奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今週もお疲れさまでした。
遅くなって申し訳ない。職場で色々あり帰り道でタイヤがパンクし予定が未定でグダグダの状況で作る事になりまして(吐血)

暫く更新は不定期になります。ご了承お願いします。
あ、誤字修正は起きてからやります。
今はとにかく眠い……

誤字修正。244様、アンヘル☆様、kuzuchi様ありがとうございます


番外編 映画を作ってる最中の小話

 ニューヨークのとあるビル街の一角。高層ビルが立ち並ぶその区画に、ひっそりと周りのビルに隠れるように立っている一つの建物。外観は普通の商業ビルに偽装されたその建物の中にスーツ姿のアジア人の男性が入っていく。一階のフロントに声をかけて許可をとり、エレベーターに乗って3階を押し、そしてそこで降りた後に隣のエレベーターに乗り込み15階を選択。

 

 高速で移動するエレベーターが数十秒で15階へと到達すると、ドアが開いてすぐの場所にまた指紋認証形式のドアが出てくる。ここはどこの秘密基地だと思いながらアジア人の男性……山岸真一は変身を解き、携帯電話を耳にあてる。

 

 ほどなく出てきた弟分の声に到着した旨を伝えると、数分後に指紋認証のドアが音もなく開く。ひょっこりと顔を出した弟分の顔に、真一は少しだけため息をついた後、片手をあげて久しぶりだと挨拶を交わした。

 

 

 

『やぁ、お久しぶりですね若社長』

『ははは。まだ社長はオヤジですよ』

『ヤマギシブラスコの方は君が社長だろう? 米国ではすでに注目の若手実業家なんだ。もっと胸を張って張って』

 

 バンバンと笑顔で真一さんの肩を叩くスタンさん。真一さん、スタンさんみたいなタイプは苦手なのか押されっぱなしである。まぁ、この爺さん大分距離感近いしな。ウチの爺さんや財界のお偉方を見た後にこの人を見たら大分戸惑うのは分かる気がする。これでウチの爺さんみたいなタイプとも仲良くできるんだから本当に不思議な人だ。

 

『ああ、話し合いの前に折角来てもらったんだ。社内でも見ていくかい? 最近ここに入ったとあるファンは涙を流して喜んでたよ』

『ウィルって名前の奴です』

『は、ははは。いえ、残念ですが、この後も回る所があるので……』

 

 スタンさんの言葉に乾いた笑顔を浮かべて真一さんは首を横に振った。ウィルの奴、初めてここに入った時にその場でマスターへの感謝の祈りとやらを数分間捧げて周囲をドン引きさせていたな。膝の皿に思い切りローキックを打ち込んでおいたのだが、最近ますます頑丈になってきたあの男はけろりとした顔で「痛い痛い」と言っていた。

 

 勿論、後程この話を聞いた一花が似非幻想殺しを打ち込んで悶絶させた為、制裁は完了している。あれ、バリアを突き破るくせに自分のストレングスはそのままという割と卑怯臭い魔法なんだ。似た様な魔法が使える恭二でもそこまで細かくコントロールは出来ない為、ほぼ一花のオンリーワン魔法になっている。

 

『さて、じゃあ契約のお話をしようか』

『ええ。で、これからの一郎の今後のスケジュールについてですが、ヤマギシとしては……』

『まぁ、彼のスタンスは冒険者が第一だからね! 僕らとしてもそこは……』

 

 まっすぐスタンさんのオフィスにやってきた俺達は、部屋の中央に置かれたソファに腰掛ける。スタンさんと真一さんは今後のスケジュールについてを話し合っている。俺の意見はすでに会社側に伝えてあるため、後はすり合わせる形になるわけだ。

 

 本来は真一さんが来る理由は無かったんだが、スタンさんが一度真一さんとは話し合ってみたいと言い出した事と、シャーロットさんが多忙だった事。また、たまたま真一さんがアメリカに渡米していた事が重なりこの会談が実現した。

 

 とはいえ、スタンさんが何を言い出すか分からず戦々恐々としていると、一先ずの方針についての合意が取れたのか二人が握手を交わした。どうやら合意がなったらしい。あ。終わったのか。よかった、と思ったのもつかの間。

 

『所で君、ヒーローになる気はないかい?』

『嫌です』

 

 握手をしたままそう笑顔で尋ねるスタンさんに笑顔を浮かべたまま即答で返す真一さん。残当以外の言葉が浮かんでこないのだが、スタンさんは至極残念そうに首を横に振った。

 

『ルックスも良いし運動神経もある。実業家とかの難しい役どころも出来るんじゃないかと』

『あの、スタンさん。流石に真一さんは時間が』

『無理かぁ……実業家をダブルスパイディの教官にするのは面白そうかなぁと思ったんだが……』

 

 それはそれで見たいけど真一さんはヤマギシの屋台骨なんでそこを引っこ抜かないでいただきたい。社長? 社長も頑張ってるよ。社長はほら、頭部だから。うん。頭脳はシャーロットさんと真一さんが二人で左右分け合ってる形になるけどね。

 

 というか現在でも一杯ヒーローをやりたい俳優は居るでしょうしダンジョンに潜ってる俳優なんかアメリカなら多いだろうに、と伝えると途端にスタンさんは渋い顔をする。

 

『君とウィル君がハードルを上げまくったせいでなり手が居ないんだよ。というか監督がOK出さないんだ』

 

 いや、それを俺に言われても。その、困るというかね。確かに映画の撮影の時に監督がやたらと褒めてくれてるのは分かってるんだけどさ。俺の素人臭い演技に目を瞑って褒めてくれてるんだとばかり思っていたんだが。あ、演技というよりも運動能力の方? それこそスタントマンを雇うべきだと思うんだけど、そういう意味でもないんだろうな。初代様経由で人を呼ぶしかないんじゃないだろうか。

 

 合意が為された為、仕事の時間は終わりという事か。スタンさんは戸棚から最近のお気に入りだと小皿に入れたお菓子を俺と真一さんの前に出した。ここからは私的な時間という事か。真一さんも少しなら、と頷いてお茶のお代わりを注いでいる。

 

『それもまぁ考えたんだけど、ミスター・ライダーに頼り切りになるのもね……ヒーローの配役と言えば、そうだ。君だよ』

『……暫く冒険者活動に専念』

『そうじゃなくって。最初はウルヴァリンなんかも行ってたろうに、最近は他のヒーローをやってくれなくなったよね。何故かうちの会社に要望が上がってるんだけどどうかしたのかい?』

 

 間を置かずに映画は勘弁してください、と言おうとした所、スタンさんは違う違うと首を横に振ってそう尋ねてきた。ああ、そっちか。と一つ頷いて、うーん、と首を捻る。まさか直接イッチチャンネルの方ではなくマーブルの方に連絡が行っているとは思わなかったのもあるが、割と大した理由じゃないんだよなぁ。これ。

 

 まぁ、ウルヴァリンをやらなくなった理由は簡単だ。当時の自分の接近戦能力ではウルヴァリンは自殺行為だったからで、今は逆にウルヴァリンで戦う理由が無いからだ。基本的に戦闘能力で変身を選んでいたため、遠距離戦も戦える変身に偏重していったのが理由になる。

 

 今なら使いこなせる自信はあるが、今度はすでにMSとしてきっちりイメージがついてるから逆に他のヒーローがやり辛いんだよね。スタンさんが言っていた事とは逆だが、将来誰かがそのヒーローをやる時に、俺が変身していたという事が何かしらの足かせになったら、と思うんだ。

 

 洗脳教育に等しかったとはいえ、俺だって今ではマーブルコミックのファンだと自信を持って言える。だからこそ、将来そういった新たなるヒーローが出てくるなら、邪魔になる要素を少しでも削りたいって、そう考えている。

 

『……偽物、かな』

『熱でもあるのか?』

『スゴイ・シツレイですよね?』

 

 二人同時にそう怪訝そうな顔をされると、流石に温厚な俺でも切れるぞおい。

 

『いや、冗談だよ……しかしそうか。そういう事なら、とても嬉しいよ』

 

 苦笑を浮かべながらスタンさんは、しかしどこか満足気な表情でそう口にする。普段にこやかな笑顔を浮かべる事の多いスタンさんの少し珍しい表情に驚きを感じていると、スタンさんは意味深な笑みを浮かべたまま真一さんに向き直る。

 

 猛烈に嫌な予感を覚えて言葉を挟もうとする俺を、すっと手を上げて真一さんが制した。咄嗟に長年染みついた上下関係により言葉を失ってしまった俺は、次にスタンさんが言った一言を聞いた瞬間部屋から飛び出るように逃げ出す事となる。

 

『とりあえず全ヒーローを彼に演じてもらうとかできないかな? それなら不公平感も無いだろうし、これからヒーロー役をやる時も『全員やってたからノーカン』と言いやすくなるだろうし』

『ああ、いいっすねぇ。面白い、やりましょう』

 

 それらの言葉を背後に聞きながら俺は部屋から飛び出した。背後に迫るのは真一さん、勿論互いに全力である。非常階段や能力を駆使してNY中を逃げ回った後、スタンさんに呼ばれて参戦したウィルと真一さんの二人掛かりで捕らえられた俺は恥辱の数日間を送る事になった。真一さん、次の仕事は……あ、ストレス解消優先。連絡は入れた……いやいやいやいや。

 

 撮影した画像は映画の円盤の特典になるらしい。やめろください。


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