奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第百九十九話 36層

 最近はこの牛頭と戦うだけで牛肉が恋しくなってくる。結構な頻度でステーキを食べてるんだが、食べても食べても食欲は尽きないというか。もしかすると俺の特性って実は右腕じゃなくて大食いなんじゃないだろうか。

 

「んな訳ないだろう」

『ブモォォォォ!』

「ドラアアアァァァ!」

 

 ミノタウロスの突撃に対し、相手の足元にフロートをかけて邪魔するというやたらと器用な事を恭二が行い、そこに真一さんのストレングスマシマシの槍の一撃が襲い掛かる。ドゴン、と凡そ生物に槍を突き刺したとは思えない音を立ててミノタウロスに大穴が開き、そしてミノ吉は煙となって消えていく。

 

 接近戦でもこのチームなら問題なしか。流石にあの斧の一撃を思い切り貰ったらバリアごと貫通されそうな気がするが、逆にあの大振りにさえ気を付ければもうこいつは敵じゃない。むしろグラヴィティ対策が必要なサソリの方が厄介だと思える。2、3体纏めて位なら正直小細工なしでも真っ向戦えそうだな。

 

「この斧、そういえば成分はどうなってるんですか?」

「上の階層のゴブリンなんかと同じだな。ただ、やたらと魔法の通りが良いらしいからこれもマジックアイテムらしいが」

「かなり高品質の魔法の斧って読めるぞ」

「……そうだよ。お前に見せれば早いんだったよ」

 

 恭二の言葉に真一さんが今思い出したとばかりにげんなりとした表情を浮かべる。いや、そうは言っても成分表なんかは恭二じゃ分からないんですから。一回溶かす必要があったと思いましょう。

 

 しかし、魔法の斧か。これもしかして俺触らない方が良いんだろうか、と拾おうとした右手を引っ込める。そもそも持ち手が人が持つサイズじゃないから片手じゃ持てないしな。両手で抱えていきなり意識を乗っ取られるとか怖すぎるから用心しとかな。

 

「いや、流石にそれはないと思うけど。多分……」

 

 赤く発光する左目で捕捉しながら恭二はドロップ品の斧を両手に持ち、「よいしょっと」と気の抜ける掛け声をあげる。すると、恭二の持っている部分から斧が白く発光し始め、みるみるそのサイズを小さくしていった。

 

「おいおい」

「ちょ、恭二兄ちゃんそういうのはカメラを待ってよ!」

「ああ、すまん」

「わー、すごいすごい! もう一回やってよきょーちゃん!」

 

 呆れた様な真一さんの声に正気に返ったのか。一花がぷりぷりと恭二に文句をつけ、それに恭二は参ったな、とばかりに頭をかく。ここ最近気落ちしてた一花も恭二と沙織ちゃんの復帰に伴い前の明るさを取り戻したように感じる。その事に安堵しながら俺は自分の足元にある斧を拾い上げてみる。

 

 あ、確かに魔力吸われる感触はあるな。魔鉄と同じか……まぁ初めて魔鉄に触った時より魔力も増えたし、いきなり右手が吸いつくされるなんて事はないか。などと頭の中で考えていると、斧がいきなり発光を始めてそのサイズを変え始める。

 

 え、この現象、自動発生するのか?

 

「多分、持ち手が魔力を込めればそれに合わせてサイズを変えるんだと思う」

「うわ、凄い。質量保存の法則ガン無視だね!」

「魔法だからなぁ」

 

 魔法だからって言葉が便利すぎて困る。この現象に思わず真一さんが技術者魂をヒートアップさせて乱獲を宣言しかけたが、ミノ吉のドロップ品は恭二の収納の中に結構な数あるからな。10個くらい元のサイズの斧をドスンドスンと落としてやったら正気に返ってくれた。

 

 さて、それじゃあついにボス部屋だ、と意気込みテンションマックスになる恭二をしり目に、俺と正気に返った真一さんは事前にある程度の陣形組み立てについて話をしながらボス部屋をのぞき込み。

 

「……馬?」

「牛頭の次は馬頭か。牛頭馬頭を現してるのか?」

「あはっ。さながらダンジョンは地獄の途中って事かな!」

 

 ミノ吉の馬頭バージョンという風体のボスの姿に各自が好き放題感想を言いながら陣形をとる。いきなり全方位に攻撃が来る可能性もある為後衛組はアンチマジックの準備、前衛は俺、恭二、そして沙織ちゃん。シャーロットさんと一花がアンチマジックをいつでも飛ばせるように準備し、中衛になる真一さんはいつでも援護に入れるようにレールガン用の鉄礫を両手に持っている。

 

 そして準備万端突撃した俺達は思いのほかあっさりと牛頭馬頭を打倒し、35層をクリアする事になった。牛頭と大して変わらなかったからさ……対策全部そのまま適用されちまったらそらこうなるわ。

 

 

 

「ストップ」

 

 35層から下る階段を降りていくと、風景が一気に切り替わる。

 

「……森か?」

「トンネルを抜けるとそこは森でしたってね。うわー、これはエルフでも出てきそうだね」

「エルフ。是非見てみたいですね」

 

 鍾乳洞の中からいきなり森に続く道の中に放り出された形になったが。どうしようかと真一さんに視線を向けると、すでに採集用の瓶を手にせっせとその辺の草や木なんかからサンプルを取っている姿が目に入る。思いの外焦り気味な表情なのは恐らく気のせいじゃないだろう。

 

 うん、これはあれだ。今回はここまでだ。

 

「恭二」

「……分かってる。これ、間違いなく迷わせて来る奴だろうな」

「GPS機能はヘルメットについてますがこれはどちらかというと受信用ですからね……」

「あと、流石に未知の植生の森に突っ込むのは怖いね。茸の胞子にやられて茸人間とか起きても可笑しくないし」

 

 ダンジョン内では常にエアコントロールをかけているが、触ったりしたらそれが服に付着する可能性もある。地上でパンデミックが起こるのは流石に不味いだろう。

 

 各自が持ち込んだ採集用の小瓶に、恭二の収納に入れてある小型のスコップを使って土や木、草などを削り取って詰め込み、またビニール袋に周辺の空気を取り込んで口を閉じる。ここからの帰りは恭二のゲートだから一瞬で済むが、念のために洞窟エリアに戻って各自の頭に殺菌用のアルコール液をぶちまけておく。

 

「とりあえず植物防疫所に連絡だな」

「ダンジョン入口に検疫所を作るって話、進んでるんだっけ?」

「ダンジョン法への追加で盛り込んでるらしい。自費で作っても良いんだがもう少しかかるそうだ」

 

 鍾乳洞エリアで魔力を浴びると光る苔が発見され、ダンジョン自体にも素材と呼べるものが存在する事が発覚してからかなり経つ。その間、そういった持ち込み品に対して色々と議論が行われていたのだが、政府と野党の間で揉めていて中々話が進まないらしい。

 

 どちらも利権に関するお話らしく、折角ただで大量に手に入りそうな素材なのに光苔(俗称である。まだ正式名称はない)は未だに『危険かもしれない』というだけの理由で恭二の収納にしまい込まれている。植物防疫所に持ち込んで一応問題はないとお墨付きも貰ってあるんだがな。

 

 まぁ、魔法関連は完全に現政権、今の与党の成果とみなされているのでそれに噛みつきたいのは分かるんだが、正直政治の道具にされるのはあんまり好きじゃない。総理には大分お世話になってるし政権側が頑張ってくれてるのは分かるんだがな。

 

 などとまた暫く足踏みしそうな気配に恭二がぶすぅ、とむくれていた時。状況の打破は意外な所から行われる事になった。

 

『イギリスにようこそ、い、イチローさん!』

『お久しぶりです。マ、マスターを英国にお迎え出来るとはこのオリバー』

『そういうの良いからね!?』

 

 ロンドンの国際空港に降り立った俺達をマクドウェル兄妹が迎えてくれる。兄妹揃って相変わらず面白いなあ。この二人は。

 

 え、うち? うちは普通の兄妹ですよ。




36層以降のデータが一切ない。どうしよう。

そろそろ番外編見たいか否か。見たいなら何が見たいかもオナシャス

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