映画の一号では変身はしてないんですが、そこはスルーという事でお願いします。使いたかったんです(震え声)
誤字修正。244様有難うございます!
何か予想以上にライダーの知名度が弾けたらしい。映画祭と並行して行われてる映画見本市では、殺到といった様子でライダーの上映権を全世界のバイヤーが求めて日夜交渉を戦わせていたらしい。
先日行われた会場入りの際の映像は瞬く間に世界中に広まった。また、とある運のいいカメラマンが撮影した、フィンガースナップの前とその後の画像は世界中の新聞社にフランス国際映画祭の今年の目玉として取り上げられた。
ライダーの知名度を引き上げるという意味では大成功と言えるだろう。その夜にスタンさんからの2時間に及ぶ「ズルいズルいズルい」という抗議の電話と、復讐者達のグループからのからかい半分に送られてきた大量の祝福メッセージは少し困ったが、まぁ必要経費って所だろうな。
次の日には仕事の関係で遅れてきた幽霊君やお化け君達、それに地獄大使さんも合流し、そこからは各国の報道関係者から申し込まれた取材に答える日々だ。
『グランプリ受賞、おめでとうございます!』
『有難うございます』
『これも応援してくれているファンの皆さんのお陰です』
中央に座る監督と初代様が無難な言い回しで取材陣の質問に答える。配置としては中央に監督とそれを囲むように主演の初代様と敵役の地獄大使さん、正規のライダーである幽霊君とお化け君。そして外側に俺と昭夫君が座る形だ。勿論ライダースーツではなく素顔で。
といっても俺は厳密には素顔では無いんだが。
『あ、あの。彼はイチロー・スズキ……のお兄さんでしょうか?』
『いえ、彼はイチロー君で間違いありません。劇中の年齢に合わせて変身しているんです』
そう。作中だと俺は20代後半位に合わせて変身してるから取材もこの姿で受けているのだ。ライダー映画に出る時は恐らくこちらが主になるだろうからって事でこの姿で取材を受けている。
一応この説明を受けたら変身を解除するようにしているのだが、その瞬間に焚かれるフラッシュが凄くて少し困る。
まぁ、そんな努力もあってか今回の国際映画祭では下手すると最高賞の作品よりも注目度が高く、街中をぶらっと歩くと行く先々で変身をせがまれたりする。
特に登場ライダー5名全員での変身はどの国の報道関係者にも大ウケだ。その時々で変身を行う順番を変えたり、一花が居る時は発光エフェクトをライトの魔法で行ったり手を変え品を変え変身を行ったりして同じ変身シーンにならないよう工夫している。
更に希望が多かったので実際の手合わせを見せたり……まぁこの場合は流石に殆ど一般人の地獄大使さんに無茶をさせる訳にはいかず、大体初代様のフィーバーに対処できる俺か昭夫君で初代様との組手になるんだが、これが想像以上にフランスの人の心を掴んだらしい。
気持ちはわかる。この面子だとそれぞれストレングスやウェイトロスは当たり前。バリアがあるのと、専用に借りた広場だからって事で好き放題暴れ回ったもんだから、一般人には改造人間同士の戦いにしか見えなかっただろう。昭夫君の役割はちょっと違うんだが、元になった人をリスペクトすれば超人になるから仕方ない。
特に最近の初代様はデフォでパンチやキックに電光が走ったりするから、新型スーツのガチっとした姿と相まってヨーロッパの子供達に大人気らしい。
また、公開されている実年齢と見た目との余りの違いに「彼は本当に改造人間なのでは」という話も実しやかに囁かれているそうだ。
「一郎君、私にも変身の魔法を教えてくれないか?」
「いやぁ、せめて何度かダンジョン入ってからじゃないと……」
自身も変身が出来るのだろうとせがまれる事が多くなった地獄大使さんが、どんよりとした表情でそう尋ねてくる。現地の子供なんかが「ジゴータイ! ジゴータイ」と言って指さしてくるのに何のリアクションも取れないのが結構堪えているらしい。嬉しそうにこちらを見る子供の顔が悲しそうに変わるのが非常に堪えるらしい。
「ダンジョンかぁ……それは確かに難しいなぁ。今の状況でこの地を離れるのは難しいだろうし」
「いえ、そうかダンジョンか。その手がありましたね」
そう。カンヌに居る内に一度は行こうと思っていた場所がある。これはもしかしたらある種の好機かもしれないな。地獄大使さんに許可を取って席を立ち、スパイダーマンへ変形してから携帯を取り出してマクシムさんに連絡を取る。上手くいけばフランス冒険者協会の後押しにもなる筈だ。
『もしもし、マクシムさんですか? はい、イチローです。少し相談したい事がありまして……』
国際映画祭のあるカンヌの沖合にはサントマルグリット島という島がある。この島はサント=マルグリット砦というかつての要塞跡があり、その中の牢獄には色々な憶測が飛び交う人物、鉄仮面の男も収容されていたことがあるらしい。この要塞跡の一部は現在博物館になっていて、この辺りに観光に来た時はぜひ一度は寄った方が良い観光スポットらしい。
とはいえ今回俺達は観光で来たわけじゃないんだがな。
「武器に関してはこの槍を使ってください。基本的には昭夫君と俺でサポートします」
「あ、ああ。わかった」
騒めく取材陣の中を歩きながら、俺と昭夫君は地獄大使さんの両脇を固めるように歩く。今回のパーティー編成は序盤は地獄大使さんをメインに両脇を俺と昭夫君、討ち漏らしは初代様、幽霊君、お化け君が担当する形になる。
サントマルグリット島にはフランス国内に20数か所あるダンジョンの一つがある。といっても離島という立地の為周囲に冒険者用の建物はない。そんな場所に何故俺達が居るのかというと、地獄大使さんの要望に答えつつカンヌから日帰りで行ける、交通の便がいい場所がここ位だったからだ。フランスの冒険者協会からフランスに居る内に是非ダンジョンに挑戦してほしいと頼まれていたので、それを達成するチャンスだというのも理由になる。
あとは、俺自身の息抜きも兼ねてはいるけど、これは口外していない。一花辺りは気づいていると思うけど。まぁ、そういう訳で今日は冒険者協会からの依頼という形でこの島にやって来たわけだ。俺の知名度を活かして開発されていないダンジョンに人を呼び込むという魂胆もあるらしい。ほら、有名人が入ったダンジョンに、というノリでさ。冒険者の数は増えてきているが、今度は一部のダンジョンに固まりすぎる問題が起きてるらしいから。
まぁ、そんな冒険者側の事情でやって来たは良いんだが、まさか取材陣と初代様及び幽霊君、お化け君が居るのは予想外だった。カンヌに監督しか残ってないんだけど大丈夫なんだろうか。
『このダンジョンは最初のアタックで10層まで攻略済。立地の不便さもありここを専門で潜る冒険者も居ない為、臨時冒険者の受け入れも出来ず手付かずのままです。内部モンスターは奥多摩と変化はありませんが、マップが少し異なります』
『ああ、ありがとう。助かったよ』
『いえ、良い宣伝になりますので……お気をつけて』
今回はダンジョンアタックに参加せずこの場を整える事に尽力してくれたファビアンさんに一言礼を言って、振り返る。詰めかけた取材陣に笑顔で手を振ると、こちらに向けてカメラを向ける多数のパパラッチ達の視線が突き刺さる。ああ。ちょっと待ってくれ。流石に何もなしで彼らを返すのも気が引けるので、ちょっとしたパフォーマンスでもしようか。
「一花、頼んだぞ」
「オッケー。じゃあ気を付けていってね?」
ファビアンさんと一緒に待機に回る一花にそう声をかけて、俺達はダンジョン前の鉄格子に立ち――利用者が少ない為、現在は鉄格子によってダンジョン周囲が封印されている。元牢獄のあった場所だけにある意味それっぽい――初代様に目配せを送る。
「うむ。行くぞ。変身!」
初代様の掛け声に合わせて各自が己の変身ポーズをとり、変身を始める。そして最後に。
『ガーラガラガラ……ガラァ!』
喉元を鳴らすように声を上げて地獄大使さんが叫び、ガラガランダへと姿を変える。勿論こっそり変身魔法を唱えたのは一花だ。映画だとあんまりこの姿は無かったんだが、インパクトが強い方が良いという判断で全員が戦闘モードに変更されている。
『よし、行くぞ!』
『『『オウ!』』』
複数のライダー+怪人一人というシュールな光景だが、欧米のヒーローは割と怪人っぽいのも多いから大丈夫だろう。フラッシュの光に後押しされながら初代様を先頭にライダーズはサントマルグリットダンジョンの中へと進んでいった……あ、いや駄目だ初代様、地獄大使さんに経験を積ませないと、初代様! 話を聞いてください!
新入りに良い所を見せようとした方の若干の暴走はあったがそこはそれ。一人以外は20層まで単独でも行ける面子に支えられて地獄大使さんも無事10層突破とゴーレムの魔石吸収も済ませ、十分な魔力量になったと判断して帰還。一花指導の元その次の日には変身魔法だけは身につける事に成功した。
ほとんど徹夜に近い特訓だったのだが、魔力を十分に吸収した地獄大使さんは元気一杯。満面の笑みを浮かべて街中で「ガーラガラガラ」をやり、その周囲がパニックになったのはまた別の話である。いや、ビックリする位魔法版のガラガランダはリアルなんだわ。でも本人は嬉しそうだったから良しとしよう。良しで良いよな?