ヨーロッパでの仮面ライダー人気は残念ながら低いと言わざるを得ない。というよりも日本の実写ヒーロー物はあんまり欧米では人気が無い。やっぱりどこの国もヒーローをやるなら自分たちと似たような人が良いって事か何かなのか。これがアジア圏なら絶大な人気なんだがね。
まぁ、そんなヒーロー実写モノは、やっぱりというか世界各国色々な国に独自の物として存在したりするから需要自体はとても大きいものなんだ。そして、その需要に対して国家の壁を作品の質で突破した稀有な例として蝙蝠男やスパイダーマン、復讐者達といったアメコミ系の映画が存在する。
そんなほぼ1強状態のヒーロー物ジャンルに、待ったをかけた存在が昨年登場する。
ご存知我らがライダーである。
レッドカーペット前。数多のスター達の訪れを心待ちにしている面々の前に黒塗りのリムジンが乗り付ける。予定時刻よりもかなり早い時間。会場前で待機していた報道関係者やパパラッチ達は今年の会場一番乗りは誰かと囁き合い彼らのボルテージが上がる中、ゆっくりとした動作でドアが開かれる。
『……え?』
『イチカ・スズキ? 何故?』
最初に聞こえたのは困惑の声だった。ドアを開けて降り立った少女はとても高い知名度を誇る人物だったのは間違いない。何せあのイチロー・スズキの妹なのだから。だが、彼女は女優ではない。困惑の中彼女に対してカメラを向けフラッシュが焚かれる中、レッドカーペットに向かわずに後ろを向き立ち止まる彼女の姿に困惑の声は広がっていく。
そんな困惑した空気が流れている会場前に、ブオン、とエンジンをふかせて3台のバイクが現れた。会場前に乗り付けた3台のバイクの搭乗者はバイクを停車すると、駆け寄ってきたスーツを着た警備員に何事かを伝えて、バイクを任せてレッドカーペット前で待つイチカ・スズキの元へと向かう。
彼らの姿を見た時、欧米出身のとあるパパラッチは一瞬彼らが何なのか分からなかった。緑色の装甲を付けたバトルアーマー。それが彼が最初に思い描いた解答だ。後の二人は、青を基調としたヘルメットを被った同じようなバトルスーツを身に着けた青年らしき人物と、ドクロのマークがペイントされたヘルメットと黒いライダージャケットに身を包んだ人物。こちらはどこかで見覚えのある姿だったので、昨年の新作映画の登場人物だったかと彼は自身の頭の中を模索する。
自分の周りの人間の反応を見ようと思い彼は周囲を見回した。すると欧米関連の報道関係者は皆一様に戸惑ったような反応を返しているが、アジア圏、とりわけモヒカンの様なヘアスタイルの小太りの男が狂ったように「仮面ライダー! 仮面ライダーがいる!」と大きな声で叫んでいる。
『仮面……ライダー?』
パパラッチの男は歓声と困惑が入り混じった声の中、自身に向けられた声に右手を上げて返すバトルアーマーを着た男達の姿を捉える。この写真は金になる。彼の中のパパラッチとしての直感がそう言っていたからだ。
そして、声援に答えながらレッドカーペットへと向かう彼等の前に数名の係員らしき人物が立ちふさがる。写真を撮りながら彼は「ドレスコードで引っかかったのか」と苦笑を浮かべる。この姿も撮影しておこうと、パシャリパシャリとシャッターを切りながらファインダー越しに彼らを見ていると、緑色のバトルアーマーを着た男が右手を持ち上げて指を弾くように親指と中指を合わせるのが目に入った。
パチリと、騒がしい会場だというのに何故か響き渡ったフィンガースナップの音の後。その場には先程まで居たバトルアーマーを着た男たちは居らず。見事な出来栄えのスーツに身を包んだ精悍な顔立ちの青年……と、若干幼さの残る顔立ちの少年。そして……世界一有名な冒険者の姿がそこに現れた。
一拍の静寂の後。会場前は火山が噴火したかのような歓声と熱狂に包まれる事となる。
『ストーリーとしてはシンプルだ。悪の組織に改造された主人公が悪と戦い続け、そして40年の歳月が過ぎ。老朽化した体を引きずり尚も戦う主人公と彼を取り巻く仲間達。受け継がれていく正義へ掛ける魂の物語』
『シンプルな背景ではあるが中身は凄まじい。魔法という新たな技術を惜し気もなく投入し、最高のリアリティを観客に提供してくれている。アクションシーンの見ごたえは言葉に言い表せられないよ。あれこそが殺陣の神髄だろう』
残念なことに最高賞であるパルムドールは逃してしまったが、作品はグランプリを受賞し、初代様は審査員賞を受賞した。という訳で監督や初代様、昭夫君と並んで会場入りするも、相変わらず凄い場違い感がある。
何名か復讐者達で共演した俳優達とも顔を合わせたんだが、6月の上映まではあくまで初対面、という振りをしなければいけないので軽く挨拶を交わしたくらいでとどまった。
まぁ、さっきから復讐者グループの方で頻繁に「イチローがまたやった!」とか文章とさっきの写メが飛び交ってるから、多分後で電話がガンガン来そうな気はするけど。
いや、欧米だとどうしてもライダーの知名度が低いからさ。ちょっとした話題作りは必要かなって監督が言い始めたんだよね。
一緒に会場に来た一花は先に会場に入っていたファビアンさんと関係者席の方へ行き、二人で楽しくカメラに映る俺達を見るとの事で入口で別れた。のだが、会場内へ入ったらなぜかカメラをもった人々に囲まれているようだった。
眉を寄せたその顔に不覚にも少し笑ってしまったが、その様子が見られていたのか更に不機嫌そうに頬を膨らませている。後で助けてやらないと拗ねられちまいそうだな。
まぁ、今はそれよりも監督と初代様に拍手を送らないとな。お世話になった二人が国際的に認められるってのは、やっぱり嬉しいや。