今回はネタ枠です。
誤字修正。見習い様、244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございます!
瀬戸大橋。四国と本州とを繋ぐこの橋は、幾つもの橋が瀬戸内の島々を繋ぐ形で出来ている。ギネスに載ってる偉大な建築物だとのことで、前々から間近で見てみたいと思ってたんだが。
「長いな」
「長いねぇ」
「長いですね」
ハンドルを握りながら余りの長さにそうぼやくと、一花と花ちゃんがうんうんと頷いて同じ感想を呟く。途中途中の島々に普通に人が住んでたりして楽しくはあるんだが、昼食を向こうで取る予定だからな。そろそろお腹と背中がくっついてしまいそうだ。
「所で、折角四国に来たんだからあれやらないの? あれ」
「ん?」
「ほら、四国と言えば絶対に安全って。ライダーネタじゃん」
「ああ……まぁな」
手持ちのビデオカメラを回しながらニヤニヤとそう尋ねてくる一花の言葉に若干言葉を濁し、我が妹ながらなんでこうタイムリーな話題を出してくるかなぁ、と思いながら、ナビに打ち込んだ住所へと真っ直ぐに向かう。
さて、今日のお昼はステーキだ。東京に居た頃は結局お邪魔出来なかったし、たっぷり楽しませてもらうとしようか。
そのステーキハウスは今年の春に完成したばかりらしい。関東を中心としたとあるステーキチェーンのその店は、何でもこのダンジョンのオーナーが是非にととある店舗のオーナーとチェーン元に頼み込み、敷地や建物まで提供するという大盤振る舞いを行って誘致してきたそうだ。
ん? と店の看板を見て小首を傾げる一花をちょいちょいと手招きし、お店のドアを開ける。事前に予約は入れていたし丁度いい時間だろうと店内を見渡すと、ピカァっと店内を光が走り、咄嗟の事に身構える俺達の前に一人の男が立ちふさがった。
「四国をヤマギシランドにするだと! ゆ る さ ん ! 四国はこのブラックRXが守る!」
「おお、まさか生でその言葉が聞けるとは……感激でおじゃ」
ぐっと右手を握りしめるその黒いボディに濃緑の装甲。昭和と平成の二つを股にかけた最強と謳われたライダーの姿がそこに在った。近くの席に座っていた神官のような装束を着たおっさんが拍手をしながらその様子を褒め称えていると、恥ずかしくなったのだろう、彼はぽりぽりと頭を掻きながら変身を解除する。
そんな一連の流れに店内が拍手に包まれる中、俺達……事前に知っていた俺とシャーロットさんは兎も角、一花はパクパクと口を開けて鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。冗談のつもりだったんだろうが割とビックリするタイミングだったのは確かだ。まさか本人から聞けるとは思わなかっただろうけど。
「今日はよろしくお願いします」
「ああ、たっぷり食べて行って欲しい! 注文が決まったら呼んでくれ!」
ニカッと人好きのする笑顔を浮かべて、彼……BLACKさんは厨房へと戻って行った。
「……お兄ちゃん」
「おう」
「何で? 何でBLACKさんがこっちゃいるの? え。確かに、確かに最近あっち関連の人がヤマギシに顔出してるって聞いてたけど、え?」
ぐいぐいと袖を引っ張るマイシスターの言葉に俺は小さく「うむ……」と答えて、そっと人差し指を神主スタイルのおっさんに向ける。
そちらに目を向けた一花はまず最初に「げっ」と声に出した後、「ああ……」と納得するような声音になり、最後に「はぁ……」とため息をついた。
「……そういえば、麻呂のおっさん四国だったっけ」
「おっさんとはひどいでおじゃるな、師匠殿」
「40超えてる子持ちのおっさんをおっさんと呼んで何が悪いのかな?」
一花の言葉にほほほほと誤魔化すように笑い声をあげると、神主スタイルの男性は「ささっ、座ってたもれ」と席へ着くことを促した。
彼の名は一条公彦。又の名を『麻呂』と呼ばれる有名動画投稿者にして土佐ダンジョンのオーナー兼代表冒険者であり……
「うぅむ、今の一幕だけで開店資金全てを負担した甲斐があったというもの。動画投稿に拍車がかかるでおじゃるな!」
俺が知りえる限り最も趣味に生きている冒険者(オタク)である。
ダンジョンが現れた際。一条さんは幾つかの事業を抱えるやり手の実業家だったらしい。美人の奥さんに奥さんに似た可愛い一人娘。ちょっとオタク趣味なだけで特に変哲もない一般人だった彼が、最初に道を変えるきっかけになったのは、恭二の魔法再生を見たことが切っ掛けだったそうだ。
何でも彼はあの瞬間、これは魔法だと理解したらしい。ケイティに匹敵する位の魔法への感受性を一条さんは持っていた。それを見た瞬間に彼はほうぼうを探してダンジョンの情報を集め、最も家に近い場所に出現したダンジョンの場所を把握。当時のごたごたとした情勢を最大限生かして周辺の土地を安く買い上げ、ダンジョンオーナーになった。
そして、次に彼を変貌させたのは……遺憾ながら俺の動画だった。魔法を得る手段を手に入れたが、一条さんは用心深い人物だった。元々ゲーマーだったのもあるらしい。命が掛っている以上攻略情報を最優先。魔法の力を手に入れる為にダンジョンへもぐる……そんな認識の彼がヤマギシの発信する情報をチェックしない訳が無い。
そしてそれらを集めて行き、封鎖された土佐ダンジョンに警察官と共同で調査を行っていた彼は、情報収集の中でふととあるダンジョン内の様子を撮影した動画を目にしたのだという。
それは、オークに立ち向かう一人の男の姿であり……その姿を見た時、この無駄に行動力のある有能な馬鹿野郎は盛大に道を踏み外したのだ。
コスプレ冒険者としての道へと。
「あの動画シリーズは、正に人生を変える切っ掛けでおじゃった。それまでのただ平凡な人生に風穴を開ける……そう、あの時、正しく麿は自身の道を見出したのでおじゃる」
「その口調、素なんですか?」
「流石に素は違うが、今はカメラを回しておじゃるからな……」
つっと視線を横に向けると、そこにはそこそこお値段が張りそうな本格的なカメラを抱えた妙齢の美女と、緊張した面持ちでマイクを持つ中学生くらいの女の子の姿があった。どちらも一条さんに合わせるように巫女服を着けていて、ステーキ屋の一角はさながら和風コスプレ会場といった様相を呈している。
一条さんの視線に気付いたカメラを持った方……一条さんの奥さんは一つ頷いて娘さんに何かを伝え、娘さんはそれにコクリ、と頷いて手近な紙にカリカリと何かを書き始める。そしてそれをパッとカンペのようにこちらに向け……
【二代目ライダーマンの結城一路さんをお願いします】
「あ、はい」
「おおっ!?」
変身を変えてライダーマン、更に姿を結城一路に変更すると、店内の他の客や一条さん親子が喜びの声を上げる。いや、喜んでくれるのは嬉しいけど一条さん、これ貴方の動画……ま、まぁ良いんだけど。
「この家族……全っ然変わってないね……」
【師匠ちゃんマジ師匠ちゃん可愛い】
「麻呂重ちゃんも可愛いよ?」
諦めたように笑う一花にえへへと笑う一条さんの娘さん。麻呂重はペンネームみたいな物だ。彼女と一条さんの奥さんも前回の教官訓練に参加したメンバーであり、娘さんは教官免許保持者としては最年少記録保持者でもある。何せまだ14歳。訓練受講時は13歳だからな。
代表冒険者でもある父を妻と娘が助ける、ヤマギシにも通じる所のある完全な親族経営のダンジョン。
それが四国土佐ダンジョンだ。
一条さん:一郎に感化されて動画配信とコスプレを始めた冒険者(オタク)。『一条麻呂のダンジョン紀行シリーズ』という動画を投稿している。割りと初期から冒険者協会とは歩調を合わせていたらしいが、初回の教官訓練では枠に漏れた。
土佐ダンジョンの経営にもかなり熱心だが、三顧の礼ではすまないレベルでBLACKさんの店舗とチェーン元に通い詰めて誘致に成功するなど全力で趣味に走る事も多く、設備面では黒尾に劣っている。
麻呂の嫁と娘:嫁さんは一条の方、娘さんは麻呂重のペンネーム?で活動しているらしい。急にキャラ崩壊した公彦を心配していたが無事染められた模様。