奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百話 ロンドンダンジョン

 そこそこ値の張りそうな年代物のヴィンテージカーに揺られて1時間。ロンドンから少し離れた郊外にマクドウェル兄妹の暮らす屋敷はあった。

 

『お待ちしておりました』

『父上、帰られていたのですか』

『大事なお客様がいらっしゃるのに悠長に仕事に行っても居られないからな。急いで戻って来た』

 

 使用人らしき男性たちが慌ただしく荷物を運んでくれる中、何となくオリバーさんの面影をもった初老の男性がにこやかな表情で俺達を出迎えてくれる。イギリスでも有名な実業家らしいマクドウェル氏はイギリス冒険者協会の理事で初期の頃からの支援者であり、世界冒険者協会内部でも重鎮の一人として数えられている人物だ。

 

 何度か日本にも渡って来ていて会合なんかで顔を合わせた事があるが、こうして私的な状況で顔を合わせるのは初めてだな。

 

『ご無沙汰しております。今回は急な訪問を受け入れていただきありがとうございました』

『いえいえ。栄えある36層の調査に我がロンドンダンジョンを選んでいただけた事は望外の喜びです。ロンドンダンジョンも決して奥多摩やテキサスダンジョンに劣った設備ではない事をアピールする絶好の機会ですからな』

 

 自信を持ってそう断言するマクドウェル氏に真一さんは『頼もしい限りです』と英語で返事を返し、にこやかな表情で握手を交わす。ロンドンダンジョンはロンドン市の郊外に出現し、非常に行き来の利便性が良いと聞いたことがある。

 

 ロンドン市に近く、郊外の為土地も確保しやすい。山を全て崩して平地にした奥多摩というような立地の為、テキサスほどじゃないが結構大規模な開発が行われているとアイリーンさんが言っていた。

 

 また、ダンジョン内部も奥多摩と違って若干迷宮の内部構造が変化しており、20層位から出てくるワーウルフなどの出現エリアである石造りのダンジョンは、見渡す限りの草原のようになっているそうだ。

 

『我々としても持ち帰ってきた草木がどんな細菌を持っているかは懸念しておりました。その為、防疫所等に関しては早い段階から設置して運用しています』

『成程。日本だとその辺りは後手後手になってしまいました』

『その分、日本の冒険者協会は様々な試みを積極的に行っていると思います。政治の分野で手が出せない物は仕方のない事かと』

 

 マクドウェル氏がそう言って顔を曇らせる真一さんに同情するといった風に言葉をかける。彼にはすでにこちらの内情は大体伝わっているのだろう。全面的にヤマギシチームのサポートに徹すると約束をしてくれた。勿論、36層のデータは真っ先にイギリス冒険者協会に提供するという見返りもあるけどな。

 

 今現在、30層より下の階層に挑戦した事の有るチームは日本とアメリカにしか居らず、各国はそのデータを元に自国の冒険者が到達しうるだろう階層を試算して十分安全マージンを取るような形で冒険者チームに指導している。

 

 これは、新発見を目指すよりも魔石という新エネルギーの媒体を入手する事を各国が優先しているからというのもある。各国の冒険者協会としてはせっかく育てた精鋭冒険者チームが一度の探索で全滅する可能性を恐れているわけだ。実際、20層まで潜った事の有る人物はバンシーを経験している。

 

 そして、30層に入ってすぐに起きた重力場という新魔法の存在。その場に恭二という最も魔法に精通した人間が居た事と、たまたま反属性魔法の軽量化を常時起動していた俺が居たからあの場は何とかなった。

 

 しかし、もし他の人間があのサソリと何の知識もなく対峙していればどうなったかはまぁ目に見えている。何も出来ずに圧殺されていたかあの尻尾で刺殺されていたはずだ。

 

『だからこそ、貴方方のデータは貴重なのです。二度にわたって致死級のトラップを潜り抜けた貴方方ヤマギシチームは貴方方が思う以上に各国の評価と尊敬を集めているのです』

 

 マクドウェル氏の言葉に一時は引退を考えていた真一さんが微妙そうな顔を浮かべる。実際二回も何もできずにただ死が向かって来るのを待つ状況に陥ったら、普通は立ち上がる力を無くすか逃げ出してしまう。恭二のようにダンジョンに魅入られていたりしなきゃ普通はそれが正常なんだ。

 

 俺も恭二に付き合っているだけだし、潜らないで良いんなら好き好んで危険な新層探索なんかはやりたいとは思わない。それが普通の人間だろう。そして、冒険者協会という組織が発足して、各国に職業冒険者が誕生してから数年。未だに無茶な冒険をして冒険者が死亡した、という事は少なくとも冒険者協会がある国家では起こっていない。

 

 これこそ冒険者協会という組織が存在する最大の利点だと俺は思っている。

 

『オリバーさんやアイリーンさんは30層より下でも十分通用する技量を備えていると思います。我々も全員が常に探索に当たれるわけではない為、ご助力は大変ありがたいです』

『こちらこそ。貴重な経験を我が国の冒険者に伝えて頂ける今回のご提案は大変ありがたいものでした……二人をよろしくお願いします』

 

 最後に一瞬だけ、冒険者協会の理事ではなく二人の父親としての表情を浮かべてマクドウェル氏は頭を下げた。オリバーさんが冒険者になりたいと言った時、マクドウェル氏は最初猛烈に反対をしたらしい。兵役を経験した事のある氏は、命の危険がある冒険者という存在に最初は懐疑的であったそうだ。

 

 辛抱強く説得してくるオリバーさんの言葉と、ブラス家・ジャクソン家による米国の動き。それらを見て、実業家としてのマクドウェル氏は冒険者という分野に一筋の光を見出し支援を決定。しかし、一人の父親としては子供達が常に命の危険にさらされるかもしれない、というのはやはり怖いものだという。

 

 冒険者という職業は、相手がモンスターである以上やはり必ず安全という言葉がつかえない。実際、情報のないモンスターと戦う時は最先端に居ると言われているヤマギシチームでも死の危険を感じながら戦っている。残された家族は今日の朝行ってきますと言っていた家族が帰ってこないという事もありえるのだ。当然、内心はとても怖いだろう。

 

 ロンドンダンジョンは事安全面においての制度は恐らく欧州一で、マクドウェル氏の思想を反映してか厳重なメディカルチェックや装備点検の義務化などを行っているらしい。それらについても学んで、日本のダンジョンにフィードバックしていかないといけないな。

そろそろ番外編見たいか否か。見たいなら何が見たいかもオナシャス

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