奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、アンヘル☆様、見習い様ありがとうございます!


第百八十四話 ケイティ来る

「行動早すぎ……早すぎない?」

「NO! 時はお金デス」

「そこ態々日本語にする?」

 

 元々英語の諺の筈だけどな。苦笑を浮かべながらケイティと握手を交わす。態々自家用ジェットを飛ばして大阪の空港に乗り付けたそうだ。大金持ちはやる事が違うな。

 

 当然、忙しい彼女が態々日本に飛んできたのは勿論観光の為、等ではなく。昨日頼んだ件についてアメリカ側の対応が大まかに決まり、併せて日本側との調整を行う為だ。クーガーの兄貴もかくやってレベルの速さだな。

 

「アメリカでも設備の差、懸念されてマス。日本はとても良い先例なる、期待されてマス」

「という名目で本部を離れたわけだ」

「八つ橋美味しいデス」

 

 もぐもぐとお店で売っていた八つ橋を美味しそうに頬張る金髪ツインドリルゴスロリっ娘を見る。明らかに満喫している顔だが、観光ではない筈だ。

 

「でも助かったよケイティ。俺達だけじゃ良い案も浮かばなかったし」

「NO! キョーちゃん達も頑張ってる。全体の底上げ、とっても大事!」

「あの。俺の提案の方はどうなんですかね」

「イチロー、頑張ったネ。満点は上げられないケド良い線!」

 

 背伸びをしたケイティにいい子いい子と頭を撫でられる。良かった、どうやら及第点くらいは貰えるらしい。

 

「見た目の絵面が凄いね!」

「ケイティ、あれで俺らより年上だからな……たまに一花より下に見えるけど」

「……否定できないなぁ。私の妹ポジが危ういよ、お兄ちゃん!」

「お前はマスターポジじゃないか?」

 

 傍から見たら20代後半の兄ちゃんが中高生位の女の子にいい子いい子されているという突っ込みどころの多い光景だからなぁ、色々変な目でみられるのはしょうがない。

 いや、一応この子が一番年上なんだけどさ、この中だと。あと一花さん、最近ローキックの手加減忘れてないかな。バリアを突き抜けてくる気がするんだけど。いや痛い、痛いからな!?

 

 

 

『簡単に言えば奥多摩は初心者か最上級者専用にするしかないと思います』

「奥多摩を……ですか?」

 

 一頻り恭二とのデート(沙織ちゃんも付いてきてたけど)を楽しんだケイティは、事前にアポを取っていたらしい水無瀬氏のオフィスへと向かった。随行はヤマギシの一族である恭二と、ヤマギシの実務を支えているシャーロットさん。そして何故か俺である。

 

 ケイティとしては、頭脳担当に回ることの多い一花にも経験になるから来て欲しかったそうだが、そっちは俺が突っぱねた。あいつはまだ高校生だし、受験前に変な責任を負わせたくはないからな。それに花ちゃんを放っておかせるわけにもいかないし、沙織ちゃんが保護者としてついてくれるそうだからあっちは女3名で楽しくやってるだろう。

 

 まぁ、そっちは純粋に京都を楽しんでくれればいいから問題ないとして。

 

『向上心のある人間が上を目指して、というのは止めようがありませんし、ここはどうしようもありません。奥多摩は現状間違いなく世界一の冒険者を擁するダンジョンで、冒険者として上位を目指す場合、奥多摩を目指すのは至極当然の事になります。実際、お孫さん方が受けた教官訓練の質を見ても分かる事だと思います。あれを毎年行うだけの環境・人材は、奥多摩でしか用意できません』

「……それは、まぁその通りですな。我々も奥多摩ダンジョンを手本に設備を投資したり周囲の環境を整えております。全て手探りで行ったヤマギシさんや冒険者協会には感謝しかありません。ヤマギシさん達に含むものは決してないんです……ただ、少し困った状況が見えてきているのは間違いない」

 

 姉妹からの報告を受けているのだろう。好調だと思っていたダンジョン関連の思わぬ落とし穴が見つかった為か、水無瀬氏の顔色は優れない。そして、そんな水無瀬氏の言葉にケイティは深く頷いた。

 

『恐らくあと1、2年もしない内にある程度以上の実力を持った各地の冒険者たちがこぞって奥多摩へと向かうでしょう』

「そう、ですな。孫から聞いた状況なら……」

『そして、これは奥多摩側のお話になりますが、まず間違いなくキャパシティをオーバーしてしまうでしょうね。現状の臨時冒険者制度で、最初の頃に起きていたモンスター枯渇問題をご存知ですか?』

「……ああ、そういえば。うちのカミさんもその頃にダンジョンに行っていたので、覚えております。そうだ、その問題があったか」

 

 ケイティの出した例えに身に覚えがあったのだろう。水無瀬氏がポン、と手を叩く。モンスターは無限にポップするが、その復活までには時間がかかる。現状、臨時冒険者の時間分けがきっちりされているためそんな事は起こっていないが、最初期の手探りの頃は各地のダンジョンであっという間にモンスターが居なくなってしまうということは起こったりしていたのだ。

 

 奥多摩だとポップまでの時間はもうわかっていたからさっさと対応できたが、教官冒険者が居なかったダンジョンではそう手早く対応できていなかったらしく、協会側が奥多摩の制度を参考に全国に流布して、と細かく動いてたのを覚えている。

 

『そうなる事が目に見えている以上、それに対する対策をするのは当然です。仮に奥多摩のキャパシティが常にオーバーしている状況では今後の教官訓練などにも差し支える以上、協会が制度を設けるのは当然の事でしょう』

「それが先の、初心者と最上級者向けちゅう話どすか」

『静流さん。外国の人と話をするときは』

『申し訳ありません、教官』

 

 ケイティの言葉に尋ね返した静流さんに恭二が静かにそう言うと、静流さんが翻訳を発動させてペコリと頭を下げる。意思疎通が出来ずにダンジョンに潜ると危険だ、という信念の元、恭二はこの点だけは口酸っぱく注意するんだよな。

 

『おっしゃる通りです。奥多摩の特異性は誰しもが分かっている。だったら、最初から特殊な時と立場でしか利用できないとしてしまうのが良い。ヤマギシはそもそも忍野ダンジョンという立地に恵まれたダンジョンをもう一つ保有しているんですから、通常の、一般的な冒険者からの素材をそちらで賄う事が出来ます』

「それだけの負担は他のダンジョンオーナーには出来ませんからな……そして奥多摩自身は研修地としてやダンジョン研究の第一線として機能していくと。なるほど、その代わりに各ダンジョンで特に優秀な数名は晴れて奥多摩での冒険を許され、ダンジョン研究の一助となっていく、ですか」

『まぁ、あくまでも理想はそうです。少なくともヤマギシチームの足を引っ張らないレベルにならなければいけないので、それこそ各地の代表者並みを求められるでしょうね』

 

 その言葉に水無瀬氏は若干血の気の戻った顔で深く頷いた。それだけの技量を持った冒険者の育成は難しい。初回の5名、それに前回の40名だって選りすぐりの中から選ばれた人間たちで、そんな彼等でも専門でみっちり研修を行って数か月かかったのだ。

 

 兼任冒険者ならばそれがどれだけかかるか。まぁ、一部初代様のような例外枠も居るが、あの人だって奥多摩に住むレベルで通い詰めてようやくだったんだから、他の人がどうなるかはお察しだろう。仮にそれだけ成長した人が現れたとしても、その人数はそれこそ数名といった所だ。

 

 水無瀬氏もその辺りを感じ取ってくれたのだろう。早速西日本のダンジョン関係者にこの件を伝えて制度が上手くいくように根回しに動いてくれるそうだ。話を聞き終えた水無瀬姉妹の顔色も明るい。懸念を大分晴らす事が出来たって事だろうな。

 

 この後東京に行かなければいけないというケイティの言葉に俺達は水無瀬氏のオフィスを後にする。水無瀬氏と水無瀬姉妹は車が見えなくなるまで見送ってくれていた。余程恩に感じてくれたのだろう。

 

『……まぁ、これでもまだ問題は一杯あるんですがね』

『ああ、やっぱり? 選別の方法とかマスコミ対応とか色々あるよね』

『その辺りは日本の協会に任せるとします。アメリカはまだそこまで段階が進んでいないので、日本の推移を見てから制度を確定させるつもりですしね』

 

 翻訳を切り、ぼそりと英語で呟いたケイティに英語で返す。うーん、やっぱりケイティの日本語と英語の落差はすごいな。まぁ、ここから先は……一介の冒険者である俺の手には余るしなぁ。社長とか真一さんが頑張るだろう。うん。




奥多摩は完全にオンリーワン&ナンバーワンとして独立させる案。
これも結構問題あると思いますが後は現地で問題点を洗い出して解決していくでしょう(目そらし)

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