『ヤマギシ警備保障』は元々青梅にあった合同会社青梅警備保障という会社を買収し、土台として形を整えた企業だ。100%ヤマギシからの出資で、子会社というより完全に別部署位の距離感だな。
社長業なんて当然やった事はない為、色々と覚える事ややらなければいけない事は多い。が、その辺りはジュリアさんと、意外かもしれないがベンさんが補ってくれている。
日本語が怪しかったり秋葉原に魅了されてたりと愉快な面が目立つが、流石に超エリートコースを歩んできた代議士の息子は格が違う。
副社長として実務のトップに立ったベンさんはあっという間に組織の形を整えると、ジュリアさんとタッグを組んで社長業初心者の俺の為に分かりやすく仕事を仕分けてくれた。
覚える順番にまで気を遣ってくれてたらしく、それ程期間も掛からずに一通りの業務内容や基礎知識、それに現場で実際に勤務をしたりと必要と思える知識を覚える事が出来たのは、二人が優秀な教官であったのが大きい。
『ボスの覚えが良かったのもありますよ!』
「そう言って貰えると有難いですね」
ヤマギシ警備保障の制服……黒に近い色合いのスーツに身を包んだマニーさんは、俺の背中をバンバン叩きながらそう言って豪快に笑う。さて、スーツの部分で気付くかもしれないが、昨年の秋を覚えているだろうか。
「今年もよろしくお願いしますね。鈴木さん、いえ、鈴木社長!」
「来年からどうするか、本当に考えた方が良いよ? がくちょー」
今年も文化祭の季節がやってきた。記念すべきヤマギシ警備保障の初社外依頼は、一花が通う学校の文化祭警護の仕事となる。当然格好は去年と同じく全員スーツ……ではない。他の面々はそれぞれスーツ姿ではあるけれど、まぁちょっとしたお仕事がある俺は今回例外扱いになる。
「何か上手いこと言いくるめられた感じがするんだけど。というかこっちで教育してた警備員さん達は?」
「とてもじゃないけど捌き切れないって向こうの会社が悲鳴を上げてるみたいだよ! 来年どうする気なのかな? かな?」
「今年は例年に増して、その。断れない筋からの来客が多くなりまして……」
半分やけのような一花の言葉に、平身低頭といった様子の学長。まぁ、ウチとしては丁度良いタイミングで実習が出来るし、良いんだけど。来年は流石に受けないぞ?
今年は身内からの頼みって事で依頼されたんだから。マスクを被りながらそう学長に伝えると、彼は非常に困った顔で愛想笑いを浮かべた。これ頼む気だったな絶対に。他所からのやっかみ受けるのはそっちなんだけどね。
昨年の文化祭が話題になった事もあり、今年の文化祭はかなり来場者が多いと事前に伝えられていた。学校側も決して無能ではない。花たちのような芸能関係者は家族だけではなくマネージャーを側に置く事も認められていたし、事前に警備員を倍増させるなどの対策を取っていた。
ただ、対策をとってもそれが十全に役に立つとは限らないのが世の中というもので。
「きゃっ」
「花ちゃん!? ちょっ、ちょっと貴方たち!」
「すみません松井さん! 一言、一言お願いします!」
どうやって入り込んだのか。報道関係だろう男は花を庇おうとするマネージャーを押しのけて無理やり花にカメラを向けて迫ってくる。しかも一人ではなく、数人連れという状態で。
夏休みの間は先輩である一花の好意で雲隠れし、学校が始まったら学業優先という事である程度報道関係をシャットアウトできていた。その事が更に報道関係者の過熱を生んでしまったのは皮肉と言っても良いかもしれない。
血走った眼で花に迫る男の圧力に、花が「ひっ」と小さく悲鳴をもらしたその時。
開け放たれた窓から飛んできた白い糸が男の手に持ったカメラを絡め捕り、ひょいっと手からカメラが奪い去られた。
呆気に取られる男達に次々と糸が巻き付けられ、あるものは壁に、あるものは足を床に縫い付けられるように動きを封じられる。騒然とする周囲はその光景に「まさか」を想定し、全員の視線が窓枠に向けられ……
「……お兄、ちゃん……っ!」
「たく。あんまりボーっとすんなよ。大丈夫か、ハナ」
手作り感のあるマスクを被った『小柄な人物』が廊下に現れた事で、周囲は爆発するような歓声を上げた。
マジック・スパイダーをよろしく! という言葉を周囲にかけて拘束した報道関係者を巡回していたマニーさんのチームに引き渡す。
今回エージェントスタイルにしなかった理由は、次回作を匂わせる感じでというスタンさんのお願いをこなす為と、いかつい感じの顔立ちの人が多かったからってのもあるんだよな。
多分こういうトラブルが多いと事前予想されてたから用意したんだが、2m近いマニーさんがにこやかな表情を浮かべながら肩を掴んでくるのは凄いプレッシャーらしく、一気に委縮した彼らの顔を見るにこれが正解だったようだ。
「おに、じゃなくて……一郎さん、助かりました……」
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだけど……ハナちゃんなら良いかなぁ……というかお持ち帰りできないかなぁハナちゃん」
「駄目です我慢しなさい。気にしないでいいよ、これ仕事だから」
パーカーとマスクを被ったまま答える。これが仕事着だから外すわけにもいかないんだよね。エアコントロールのお陰で熱いとも寒いとも感じないけどさ。変身して誤魔化しても良いけど何かの拍子にアンチマジックされても困るしな。
お察しの通り今回のコスチュームはMSで、基本ともオールドともいわれているスタイル、手作りマスクにパーカーという出で立ちで周囲を見回っている。ちゃんと仕事だぞ?
騒ぎになるだろうって、そりゃ大騒ぎだよ。先程から周囲を大名行列みたいに人が囲んでカメラやらビデオやらが回されてるし、さっきみたいな報道関係者もうろうろ歩く俺について回っている。
というか後ろに付いて来てるのさっきの記者さんだしな。口頭で注意した後、周囲に迷惑行為をかけない事と2m以内に近づかない事を条件について回っても良いと許可を出したんだ。この様子を別の視点から撮ってる事も伝えているが、むしろ喜んでいたな。写真の信ぴょう性が出るとか何とか。
「つまり、俺は盛大な囮兼今年のメインゲストなわけだ」
「随分と豪勢な囮だね?」
「他の警備が楽になるだろ。まぁ部外者ばかり目立ってもアレだし、ここは華を二人引き連れてだな」
「花だけにってかやかましい! あ。おーい、まこちゃんこっちこっち」
キメ顔で放った洒落を妹に叩き切られてへの字に口を曲げていると、一花が目ざとく群衆から誰かを見つけて引っ張ってくる。お、去年暴漢に襲われてたジュニアアイドルの子やん。サインもらお。お礼? 別に良いんだよ仕事中だし。所でサイン……サイン欲しい? え、あ。はいどうぞ。
……うん? 護衛対象からサイン強請られてるのは何か可笑しくないか?
そろそろ番外編見たいか否か。見たいなら何が見たいかもオナシャス
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