奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、見習い様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百八十七話 四国でのお仕事。

『お主、麻呂を一条三位のそっくりさんと知っての狼藉でおじゃるか?』

『グルルゥアアアアア!』

『ヒョエ~!?』

 

 画面内では大見得を切った瞬間にオークに襲い掛かられる一条さんの姿がある。彼は部屋の中を大声を上げながら駆けずり回り、それを追いかけるモンスターをあの手この手を使って……それこそ時には大きな肉を用意してモンスターの注意をひこうとしたり、時には使えもしない刀を振り回して結局一条の方さんに助けられたり、時には麻呂重ちゃんの魔法に巻き込まれたりしながら少しずつダンジョンを攻略していく。

 

 これが一条さんの動画『麻呂のダンジョン紀行』シリーズの基本的な流れだ。最近では優秀な魔法使いだという事が周知されてきたので若干方針を変換。様々な新魔法を開発しようと努力している姿と試しのシーンを撮影するなど、基本的にコメディよりのスタンスの動画を撮影する為、大人から子供まで愛されているキャラクターだと言えるだろう。

 

「やっぱり面白いね、麻呂シリーズ」

「コメディ路線に重点を置いていて、かつ他とも一線を画す試みも多い。大変参考になります」

「お恥ずかしい限りです。イッチシリーズに比べたらまだまだですよ」

 

 一花とシャーロットさんの言葉に化粧を落とした一条さんが頭を掻いて答える。いや、俺の動画そこまで大層な試みは無いんですよ……

 

 

 

 土佐ダンジョンは海が一望できる小高い丘の上に出現したらしい。当時の持ち主は持山に急遽現れたこの黒い穴を心底怖がっていたらしく、そこにこの穴に興味を持っていた一条さんが接触。その結果、予想以上に安くダンジョン一帯を購入する事が出来たらしい。

 

「運が良かった、それに尽きるでしょうね。別のタイミングだったらこれ程スムーズにダンジョン周辺を手に入れる事は出来ませんでした」

「なるほど」

 

 化粧と衣装を脱いだ一条さんは鋭い印象の顔立ちをした男性だった。とても先程までおじゃおじゃ言っていたとは思えない。

 

「てことは、今の状況をその地主さん悔しそうにしてたり?」

「いえ、ダンジョン周辺は購入しましたがそれ以上は基本手付かずですからね。周辺の開発の為に何度もお話したので今では飲み仲間ですよ。今夜泊まってもらう宿もその方が経営しているものです」

「飲み仲間っすか」

「新参者ですからね。最初に縁が出来たのもそうですし、まず最初に元の地主さんと仲良くなることを目指しました。自分が儲かるだけでなく周りも儲けさせなければ結局続きませんからね、彼には度々助けて貰っています」

「成程。何となくわかります。ヤマギシも元々地元に根差した家だったので周辺の理解と協力を得る事が出来たので」

 

 奥さんの淹れてくれたコーヒーを一口含む。BLACKさんのステーキは大変美味しかったので、ついブラックとRX両方のステーキを頼んでしまい少しお腹が膨れてしまった。お腹を慣らす意味でもこのコーヒーはありがたい。

 

「それではヤマギシの関連会社の誘致等は」

「ああ、そちらはご安心ください。ダンジョン関連が盛り上がっている現状でヤマギシさんという看板がどういう役割なのか、十分すぎるほどに地域の方々には説明しています。四国は何せ水の問題がありますから、北海道とは別の意味で魔法を覚えるという事は重要な事なんです。当然、関心も強い」

 

 そう言って、一条さんは右の人差し指を立てる。その指先に現れた水球に一花はぐぬぬ、と唸り声をあげた。まったく別の言葉を話しながらの魔法行使。この超高難易度技術を苦も無く行うそのセンスの高さに思わず嫉妬心が出ているんだろう。俺達兄妹、魔法を扱うセンスは本当に低いからな。

 

 とはいえ、こんな真似が出来る奴は日本では他に恭二だけだし、世界中を探し回っても後はケイティが候補にあがるくらいだろうから仕様がないと言えばそれまで何だが。それほどまでに隔絶したセンスの高さで、彼は北陸の上杉さんとは真逆の方面に突き抜けた才能を持つ超一級品の後衛だと認識されている。

 

 まぁ、その分接近戦だと物凄く不器用らしく、相手に近寄られる前に倒すを徹底する必要がある為に、特化して訓練した結果このスタイルに落ち着いたそうなんだが。どちらも高レベルで行える香苗さんが前期最優秀とされたのもそれが理由らしい。彼女、どっちも一歩落ち位の超優秀な成績だったからな。

 

「香苗お姉ちゃんは、凄く……カッコいいです」

「そうね。静流さんは良家のお嬢さんってイメージだけど、彼女は……何というか、戦国時代のお姫様みたいなイメージかしら?」

「槍を持って敵陣に突入するタイプのな」

 

 麻呂重ちゃんの言葉に両親が相槌を打ち、室内に笑い声が広がる。本当に仲の良い家族なんだろうと感じる。前期の教官訓練では、彼女たち親子が一種のムードメーカー役を担っていたというのもうなずける話だ。

 

「と、すみません。少し脱線しましたが、先ほど話したようにこの地のダンジョン周辺の根回しはある程度終わっています。後は、現在存在する企業とぶつかり合わない規模に収めていただきたい所なのですが……」

「そちらに関しましては……」

 

 一条さんがビジネスモードに切り替わったのを察したのか、シャーロットさんはバッグから現状ヤマギシが各ダンジョン付近に設置する支社の規模や役割を話し始める。こうなると完全に俺達が手出しできることは無くなってしまう。

 

「どうしよっか」

「うーん、土佐ダンジョンに行ってみるか……でも花ちゃんがなぁ」

「あ、あの」

「うん?」

 

 手持無沙汰になった為、さてどうしようかと悩んでいると麻呂重ちゃんがそっと手を上げて声をかけてきた。一花は仲が良いからそちらかな、と思ったら彼女の視線は俺を向いている。首を傾げると、麻呂重ちゃんは意を決したように口を開く。

 

「こ、これから、い、一條神社の方に呼ばれてるので、お、お散歩行きませんか!?」

「……う、うん。良いけど」

 

 ずん、ずん、と前に踏み込みながら言葉にする麻呂重ちゃんに肯定の返事を返すと、彼女は「しゃーんなろー!」と小さくガッツポーズを決めてバタバタと部屋から出て行った。何事かと思ってすぐそばにいた一条の方さんを見ると、くすくすと笑いながら「あの子、結城一路のファンなんです」と答えを返してくれる。

 

「……あ、ああ。えと、変身しといた方が?」

「うちの娘がすみません。暫くお相手してくれれば途中で電池が切れると思うので……」

 

 いや、それは何かヤバいんじゃないでしょうか。あとシャーロットさん。その出来る……って視線止めてください。仕事中でしょう。

 

 

 その後、麻呂重ちゃん……本名は久美子ちゃんと言うらしい……が満足するまで市内を回る事になった俺達は、一條神社や四万十川を見に行ったりと観光を満喫。途中で本当に電池が切れたように久美子ちゃんが眠りこけてしまったので、一条さんの家まで背負って送り届ける羽目になったりもしたが、楽しい一日を過ごす事が出来た。

 

 シャーロットさんの方も順調に進んだらしく、明日からは支社の設立予定地を回ったり地元の業者との挨拶などを行うそうだ。そして勿論夜もBLACKさんのお店に顔を出した。まだジャンボハンバーグを食べてなかったからな……流石に他の面子はホテルでご飯を食べていたけど。二度目の来店は予想してなかったらしく、BLACKさんにまであきれ顔で見られたのは内緒である。




イッチシリーズに影響を受けた動画シリーズは他にもあったり(登場するかは未定)

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