ついに京都へ来ましたね……
誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございました!
「おっすおっす」
「お前ら何してん」
「お仕事だよー、ね、きょーちゃん」
「おー」
大阪の空港に降り立った俺とシャーロットさんを待ち受けていたのは、東京に居る筈の我がシスターと日本中を巡っている筈の恭二達の姿だった。何でもこの1月ほどは京都を色々と見て回っているらしく、そんな最中に俺が来ると一花から連絡があった為、なら合流するかと大阪まで出て来たらしい。
それは、確かに大変ありがたいんだが。肝心の受験生一花君が何故こんな所に居るのかな? 今が大事な時期だって事は受験しなかった俺でも分かる事である。返答によっては兄が鬼に変わる事も起こりえる案件にちょっと声を低くして尋ねると、その答えは意外な所から帰ってきた。
「こ、こんにちは……その、ちょっと、変身、させてもらってます……花です……」
「一応A判定貰ってるし、可愛い後輩の息抜き位手伝ってもバチは当たらないかなって。私も勉強漬けは気が滅入るしね!」
見覚えのない姿の少女から聞き覚えのある声が聞こえて俺は目をぱちくりとする。先月まで一緒にマスコミの嵐に耐えていた同志花ちゃんの声がする。確か花ちゃんはまだ魔法を使いこなせてなかったから、一花に教わったか魔法をかけてもらったのか。
というか、今が正に売り込みの時期って感じなのに大丈夫なのか確認すると、むしろ加熱しすぎて少し冷ます必要があると事務所が判断したとの事。実際、彼女と一花が通っているあの学校も、本来なら芸能人が多いというその性質上マスコミ対応は手慣れたものなはずなんだが、今回は完全に対応力を越えてしまっており他の生徒にまで影響が出てしまっているそうだ。事務所側にも配慮してくれとの通達が来ていたらしい。
事務所側としても何とかしようにも人気の過熱が限度を超えている、というどうしようもない状況に閉口したらしい。昨年から今年にかけて忙しくしていたし、学校も長期休みに入った為これを機に花ちゃんは事務所からしばらくお休みを貰え、骨休めを行う予定……だったのだが。
「どこに行っても……サイン攻めにあったりマスコミに追いかけられてしまって……」
「しょうがないから私が助けてあげたんだよね。ふんすふんす」
「ほぉ。うん、それなら良し。よくやったぞ妹よ」
「照れるぜ」
恭二の運転するSUVに乗り込み、京都に向かう道すがら。居なかった間の奥多摩の様子を聞きながら事情を尋ねると、予想よりも向こうは大変なんだなぁという結論に達した。俺が奥多摩を離れて花ちゃんに取材が集中したせいもあるし、出先でもちゃんとこまめに勉強してるなら言う言葉はない。
というか映画公開から2か月経つんだが、未だにひたすら俳優陣を追いかけるって何が聞きたいんだろうか。言うべきことも微妙な事も含めて全部インタビューで答えたからもう言う言葉が無いぞ。今日の天気の感想でも言えば良いのか?
日本のマスコミというか記者さんやアナウンサーやらは大体同じような質問ばかりで、こっちも毎回同じ返答返すしかないから結構困るんだよな。応答が。
「ま。何かハナちゃんの休みとお兄ちゃんの京都行きが丁度被ってたし、花ちゃん忙しすぎて修学旅行も行けなかったみたいだしさ。なら京都一緒に回ろうってお誘いしたわけよ」
「そ、その。お邪魔はしませんので……」
「ああ、うん。花ちゃんは気にしないでいいよ。大変だったの分かるし、途中で抜けちゃってごめんね?」
「いえ……一郎さんは、純粋なタレントでもありませんから……はい」
途中で逃げ出しちゃったから罪悪感が凄い。ま、まぁ彼女は現在売れっ子のアイドル。話題になるのは悪い事じゃないし、俺みたいに本業が別にあるって訳でもない。最近はアイドルとしての面よりも女優としての面で結構評価されててドラマとかの仕事が結構来ているみたいだけど、多分高校生の間は例の映画の関係であまり他の仕事も取れないんだろうな……
何か遠回しに逃げ道が塞がれて行っているのに気づいてしまった気がするが気にしないでおこう。そう言えば来年も本編撮るから。本編だけだからってスタンさんが言ってた気がするけど俺は何も気づかなかった。1月くらいダンジョンに潜るテスト、提案してみるべきだろうか。
京都の黒尾ダンジョンのオーナー、水無瀬家は京都の名家で、維新後に実業界に進出した旧家で今でも関西の実業界では名の知られた一族らしい。彼らは元々黒尾ダンジョン周辺の山の所有者であり、ダンジョン騒動が起きた時に念のために調べてみたらダンジョンを発見したらしい。
その後、ヤマギシという前例もあった為ダンジョン周辺の開発に前向きな日本政府や、新たな産業になりえると考えた京都府の強力な後押しもあり、3年前までただの山だった黒尾山はかなり開発されているようだ。
「水無瀬忠功です。本日はお越しいただきありがとうございます」
「シャーロット・オガワです。こちらは鈴木一郎さん」
「初めまして」
「おお、お噂は聞いています。孫達から動画を見せていただきましてな」
背広を着た老人、黒尾ダンジョンのオーナーである水無瀬氏は背の低い小柄な老人だった。
「ヤマギシさんには本当にお世話になっておりまして。ほら、あのフローボードでしたか」
「フローティングボードですね」
「ああ、それですそれです。アレの技術公開のお陰でうちと関係のあるメーカーさんも活気が出ましてね。世界初の浮遊する自動車を作るんだとか、自重を気にせずに動かせる作業機械とか」
「先の広い技術ですからね。ヤマギシでもドンドン新規開発していくつもりですから今後もご利用いただければ」
「そうです。そこが凄い」
若干興奮気味の水無瀬さんは、この技術公開がどれだけ凄い事なのか。どれだけ衝撃的だったのかを語ってくれた。あの技術公開と基盤となるボードの開発及び販売により、産業界、とくに製造業や建築業といった分野が軒並み新規技術開発に動き出し、彼が影響力を持つ関西の実業界だけでも優に数百、下手すれば数千億という規模の資産が今現在も動いているのだという。
「あれほどの技術です。秘匿技術として扱えばそれがどれほどの利益を生むかわかりません。しかし、それを選ばず技術の発展と進歩を促してくれたヤマギシさんの決断がどれほど難しいものだったか。もし自分が同じ立場であると考えればとても出来る物ではありません」
一度お会いしてお話を聞きたいものです、との言葉に当人に伝えておくと約束をし、その後も少しの雑談の後俺とシャーロットさんは水無瀬氏のオフィスから離れた。社長、割と簡単に「わかった。真一の判断に任せる」って言ってたけど難しい決断だったんだな。
だが、そのお陰かどうか。ヤマギシの評判はあれ以降、「良く分からない技術を扱う企業」から「新規技術開発に熱心な新進気鋭の企業」に代わったらしい。水無瀬さんの好感度が高かったのもそれが原因だろう。
「さて、挨拶は済ませたし次は早速ダンジョンを」
「……いえ、その前にどうやら」
ダンジョンを見に行こうと言おうとした時に、シャーロットさんが遮るように言葉を切る。
立ち止まった彼女の視線の先を見る。すると、そちらに立っていた二人組の美人さんがこちらに強い眼差しを向けている事に気付いた。
「初めまして、水無瀬静流と申します」
「……水無瀬香苗です」
その強い視線に目をぱちくりとさせて俺は軽く頭を下げる。はて、この二人とはほとんど初対面に近い筈だがやたらと視線に圧があるな。どちらにしろ。どうやらまだダンジョンに向かうことは出来ないらしい。
京都弁わからない……