様、KUKA様、244様ありがとうございました!
『うめぇ』
『うめぇ』
『ご満足頂けましたか?』
テーブルマナーに四苦八苦しながらも魚を切り分けてパクりと口に入れると、蕩けるほどの旨味が口の中を駆け巡る。フランス料理は別格ってよく聞くけど確かに凄いわ。兄妹共々感想がさっきからうめぇしか出てこない。
ファビアンさんはそんな俺達の様子に苦笑しながら優雅にナイフとフォークを使って食事を進める。俺達よりもゆったりとした動きなのに全然無駄が無くてさくさくと食べ続けてる姿は流石は本場の住人って所だろうか。
『いやーごめんね! 支払い任せちゃって』
『いえいえ。マスターとイチローさんの役に立ったなら本望です。ああ、君、支払いは私の家に回してくれ』
ふぁさっと前髪をかき上げ、ファビアンさんが給仕の人にそう伝える。ここはファビアンさん一家行きつけのお店らしく、こういった対応も可能らしい。手ぶらで大丈夫って満面の笑みで言われた時はどうするのかと思ったが、流石は名士って所だろうな。
現在、俺と一花はファビアンさんの実家にお邪魔させてもらっている。フランス国際映画祭の日にちまではどこぞのホテルに泊まろうと思っていたのだが、『水臭い事は言わないでいただきたい』といつもの自信満々な口調で連絡を入れてきて、あれよあれよという間に俺達兄妹に監督の3名が泊まらせてもらう事になった。一人足りない? そっちも無事にフランスに入っている。
『所で、その。シショーは本当にカミーユの所に?』
『うん。カミーユさん所の実家の道場で暫く稽古をつけるって』
一花の返答に安堵の吐息を吐くファビアンさん。そういえば空手と柔道をたった2ヶ月で叩きこまれた組の人だったね、ファビアンさん。フェンシングを習得していたから体の動かし方が分からないって訳じゃなかったんだけど、筋が良いからって良くしごかれてたっけ。
因みに同じフランス代表だったカミーユさんの方は昭夫君と同じく愛弟子扱いで、本人も空手道場の跡取りって事もあってか非常に積極的に初代様の稽古を受けていた一人だ。昭夫君が日本の愛弟子なら彼女は欧州の愛弟子って所だろうか。流派は違うらしいけど。
『ま、まぁシショーがいらっしゃらないのは仕方ないとして』
『何なら今から呼んでも』
『やめていただきたい』
無表情でこちらを見るファビアンさんに思わず頭を下げる。本当にトラウマになってるんじゃないかこれ。
さて、一頻り美食を堪能した後はお仕事の時間だ。今回、俺と一花の二人が欧州に渡ってきたのは、主目的としてはライダー映画がカンヌの方で行われる映画祭に出展して、それがどうも賞を貰えそうだからと呼ばれたのが一つ。今回は規模の大きな祭典なんで、他の出演者も続々入国予定である。
それとまた別件として。これはヤマギシの方でのお仕事なんだが。
『初めましてイチロー・スズキさん。ファビアンから噂はお聞きしています』
『初めまして。鈴木一郎です、よろしくお願いします』
『初めまして、鈴木一花です!』
ファビアンさんの親族だという彼はマクシムさん。フランスの冒険者協会の幹部の一人で、ファビアンさんは彼の推薦で冒険者となり日本での教官訓練に参加したらしい。
『ファビアンは少し調子に乗りやすい所があるが責任感のある立派な若者だ。リーダーに相応しいと判断して日本へ行ってもらったのだが、大正解だったよ』
『叔父さん、少し恥ずかしいですよ』
推薦した私の鼻も高いと自慢気に話す彼の言葉に、前髪をふぁさっとかき上げてファビアンさんが恥じらいの言葉を放つ。血縁関係はもう少し遠いらしいが行動や外見から「親族だなぁ」と何故か確信を持つことが出来た。自信満々なのと前髪が長いのがフランス名門の方々の特徴なんだろうか。
まぁ、ファビアンさんが冒険者として優れているのは間違いない。個人としての評価はアメリカのブラス兄妹に劣っているが、協会、及びフランス国内の冒険者への貢献度という意味ならファビアンさんは間違いなく素晴らしいリーダーだ。
最初の内は国内に5人しかいない教官免許持ち冒険者のリーダーとして各地の冒険者へ指導を行い、一花の件で行ったデモ活動などを通じて世間的な認知を得ると今度は国内の冒険者のあり方について政府と協議。
『誰からも愛され尊敬される、勇気ある冒険者』をテーマにしたフランス冒険者心得という物を作ってある種の騎士道精神的な物をフランスの冒険者に根付かせようと日々努力しているらしい。
一流の冒険者は主力戦車に匹敵するとまで言われている。それだけの力がある存在が理念も何もなく無秩序に存在するのは危険であると彼は考えたわけだ。
『素晴らしいと思います。日本では正にそれによって事件が起きたわけですから』
『デモは驚いたけど、嬉しかったよ。ありがと!』
『……いえ、その。教官方に、そう言って頂けると……ありがたいです。私は、自分の信念に従って行動したまでで、その』
真っ直ぐ褒められて少し照れ臭そうにするファビアンさんに、一花が「愛い奴め、このこのー」とウザがらみを始める。偶にこの人凄いギャップがあるんだよな。別にキャラ作ってる訳じゃないんだろうけど、素のファビアンさんは凄く純朴な人なのかもしれない。
微笑ましく思いながら、俺は同じくその様子を苦笑しながら眺めるマクシムさんに顔を向ける。
『それで、件のお話なんですが』
『ああ……フランス冒険者協会としても大変ありがたい申し出だからね。やはり冒険者が稼ぎ出した物品を金銭に変えるシステムは国内になければどうしてもね』
『わかります。輸送だなんだで出費が大きくなる以上、避けられないでしょうね』
特に魔石関連は処理できる場所が限られているからな。現状はそのまま地産地消しているが、ある程度以上魔力持ちが増えた後を見据えると消費先が魔力電池への補充用だけになるのは免れない。そうなったら日本やアメリカへ輸送しなければならず、採算性が著しく悪くなる。
その事を懸念していたヨーロッパ各国の冒険者協会からの要請で、俺は前乗りする形でフランスにやってきた。
『ヤマギシかブラスコの魔力電池工場をヨーロッパに。出来れば数か所は欲しい』
マクシムさんの言葉に俺は頷きを返して、持参した現状のプランを纏めた書類を彼に手渡した。