奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

154 / 406
今週も有難うございました。
また来週もよろしくお願いします!

誤字修正。アンヘル☆様、見習い様、244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百八十話 みちのくダンジョンと直江津ダンジョン

「みちのくって陸奥の国って意味ですよね。割と範囲広いと思うんですが」

「みちのく公園の側に出て来たからじゃないでしょうか……?」

 

 宮城県に出現した『みちのくダンジョン』の視察を終え、現地冒険者協会の人の熱い見送りを受けながら俺とシャーロットさんは車に乗り込む。現地での話をしろって? 現地に知り合いが居ないから、本当に代表冒険者の人と仲良くなる位しか出来なかった。何でも元々は夕張ダンジョンで修行してたそうで、教官免許取得の際に実家のある宮城に引っ越して代表として日々後進の育成に当たっているそうだ。

 

 あ、そういえば前回から出てた代表冒険者って単語だがこれは単純にそのダンジョンの冒険者の顔、代表者の事を指す。協会から正式に任命されて、お給料も出る公式な身分だ。奥多摩だと真一さんがこれに当たる。知名度的には俺か恭二って最初は言われてたんだが、恭二は表に出るの嫌がるし、俺は代表者って程奥多摩に居られないからな。

 

 本当はほぼ常駐している御神苗さん辺りが望ましいんだが、流石に最初期のヤマギシチームを押しのけて代表を名乗るのは胃が痛いと顔を青くして断られたら諦めざるを得なかった。この制度は現在日本だけでテスト的に運用していて、各ダンジョン毎の特色であるとか色々な区分けを行うって名目で行われている。まだまだ試験的な制度だ。

 

 奥多摩1極の現状を変えるためにも各ダンジョンで特色をつくり、全体的に盛り上げたいってのが冒険者協会の方針らしい。

 その一環でダンジョン毎にHPとかも作られているのだが、そこには近隣の施設であるとか代表冒険者の名前や顔写真が載ったり、冒険者としての仕事着を付けてどんな指導を行うかとかの動画コーナーもあったりとこれが結構面白い。

 

 ネズ吉さんのスタイルはやっぱり皆から「アサシン」って風に言われてるし、昭夫君は仕事着にあの「瀧ライダー」を付けてるからダンジョンのサイトとしては最多のアクセス数を誇ってたりする。何故か荒っぽい感じの人々からもあのドクロが浮かぶヘルメットが大好評らしく、サイト内に物販コーナーまで設けてこれが結構儲かってるそうだ。

 

「まぁ、彼らは最初期の訓練時代から居る古参ですし、特徴的な戦い方ですからね」

 

 シャーロットさんの言葉に頷きながら、みちのくダンジョンでの計画を眺める。ネズ吉さんの指導を受けていただけあってみちのくダンジョンの代表、千葉さんは隠密からのアンブッシュも出来る上に、奥多摩で教えている一般的な前衛と後衛の技術も兼ね備えた器用な人だった。実力もある。

 

 ただ、知名度という意味では圧倒的に劣っている。これはPRを始めたのが最近だというのもあるが、何よりもこれという特徴が無いというのが大きい。器用な、という意味なら真一さんや御神苗さんという先達も居るしね。また、ホームのみちのくダンジョンも立地はかなり恵まれているのだが、後発だという理由で周囲の冒険者向け施設の開発が進んでないという問題もある。今は協会の受付兼事務所と宿泊施設があるだけだしな。

 

 いっそ何でも出来るし忍者っぽい技もあるんだから、黒脛巾組の設定持ってきて忍者っぽく纏めても良いんじゃないかなとも思ったが、そこら辺は一度考えてみたいとの事だ。良いと思うんだけどな、忍者。京都の黒尾は双子姉妹のダブルトップだし、北陸の直江津ダンジョンは侍。四国は神道系の人らしいから、被るって事は無いと思うんだが。

 

「一郎さんもエンターティナーが板についてきましたね。とってもいい事だと思います」

「……つい、出てきてしまうようになりまして。はい」

 

 スタンさんからの影響か。何事も見る人を楽しませるって方面をまず考えてしまう。そして何故それが良い事だと思われるか少しお話したいんですがね、シャーロットさん。シャーロットさん?

 

 

 

「いざぁぁぁああああ!」

「尋常に勝負……!」

 

 掛け声を上げる刀を上段に構えた相手の声に、静かに返答し斬撃型に切り替えたミギーを手に持つ。あ、勿論刃引きしてるし互いにバリアは張ってある。腕試しみたいなもんだな。

 

 さて、初手はどうでるか、と相手の動きを待っていたら次の瞬間に目の前に刀が振り下ろされてちょっとビビる。5mくらいの距離が一瞬で詰められるか。早いな。頭の中でドンドン感想を垂れ流しながら、右手は確実に相手の斬撃を防いでいく。

 

 成程、確かに強いわ。安藤さんが太鼓判を押す剣士ってのはハッタリでも何でもなかったな。このレベルなら多分、ゴーレム位なら刀で切っちまいそうな気はする。刀が駄目になるだろうから流石にやらんだろうが。

 

 攻め切れないと判断したのかひょいっと後方に飛び、相手さんは一つ大きく息を吐く。呼吸を整えよう、という事なんだろうが残念、そいつは悪手でな。このミギーさん、分裂出来る上に伸びるんだわ。3方位から同時に攻撃。こいつを捌くにはツバメ返しでも使わなきゃ無理だぜ?

 

 という訳で距離と数の暴力を持って勝利した俺は、鳩尾にミギーの一撃を貰って吹き飛んだ彼女を助け起こす。一戦交えた後はカラリと笑顔になり、「いやー、参りました」と素直に降参の意思を示すこの人は上杉さん。直江津ダンジョンの代表冒険者だ。

 

 前回の教官訓練ではあまり会話も出来なかったので現地の職員さんに紹介をしてもらったのだが、その際に「よし、闘りましょう」と笑顔で言い切られた時は少し驚いた。そういう人だとは聞いてたが血の気多すぎだろう。

 

 まあ、こちらの実力を見せたら途端に気のいいお姉さんに変わったので、根は良い人なのだと思う……思いたい。この人は新規に教官免許を取得した中でも7名しか居ない女性の一人で、しかも接近戦においては間違いなく全訓練生中最優秀と言われた女傑だ。

 

 遠距離魔法を使わないという既存の冒険者の王道の真逆を行くポリシーさえなければ、前回訓練で京都の水無瀬姉妹の妹さんを差し置いて国内最優と呼ばれていた可能性もある。まぁ、そんなスタイルだからこのダンジョンでの訓練は他の教官が見ていて、自分はもっぱら接近戦の稽古と感知魔法を教えているらしい。ある意味趣味人の極みと言える人だ。

 

 直江津ダンジョンは夕張ダンジョンやみちのくダンジョンと違って街中に存在し、周囲にあまり開発の余地が無い。ヤマギシが手を出すにはちょっと辛い場所になるので、ここでは現地の法人などと協力してダンジョンに関連する物品の販売ルートの構築などに終始したのであまり滞在することは無かった。

 

 まぁ、その分俺もやる事が少なかったので、完全に観光気分で上杉さんと北陸の名産をたっぷりと楽しむことが出来たけどね。やっぱり北の海は海産物が良い。夏なのにそこそこ涼しいし。

 

「時に、鈴木殿は次は黒尾に行くのですか?」

「あ、はい。あっちに行って、その後に四国に行って最後は九州ですね」

「ならば、香苗に決着の時を待つ、とお伝え下さい」

 

 キリっとした表情でそう言い放つ上杉さん。さっきまで幸せそうに海鮮丼を掻き込んでた人とは思えない変わり身の早さだった。ちょっとこの手のタイプは接したことが無いから、前回の教官訓練に参加出来なかったのが凄く悔しくなってきたぞ。

 

 彼女が言う香苗さんというのは、黒尾ダンジョンの水無瀬姉妹の妹さんの事だ。前回の教官訓練で日本最優と言われた人物で、お姉さんの静流さんも凄く優秀で京都の黒尾ダンジョンで二枚看板と言われている……んだけど、これ、お姉さんの方は完全に眼中に入ってないんだろうなぁ。

 

 伝言を快く受け、シャーロットさんの方の用事も片付いた後はそのまま新潟からの飛行機に乗って大阪へと飛んだ。目的地は京都の黒尾山。国内では間違いなく2番目に規模の大きい施設がある、黒尾ダンジョンである。




千葉さん:みちのくダンジョンの代表冒険者。元は夕張ダンジョン所属でネズ吉さんの薫陶を受けている。前回の教官訓練で優秀な成績を残してはいるが、他のダンジョン代表と違って個性が無い事を悩んでいる。

上杉さん:ちなみに下の名前は小虎。名前の通り両親が上杉謙信のファンであり、子供の頃から剣術やら槍術を学んでいた。一郎たちの剣術の師である安藤さんに一時期師事を受けていたこともあるので実は姉弟子だったりする。黒尾ダンジョンの水無瀬香苗とは互いにライバル視している間柄。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。