第四十四話 魔法発電の開発
ヤマギシ内の業務改善が急ピッチで進む中、法律の専門家と事務処理の余力を得た俺達は二つの特許をまず取得した。
一つは前回話したエンチャントメッキ。そしてもう一つは。
「エレクトラムの丸棒にフレイムインフェルノをエンチャント。こいつを小型タービン発電機に積んでみた結果がこれだ」
横田基地周辺は昔から空軍の基地があり、周囲にある中小企業には世界でも有数の技術力を持ったメーカーや製造業者がひしめいている。
そんな横田基地周辺を俺達は奔走し、横田基地から勧められた金属加工業者と、エンジン技術で有名なIHCという企業に接触。
丸棒の作成とジェットエンジン技術を流用した小型の高効率タービン発電機を入手して、今に至る。
「凄いぞ、ガンガン回ってる」
真一さんが会心の笑みを浮かべる。
魔力をエネルギーにするというイメージは元からあった。実際そのアプローチを行っている企業もいる。
ただ、このエンチャントの発想を思いつけるのは現在メッキの開発者の藤島さんと宮部さんか、俺達しかいない。
完全に競争相手のいない独占技術だ。
早速法律部門の人に見てもらい、ヤマギシ法務チームの初仕事として特許を出願。母さん達は一週間ほどで特許申請までこぎ着けてくれた。
真一さんは実験したタービンエンジンの作り手であるIHCをビジネスパートナーに選び、IHCの商品である20tトラックの荷台にタービン発電機を据え付けた移動型の発電装置を改造。
燃料室をエレクトラムに置き換えただけの簡単な改造だが、一週間で火力発電型のタービン発電機を開発した。
それを持って今、総理や冒険者協会の関係者、委員会の関係者を集めて検証実験を行っている。
「発電を開始します」
真一さんがそう言うと係りの人がエレクトラムの丸棒を発電機に挿入。
グングンと発電量を表すメーターが上がっていくにつれて周囲の興奮が高まっていく。
発電機は特に事故も無く魔力が消えるまで終始安定した発電を行い続けた。
「素晴らしい。資源の無い日本にとってまさに福音と言える発明だ。山岸君、ありがとう!」
「いえ。総理のこれまでの支援の賜物です」
真一さんと総理が握手を交わす。同席していたカメラマン達がすかさずシャッターを切ったその一枚は翌日の新聞の一面を飾り、エレクトラム製の燃料ペレットは恐ろしいほどの大反響となった。
世界中の石油原産国以外がもろ手を挙げてこのニュースを歓迎し、ヤマギシには連日世界各国の政府機関、エネルギー企業、電気関連企業、そして自動車産業などから問い合わせが殺到。
もしヤマギシの業務改善が行われていなかったらと思うとぞっとするほどの電話や問合せの数々に戦々恐々とした俺達は、これを機に親類や知り合いといった縁を総動員して会社の社員を30人近く増やした。
「愛知県の超大手自動車会社からタービンエンジンの自動車を作りたいって連絡が来てるみたいだよ!」
「あっそ」
そんな中俺はというと相も変わらずダンジョンに潜って動画を撮っていた。特に最近はライダーマンマシンを11層以降で乗り回す動画をよく撮っている。
事務処理などで手が足りないときはミギーの力を使って高速で書類仕事をやったりしているが、基本俺達冒険者チームは呼ばれることが無ければダンジョンへの準備や、真一さんの手伝いで新製品の開発などをしている。
まぁ、真一さんやシャーロットさんが忙しいから現在は16層へのダンジョンアタックも行わず、ゴーレム相手に対デカブツの練習をしたりライダーマンマシンで疾走しながらの攻撃を練習したりしているが。
「・・・・・・早く先に進みてぇなぁ」
「まぁ、しょうがあるまいて。俺らも食べてかないといけないし装備には金かかるし」
「んー、そうだがなぁ」
適度にストレス発散している俺と違ってひたすらダンジョンに潜りたがっているのが恭二だ。
恭二は今現在の会社にまつわるあれこれを、しょうがないとは思うが全部ブッチして1人でもダンジョンに潜りたいと社長の前で言い切った筋金入りのダンジョンキチだ。その後めっちゃ怒られてたけど。
今の足踏みしている状況はひたすらストレスが溜まるだけなんだろうな。
「今の状況もすぐ終わるって。IHCと代理人契約を結ぼうと社長たちも働きかけてるし」
「それが終わったら次は近隣の土地を買収して、エレクトラムペレットを作ってる会社と合同で工場を建てて。それと平行して藤島さん達刀匠の皆さんの工房を隣接して建てて。そしてそしてそれらと更に平行して日米の教官教育が来る。むしろ俺達のんびりダンジョンに居ていいのかね?」
「いいんだろ。エレクトラムを大量に集めろって言われてるし。俺はむしろ、周囲の状況が俺たちに安心してダンジョンに潜ってもらえるように整ってきてると思ってるがなぁ」
「見解の相違って奴だな・・・・・・お、ゴーレム発見」
バイクで疾走しながら耳元に着いたインカムで恭二と会話を交わす。
バカ話をしながらも周囲を感知で見ていた恭二がゴールドゴーレムに気づき進路を曲げる。
向こうもこちらに気づいたのか腕を振り上げて攻撃しようとしてくるが遅い遅い。バイクを運転しながらの魔法も身につけた恭二の早さには付いて行けずあっさりレールガンの餌食になった。
そのレールガン、両手で撃てるのはちょっとずるいぜおい。
すっかりルーチンワークのようにゴーレムを狩る俺達二人は、今日も今日とてペレットの燃料に現金収入にとあくせく暇を潰すのだった。
山岸恭二:16層に突入する準備は出来ているのに進めない状況にストレスを抱えている。
鈴木一郎:バイクを走らせながらライダーキックが出来ないか試行中。