奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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時間ギリギリに完成。
ちょっと読み直しが普段より足りてないので、アップ段階でもどんどん修正してる可能性があります。なんか急に変わったと思ったらお察しください()

誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございました!


第百七十九話 アサシン

「こう?」

「は、はい……歩き方は、こうが、良さそうです……」

 

 ネズ吉さんの背後から真似するような形でついていく。ここはダンジョン内部ではなく夕張荘の運動施設内だ。冬は完全に辺りが雪に閉ざされる為に完全に空調が行き届いたこの施設の中で、ネズ吉さんの指導を受けたり逆に気付いたことを伝えたりしながら、俺達はアサシンの動き方についてを研究していた。

 

 何故こんなことをしているのかというと、あのダンジョン内部での動きをみたらこれは是が非でも今後の為に取り込むべき技術だと思ったのがまず一つ。実際ネズ吉さんが指導している夕張ダンジョンの冒険者は、多かれ少なかれ足音を殺して獲物に忍び寄ったりといった芸当をする事が出来るらしい。

 

 まぁ、この辺りは主に視覚に頼って居そうな相手……例えばゴブリンとかオーガ、大鬼のような相手になるんだがな。オークは鼻が利くらしく、廊下でそっと様子を伺うだけでも割と気付かれてしまう事があるらしい。ネズ吉さん以外は。

 

「そ、その……空気の流れが、分かれば……何とかなると……思うんですが」

「超感知そこまで分かるんですか?」

「はいぃ、あ、後は……部屋の魔力と、一体化というか……その、同化的な、ええと。む、難しいんですが」

 

 頭を掻きながら説明しづらそうにネズ吉さんが言葉を捻り出している。多分、彼と他の人では感じている世界が違うんだろうな。

 

 だが、その世界の事を言葉に出来るのはネズ吉さんしか居ないわけで。なんとか言語化してその感覚を他の人にも伝えられれば、この技術を冒険者教育の中に取り込む事が出来るかもしれない。

 

 単独での生存能力が劇的に上がる技術だけに、何とか取り入れたいのだが……飯の種を周知する事になるネズ吉さんもこの技術の伝授には積極的だしね。

 

「こ、ここれがで、出来れば。か、帰る、だけなら誰でも、出、来ます」

「うん。それは間違いない」

 

 魔力の中に身を紛らわす方法の為、外に出ると正直それほど大きな効果はない。良くも悪くもダンジョン用の技能だが、ダンジョン内部での生存能力はこれを身に着けるだけで大分変わるだろう。勿論、良い意味で。

 

 まぁ、問題は何か悪さをした人がこの技術を身に着ければ探しに行った人にも見えないって事なんだが、この技能、実を言うとでっかい弱点というか、絶対に誤魔化しきれない物がある。

 

 ビデオカメラである。

 

「まぁ、当たり前と言えば当たり前ですよね。あれはこう、光学迷彩的な奴じゃないと」

「は、はいぃ。な、ななので、あんまり危険視は、さ、されません、でした……そ、外だとつ、使えませんし……」

「まぁ、そりゃそうですよねぇ」

 

 ダンジョン近くだと漏れ出てる魔力の影響で姿が掻き消えるように見えるが、この運動施設内だとすっごく影が薄く感じる、位の効果しかない。それでも十分凄いんだが、どこかに忍び込めるとかそういった事は難しいだろう。

 

 それでもダンジョン内部ではかなり強力な技能なので、この技術を持った人間が増えた時用に暗視ゴーグルや熱源感知みたいな機械もダンジョン内の見回りの人には持たせるべきだろうなぁ。これは一応報告上げておこう。

 

 どちらにしろこの技術を何かしらで取り入れられないと話は始まらないんだがな。シャーロットさんの予定だと来週にも宮城にあるダンジョンを見に行くらしいし、そちらにも同行する予定の身としてはせめて何かしらの切っ掛けでも掴みたい所だ。

 

「うーん……やっぱり、難しい……」

「そ、そそそう、ですかね……? きょ、教官な、なら、あああっという間に変身、してなん、とかすると思って、ま、ました」

「…………それだ」

 

 ネズ吉さんの言葉に俺はポン、と手を叩いた。流石に熟練度上げとか諸々あるためすぐ結果を、とまではいかないだろうが、よく考えたら俺には右手があるんだ。実物という最高の教科書もあるんだし、そっち込みで再現する事も可能だろう。

 

 それこそ右手に特徴がある忍者やいっそネズ吉さんをリスペクトしてアサシンでも良いし……後は人格的に大量殺人鬼とか存在するだけで周囲に被害を及ぼす、とかでも無ければ良いんだ。そして、出来れば体系だった技術を持った存在。何となくだがそちらの方が技術の伝達が早い気がする。

 

 これらを満たす存在として丁度いい相手が頭の中でリストアップされてきたので、早速試してみるとしよう。彼等の場合本来は左手だが2で器材を再設計して両手でも可能になっていたし、両手で可能ならダブルハンドを再現した事もある。右手のイメージも簡単だった。

 

 一丁なってみるか。アサシンって奴に。

 

 

 

 獲物の気配でも感じたのか。そのゴブリンは足早にその部屋の中へと走り込んできた。洞窟の中のそこそこ広々とした部屋の中心で光るそれをみつけ、ゴブリンは「ギャギャッ」と仲間を呼びながらそちらに駆け寄る。後ろから仲間の走る音を確認した彼は、テクテクと警戒しながらその光る何かに歩み寄っていく。

 

 彼のちっぽけな脳みそではそれが何なのかは分からない。群れのリーダーであるシャーマンに確認してもらうか。そう思い立ち、恐る恐る光る筒のような物を手に取り、彼は後ろにたどり着いただろう仲間の方を振り向き……そして喉元を投げつけられたナイフで抉られた。

 

 彼が最後に見た光景は、自分にナイフを投げたであろう存在がリーダーのシャーマンを押しつぶしながら右腕で頭を抉っている姿だった。そして、意識を失った彼は煙へと姿を変える。

 

 一人を除いて動くものが居なくなった広場に残ったのは、数個の魔石とドロップ品。そして、白を基調としたフードを被って佇む男の姿。

 男は周囲を見回しながらドロップ品を回収し、ぽつりと……呟くように言葉を発した。

 

「やっべアサシン楽しい」

 

 口元をにやつかせながら男はふんふふーんと鼻歌を歌いながら更に奥へと潜っていく。慣熟訓練がてらのダンジョンアタックで10層まで行って戻ってきた後、今度はネズ吉を伴って一緒に10層以降にも挑戦。

 

 互いの感覚を言葉にしあいながら確かめるのはやはり大きく、ネズ吉の超感知が必要な部分は流石に再現できなかったが、滞在期間中にある程度の技能の走り位のレベルは習得。次回の教官訓練の際に時間が合えばまた慣熟訓練を行う約束を取り付け、手を振って別れを惜しむネズ吉に手を振り返し。一郎は夕張ダンジョンを去った。

 

 勿論お土産に夕張メロンを大人買いしたのは言うまでもないことである。


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