奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百八十三話 一極集中の弊害

『ヤマギシとしては困らんが、協会としては頭が痛いだろうな』

「まぁ、そうっすよね」

『むしろウチはそんな状況を抑止するために動いてる方だと思うぞ? ダンジョン傍に支社を立てるってのはようはそこに相当数のウチの社員が来る訳だからな。ウチの社員ってことは当然二種持ち以上の冒険者で、小遣い稼ぎにダンジョンにもガンガン潜ってくれるはずだぞ』

 

 水無瀬姉妹からの相談内容を伝えると、真一さんはあっさりとした口調でそう返した。確かに今のヤマギシの動きはある種日本中のダンジョンへの冒険者の再分配みたいな物だから、いの一番に問題解決へ取り組んでるようなものか。

 

 ちなみに同じ相談を受けた恭二は全体のレベルを引き上げておけば人の移動が増えてもレベルの低下は防げるという脳筋な結論に達し、教官や二種持ちといった人を教える事のある面々の強化訓練を行う予定らしい。

 

「つまり現行の制度で教えきれてない事を探して、教官達の能力を引き上げられるよう努力するって事か」

「それだけだと東京への人材流出は歯止め利かないかなぁ」

「とはいえ、俺達レベルで出来る事はこれくらいだしな」

「ヤマギシだけじゃ人手足りなさすぎだよねー」

 

 用意してもらったホテルの一部屋に集まり、半分駄弁るように案を出し合うも上手い考えは浮かんでこない。こんな時の頼みの綱のライダーマンモードでも【自分達だけでは打つ手が足りない】と結論出ちまったし。

 

 真一さんからは協会関係や政府筋にも連絡を入れておくと言われているが、それだけでは少し心許ない。という訳で足りない手を思いつけるだろう相手に連絡を入れてみる事にする。

 

 

 

『アメリカなら全力で冒険者を囲い込みますね。少なくとも教官免許までの全費用等を持つ代わりに5年は専属になる契約を結びます』

『あ、はい』

 

 一言でばっさり行きますね、流石はケイティさんパネぇっすわ。と感想を返すと、受話器の向こうからは苦笑するような気配を感じた。

 

『むしろ当然のことです。それぞれのダンジョンの周辺を開発しているのは、そこから上がる収益が近隣を潤す事を目的としているもの。それの元となる稼ぎ手があっさりと他所に奪われる事を警戒するのは、むしろそれらのシステムの維持をする側としては当然やらなければいけない事になります』

『成程。経営者としての目線で言えば当然という事だな。個人的には奥多摩に固まられても狩りの邪魔になりそうだな、と思ってるから、出来る限りそんな事態は避けたいんだが』

『冒険者として、というよりは一つのダンジョンの専属としては当然の言葉ですね。冒険者が集まるという事はそれだけ競争が生まれるという事。特に稼ぎが良いゴーレムは二種冒険者なら格好の相手ですからね。たかだか十数万の弾頭一発で十倍以上の稼ぎになります……殺到するでしょうね』

 

 まぁ、そうなるだろうな。最近はゴブリンなんかの武器などからも貴金属を取り出すリサイクル施設を用意して低階層でも十分収益を上げられるように工夫しているが、そういったのをこまごま集めるよりも一発ゴーレムでドカンと当てた方がコスパは良い。流石に貴金属のレートは落ちてきているが、魔石の需要は未だに上がっている。一日一匹狩るだけでも合わせれば十分すぎる値段になるんだからな。殺到するだろう。

 

 ドロップ品や魔石がガンガン算出されるのは良い事なんだけど、そうなると11~14層までが人で溢れかえる事になるんだよな。あそこの荒野、バイクで走ると凄く気持ち良いんだけど。

 

『まぁ、いずれは供給過剰になる日が来ると思いますがね。そうなった時に自然とバラけると思いますよ?』

『それまでダンジョン周辺が寂れるのを待つってのも勿体ない話だよなぁ』

 

 その状態になるまでどの位かかるか分からないし、一つのダンジョンがやたらと発展するよりは他の地域も活性化した方が良いのは間違いない。かといってヤマギシの社員を支社に回して無理くり回すなんてまず無理な話だし、そもそもヤマギシの社員はヤマギシの利益を第一に考えるからな。

 

 過剰になるダンジョンだと数百人位が一斉にポップした瞬間のゴーレムに群がるのか。四方八方からロケットランチャーぶち込まれたら危な……

 いや待てよ。供給過剰になるのはほぼ見えてる事なんだ。どのダンジョンでもどの国でも恐らくこの問題はいずれやってくる。という事は、だ。

 

『なぁ、ケイティ。一つ思いついたんだが……少し迂遠な方法になるんだがな』

 

 まぁ、実力を磨きに奥多摩に来るってのは100歩譲っても良いんだけど、それで奥多摩にだけ集まるってのはちょっとね。

 

 あっという間にキャパオーバーになるのが目に見えているし、結果さっきのゴーレムの例えみたいに数少ない獲物を奪い合うなんて事が現実に起きかねない。実際、初期の臨時冒険者とかがそんな感じで、一匹のコウモリを5人の女性が追いかけまわすなんてあったしね。

 

『……細部を詰める必要はありますが、必要になる事は間違いありませんね。自然に任せるままでは、確かに無駄が多くなる』

 

 ケイティの言葉に同意を返す。そう、今のままでも最終的には振り分けは行われるだろうがどうしても無駄が出る。だったら、最初から無理のない範囲以上は受け付けないようにした方が良い。1つのダンジョンで、もしくは1つの階層での冒険可能な人数の上限設定と、各冒険者の実績の蓄積。

 

 そして最終的には資格所持者でも実績によって評価を分ける。同じ二種冒険者でも免許取り立てとある程度以上冒険をこなしてる人物を同列に扱う事は出来ないからな。

 

 当然実績のある冒険者は深い階層への挑戦を求められるし、経験の浅い冒険者は浅い階層で実績を積むことを求められる。命掛けである以上、強い反発は無いだろう。少なくとも今は。

 

 これも結構穴がある気がするが……その穴を埋めるか、または別の道を探すかはお偉いさんが考える事だろう。一介の冒険者には過ぎた難題だ。結果が分かったら連絡してくれとケイティに頼み、俺は電話を切った。彼女ならいい結果を出してくれるだろうと信じて。

 

 

 そして次の日。

 

「ハイ、イチロー! 昨日のお話、続きしに来まシタ!」

「……お、おう」

 

 元気に笑顔を振りまくケイティさんの姿に俺は背後を振り返る。そこには逃げ道を遮断するように動く我が妹と恭二の姿があった。

 ジーザス。




今回の、この連載始まって一番悩んでるかもしれない()

あ、あとゼル伝のブレワイ新作出ますねありがとうございます(唐突)

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