奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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手直し中に投稿されちゃったので所々修正入ってます。

誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百九十五話 秋の風物詩、ならず

 さて、季節は秋。例年このくらいの時期になると毎年奥多摩には大量の教官研修受講者が来て賑わっていたのだが、今年は若干システム変更があり奥多摩周辺はいつもの臨時冒険者のお姉さま方で賑わっている。

 

 というのも、例年この時期は奥多摩の臨時冒険者受け入れが制限されて、その分の余剰で研修生を滞在させていたから、秋から冬にかけては東京の臨時冒険者の半数位は皆忍野ダンジョンの方へ行ってもらってたんだな。今回は滞在期間は2週間にまで絞り込まれたため、影響が最小限に抑えられる事になっている。

 

 この滞在期間の絞り込みは、例年の反省というか、各国の状況が整ってきたことに起因している。奥多摩で教官免許を発行するのは変わらないが、その前段階の教官研修。これは施設と教官の数さえ整えばどこの国でも行えるものだ。その為、昨年一気に教官の人数が増えた各国でその部分を行ってもらう事になった。

 

「ま。今年は倍以上の規模になるって言ってたしねぇ」

「流石に1000人近くも数か月滞在されたら洒落にならんな」

「そだね。しっかしお兄ちゃん眼鏡似合わないね」

「ほっとけ」

 

 参考書へ向けていた視線を上げてそう悪態をつく妹に、唇をとがらせて返す。俺だって仕事じゃなければ眼鏡なんて付けたくはない。だが、まぁ……我がヤマギシが誇る研究チームが開発した商品で、そのモデルになれと真一さんに言われれば弟分としては「ハイ喜んで!」以外の返答はない。

 

 俺が付けている眼鏡はヤマギシが新開発したもので、効果は簡単。一般人でも使用できる程度の魔力量で発動するヒールをエンチャントしており、何時間作業をしても目が疲れない、という物だ。

 

 一般人でも、という言葉通り多少の疲労回復くらいしか期待できない、非常に弱い回復効果しかないが、実際これを付けているとずっとパソコンやスマホを眺めていても目が疲れない。むしろ視界が澄み渡るように感じて眠気覚ましの効果も期待できそうだ。

 

 フロートの際に重要技術過ぎて大事になった経験と大掛かりな物は生産能力が追いつかないという世知辛い理由で、真一さんたち開発チームは今年度の開発傾向をかなり変更したそうだ。もっと身近な、まさにこう言ったアイテムが欲しいと言われるような。民間でも活用できるような路線の商品を次々と生み出そうと開発を進めている。

 

 その一つがこの誰でも使用できる身体補助機能を付与したマジックアイテムだ。機能と効果を限定的にしている分作りやすいし、量産もしやすい。今年は一般的に普及しそうな商品を出していこうと社員からもアイデアを募集して色々作っているのだが、この眼鏡や同じ機能のクッションなんかはかなり需要があるんじゃないだろうか。

 

「これなら他所の工場でも作れそうだね」

「それもある。うちは殆どの生産能力を魔力電池とフロートボードに傾けてるからな」

 

 ヤマギシは大規模な工場を持ってるが、それらは全て魔力電池とフロート製品の生産に使われており、他のマジックアイテムが作れない状況だ。しかし、魔法という物が知れ渡り、一般庶民にも結構な割合で魔力持ちが出てきた昨今。魔法を使った便利な商品を求める声はどんどん高まっている。

 

「法律的にはどうなの、これとか厚労省辺りがまたブーブー言いそうじゃない?」

「なんか効果を弱めてるのがそこの対策でな。『体力回復の補助』みたいな言葉をつけて通そうとしてるみたい。向こうも最近は協力的だから、色々アドバイスを貰ってるみたいだよ」

「ふーん。まぁ、あのお兄ちゃんと恭二兄ちゃん拉致ろうとしたあいつが居なきゃ良いや」

「もう退職したらしいぞ。実家の権力振りかざしてやりたい放題してたらしいから、誰も助けを入れなかったらしい。哀れなもんだ」

 

 哀れだと思うだけでそれ以上は何も感じないがな。魔法を使ったという事例でモルモット扱いされかけたのは何だかんだで物凄く怖かった。あの時、社長やうちの爺さんが来てくれなきゃどうなってたか分かったもんじゃない。

 

 あれも日本だから助かったんであって、もっと国が強権を持ってる国生まれだったら今頃どうなってたか分かったもんじゃないし、ベンさん達が警備系統を組織してくれて本当に助かった。この六法全書みたいな冊子の山を読み解く仕事もそれを思えば安いもんだぜ。

 

 

 

 さて、ベンさん達の加入によりヤマギシには新たな子会社が誕生した。その名もズバリ「警備会社ヤマギシ」である。

 

 これまでは外部委託で警備員さん達に見回りや本社ビルの監視カメラを見てもらう、一般的な警備は行っていたが、ベンさん達から「とてもじゃないがこの警備体制では不十分」だとの指摘が入り、彼らの入社から1週間後にはまず形だけ、その次の週には今まで契約していた警備会社さんを丸ごと買収、そこを母体にして体制を一新して完全子会社化し、更に米軍や自衛隊に求人を出して即戦力となる人材を募集し始めた。

 

「任期明けの自衛官の就職口を紹介するのもどこの駐屯地も苦労していましたからね。ヤマギシのような優良企業が引き受けてくれるならもろ手を挙げて歓迎してくれるはずですよ」

「米軍も同じデース。日本大好き、一杯居マス。彼等へ声掛け、任せて下サーイ」

「まぁ、流石に冒険者としての訓練を受けた隊員は米軍も自衛隊も出そうとはしないと思いますがね」

 

 ジュリアさんがそう纏めてくれたが、それでも十分すぎる。元々今の警備会社の人たちはほぼそのまま雇用されるという事だし、彼らには順次冒険者としての訓練とベンさん監修の警備マニュアルを身に着けてもらい、元自衛官、元米軍が入隊する頃にはベテランとして新人教育を担当してもらうそうだ。翻訳という魔法があるヤマギシは外国人の雇用が楽だからな。電話とか無線が困るから、最終的に日本語を覚えてもらう必要はあるけど。

 

 マニーさん達ヤマギシセカンドチームもベンさん達と協力して警備会社のテコ入れを行ってくれるそうだし、2〜3か月もすれば誰か社長を代わってくれる人も出てくるはずだ。うん。そうに違いない。そうだと嬉しいな。

 

そろそろ番外編見たいか否か。見たいなら何が見たいかもオナシャス

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