奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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時間間違えました、ごめんなさい!

誤字修正。244様、アンヘル☆様、ヒロシの腹様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百七十八話 大きすぎた影響

 MAGIC SPIDERのガワを被った復讐者達は世界同時公開として6月に各地の映画館で公開され、世界中が嬉しい悲鳴という名の叫びを上げた。

 

 公開日前の秘密先行上映会では、映画が終わった瞬間に映画関係の重鎮という方々からスタンディングオベーションを受けていたし、多分これは人気出るだろうと思っていたら案の定って所だな。実際、一観客として見た時は本当にワクワクしたし、ドキドキしたし、感動した。

 

 まぁ元々前評判も高かった所に、実際の映画も期待以上だ、騙された、という声が多い。出演者としては大変ありがたいご声援だし嬉しいというのも本音だ……本音なんだが。

 

 流石にここまで忙しくなるとはなぁ。フラッシュの雨を浴びながら、貼り付けた笑顔の下で溜息をつく。

 

『ハナ役を演じてみての感想は?』

『今後のキャリアは。これからは女優として……』

『はい、皆さん質問の時間は終わってますよー』

 

 とある国の式典で、役者への質問をいつまでも行おうとする記者達からハナちゃん役の娘……花ちゃんを庇うように移動する。

 

 そりゃないよMSって言われても、そもそも女の子困らせてんじゃないよ? と返すと周囲の人もそりゃそうだと苦笑を浮かべて謝罪の言葉を花ちゃんに伝えてくる。流石にこういった公式の会見に入ってくる人は礼儀正しいなぁ。

 

「いえ、絶対違うと思います……」

『そう? 割と欧米の記者さんに困らされた事無いけどなぁ』

『なぁMS、今度のイギリスの方の式典も出てくれよ。あのハイエナ共が借りてきた猫みたいじゃないか! 僕は前にあいつらに酷い目に遭わされたから苦手なんだよ』

『本家さんのは自業自得でしょう』

 

 撮影風景の画像流出とかは流石に擁護できないです。これのせいで本家さんの台本は本当に台詞が入ってなくて、彼とのやり取りは全部アドリブになってしまうから苦労させられた。 

 

 でも、お陰で若い世代のノリみたいな物が引き出せたらしく、俺と本家さんの掛け合いは結構評判が良い。戦ってる時以外は「マック行かね?」「良いね。ああ、ポテトは揚げたてじゃないと」「わかる」とかすっごい軽いノリの会話ばっかなんだけど、この軽さが良いらしい。

 

 

 まぁ、そんな評判もあって。あと俺と本家さんが並んでるのはマーブルファンからしたら堪らない位に贅沢なシーンらしいので、この評価を活かして上映している国の式典を時にメンツを変えたりしながら周っていき、7月。

 

 大体20位の国でパシャパシャとフラッシュの雨に打たれた俺は、半分燃え尽きた状態で日本に帰ってきた。取材依頼とかはまだガンガン来てるけど、流石にこれ以上はもう身が持たない。

 

 スタンさんから頼まれていた分よりも多く働いたし、俺とほぼ一緒に回ってた花ちゃんも期末テストを受けに先に帰ってしまって、日本が恋しくなったのもある。

 

 それに、頑張ったお陰で期待以上って評価も定着してきたし、もう良いだろうというかもう無理、とスタンさんに連絡。スタンさんも苦笑しながら労ってくれたので、晴れてお役御免というわけだ。

 

 まぁ、日本に帰って来たら平穏であるとかそんな事は無いんですがね。

 

「歴代売上No.1間違いなしだね!」

「やっぱりマーブルシリーズは人気があるなぁ」

「最近のHOTなネタも取り入れた渾身の一作だからねぇ。ね、お兄ちゃん?」

 

 一花のニヤニヤとした声。言いたい事は分かるし言わせたい事も分かってる。だが、あえて言おう。あれは俺じゃないんだ……ハジメっていう名前のマーブルヒーローの一人なんだ。

 

 外を出歩くだけで取り囲んでくる取材陣からの「ハジメさん、一言お願いします!」「今後のヒーロー活動について!」という頭沸いてるのかって内容の声が耳に入ってくるだけで精神がゴリゴリ削られてるんだよ。

 

 最初の一週間は、しょうがないと我慢した。こうなる事は分かっていたし、覚悟だってしていた。でも、今回は今までの動画シリーズとはまた違うんだよ、向かってくる声の質が。

 

 見知らぬ人から「イチローさん!」とか「イッチ!」とか呼びかけられるのはもう慣れたけど、自分が演じたキャラをあたかも自分自身であるかのように見られるってのは、やっぱり疲れるんだよな。しかも、「あくまでコスプレです」って回答すると逆に喜ばれたりするし。テンプレってなんだ事実だろうが。

 

 今更ながらにヒーローを演じる俳優の辛さってのが分かった気がする。そら迂闊な真似できなくなるわ。一気に作品とヒーローの名前を落としちゃうんだから。初代様、よくこれを40年以上続けられたな。

 

 しかも今回は、普段動画を見ないような層の人なんかも見ちゃう「超話題作」に連続で出てたりするもんだから、奥多摩を歩いてたら明らかに俺のチャンネルなんか見て無さそうな30代くらいの真面目そうな人とか、還暦越えてそうなおじいさんとかの層からも「サインを」って声かけられるようになったんだ。四六時中、地元を歩いていても、ラーメン店でラーメン啜ってても。

 

 お陰でここ数日はずっと変身をしっぱなしだ。そしてどこからか俺が変身して外に出ている事を学習したパパラッチは、ヤマギシから出る男性全員に声をかけるようになってしまい、遂に通常の業務にまで差し支えが出るようになってしまった。これを受けた社長が正式にヤマギシの名前で各報道関係に抗議を出し、多少は沈静化したのだが未だに町を歩く事もままならない状態が続いている。

 

「まぁ、話題続きだったししょうがないんじゃない? もうTVで見ない日はないって位だしね」

「テレビのない所に逃げたい……半年位」

「……しょうがないにゃあ」

 

 窓の外。明らかに出待ちを狙っているパパラッチらしき人影や、懐かしい特撮オタのおっさん達の姿に心荒む俺を見かねてか。一花は仕事以外は完全に引きこもった俺の事を社長に相談し、現状を流石に看過できないと感じたのか。気晴らしにと素晴らしい仕事を用意してくれた。

 

 

 

「という訳でよろしくお願いしますね! ネズ吉さん」

「こ、こちらこそ、へへ……」

 

 俺の言葉にネズ吉さんはにへら、と笑って頭を下げる。それを横目で見ながら、俺は7月の割には随分と涼しい空気の街並みを見る。

 

 やってきたぜ、北海道。待ってろよ、夕張メロン。必ず堪能してやるからな。




花ちゃん:一花の学校での後輩。現役アイドルだが、今回の映画で女優としての名声の方が大きくなり少し複雑。

本家さん:マジで自分が出た映画で流出やらかした人。

ネズ吉さん:北海道の夕張ダンジョンの代表冒険者。日本4人目の特性持ちで以上に探知能力が高い。

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