奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。見習い様、所長様、kuzuchi様ありがとうございます!


第二百三話 ダンジョンの森

 念の為という事で渡された防護マスクを被り、エアコントロールも発動。俺達は再び36層へと足を踏み入れる。

 

『これ……少し植生が違うかな』

『周辺の地形は似通ってるけどな』

 

 今回もデータ取りに周辺の物を採集しつつ、カメラで外観や生えている植物等を撮影。後は念の為に上空からドローンで映像を確認しよう。

 

『蛍光剤はうちのチームの浮遊貨物車から垂らしますね』

『お、よろしく! 道に迷うのはやっぱり怖いしね!』

『GPSはあるけどこれが狂ったら目も当てられないからな』

 

 今回、予想される障害……森林内部の見通しの悪さと遭難の可能性を踏まえて、イギリス冒険者協会と相談の結果幾つかの装備を特注する事にした。

 

 例えばGPS追跡機能を付けたドローンを使い上空から近隣の映像を流しながらマッピングを行い、スタート地点に設置したキャンプ地に情報を集積し、マッピングやデータ収集を行っていく。

 

 また、イギリスで開発されたフロートを用いた全地形対応型の荷物運搬車両にブラックライトに反応して光る蛍光インクを乗せており、移動に合わせて少量ずつインクを垂らしてくれるようにタンクと機械を積んでいる。後は念のために虫よけもかけとく位か。

 

 恭二の直感だが、恐らくこの森は方向感覚を失わせて迷わせるような造りになっているだろうとの事だから、これ位の準備は当然行っておくべきだろう。

 

『とりあえず今日はどうする?』

『オリバーさんのチームにも手伝ってもらってるし、出来る限りさっさとデータを集め切りたいなぁ』

『俺も工場の設営の話し合いがあるからな。フランスにも渡らないといけないしあまり時間は取れなくなる』

 

 どこまで行くかの問いに対して恭二と真一さんはあまり手間をかけられないと断言した。実際、現在ヤマギシチーム6名とマクドウェルチーム6名がキャンプ地に詰めている。恐らく次回からは恭二か真一さんが抜けるし、来月には俺もアメリカへ渡らないといけないからそれほど手間をかけることは出来ない。

 

 なら、話は決まりだ。とりあえず今日の段階でボスを倒して次の階層もチェックしてしまおう。真一さんも恐らくその考えだったのだろう。俺の考えに頷いて、キャンプ地にオリバーさんの仲間4名を残してデータの収集と万一の時の情報管制を行ってもらい、ヤマギシチーム6名に荷物護衛用にオリバーさんとアイリーンさんを連れて俺達は森の中へ足を踏み入れた。

 

『全員、レジスト』

『了解』

 

 だが、森へ足を一歩踏み入れた途端、先頭の恭二がピタッと足を止めて手で全員を制止し、指示を飛ばす。レジストを発動させておく……おおう、なんだこれは。レジストを発動したとたん、先ほどまで森の道だと思っていた先には道のない藪が広がっていた。

 

 騒めく周囲をしり目に恭二は足を踏み入れていた藪から出てきて周囲をキョロキョロと見回し、「あっちだな」と右手を上げて森の一部を指さした。そこには確かに先程までは見えなかった小道のような物が広がっていて、自分たちが歩いていた森へ続く道は途中から左に曲がってその小道へ続いているのが分かる。

 

『……何故気付かなかった』

『多分外からレジストをかけても分からんわ。森の手前位からかな。違和感があったから使ってみたら案の定だった』

『……迷いの森……何かの伝承に出てきそうですね』

『ああ。でもレジストが効いてる内は大丈夫っぽい』

 

 精神に働きかけるタイプの何かがこの森を覆ってるって事か。しかも幻影タイプ。うわぁ、めんどくさいわこれ。とりあえず新しく出てきた道の方へ足を進めてみよう。念のためにスパイディに変身をしておくと、さっきからセンスがビンビン感知しっぱなしである。この森自体が冒険者に悪意を持ってるように感じる。

 

 全部焼き払った方が良いんじゃないかなとかちらっと思いながらも獣道のような小道を進んでいくと、途中から道が途切れて藪になっていた。道が消える事は野山ではよくある事だ。こいつは将来猟師になる事を視野に入れていた狩人一郎氏の出番かな。

 

 等と思っていたら恭二が何を思ったのかフィンガーフレアフェニックスを雨の様に森に向かって撃ち込み始める。

 

 いきなり始まった森林への放火に周囲がドン引きする中、空気を読んで俺はそっと恭二に声をかけた。

 

『え、唐突な環境破壊?』

『違うわ! 多分、これで……』

 

 数十発の不死鳥が撃ち込まれたその場は一面山火事のような状況に陥っており、エアコントロールで空気の壁を作って無ければ、俺達も余波を受けていただろう。

 

『ギョエエエエエェェェ!』

 

 そして響き渡る悲鳴。炎の中で数本の木らしき何かがのたうち回るように燃え移った炎から逃れようと枝をくねくねと動かしている。やがてそれらは他の木々と同じように動かなくなり、恭二が「もういっか」と手のひらから猛烈な勢いで水を噴射して周囲を鎮火すると、林だと思われていた部分はきれいさっぱりとなくなっていた。

 

 転がっている大量の魔石を見るに、まぁ、うん。モンスターだったんだろうが……

 

『え、もしかして今のモンスター? だ、だってモンスターの反応が』

『目で見たら分かったんだ。こいつらただの木じゃないって』

『……擬態能力……しかも、魔力の感知を誤魔化せるタイプの』

 

 真一さんが不味いモノが来た、と眉をひそめる。モンスターを感知する能力は冒険者にとっての生命線の一つだ。これが出来ないとなるとかなり対処が難しくなる。

 

 しかも、外観は全く普通の樹木と見分けがつかない。だから恭二も周囲ごと焼き払ったのだろう……こいつは、見分け方が見つかるまで、危なすぎて恭二抜きじゃこの階層に潜れんぞ。

 

 ボスも見ておきたいという恭二の言葉に頷いて俺達は再度進行を開始する。しかし、最初の時と違って皆の足取りは重い。というかこれ、あれか。さっきからスパイダーセンスがビンビン来てるのって、森自体じゃなくて森に擬態した連中の反応だったのか。

 

 とりあえず怪しいと思う場所にガンガンフレイムインフェルノをばらまくスタイルで森の中を焼き払いながら進み、そこそこ広いマップの端まで移動。このフロアに入った瞬間から感じていた大きな気配の持ち主の所へと俺達は到達する。

 

 そして、そこに奴は居た。

 

『……oh……』

『こいつはやべーな』

 

 思わず、といったオリバーさんのため息を聞きながらぽつりと呟く。そこには過去最大級の5、6階建てのビルみたいなサイズの巨大な樹のモンスターがこちらを睨みつけるように立っていた。

 

 まさかイギリスにきて怪獣と戦う羽目になるとは読めなかったぜ。ライダーマンの頭脳でもな。

そろそろ番外編見たいか否か。見たいなら何が見たいかもオナシャス

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