奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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今週から不定期更新になります。

誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!



第二百五話 フランス経由ドイツ行

 フランスで欧州初の魔力電池工場の工事が始まった。

 

『ファビアンさん、代表就任おめでとうございます!』

『ありがとう! 魔石は魔法産業の根幹に当たる大切な資源。この魔石を魔力電池へと加工する……』

 

 式典に御呼ばれした我らヤマギシチームが見守る中、長い前髪をファサッさせながらファビアンさんがいつもの笑顔を浮かべて式辞を述べている。フランスにおける冒険者の顔とも言える彼の栄達は結構注目されているみたいで、他国の記者などからも結構な頻度で質問が飛んだりしている。

 

 何故か数件こっちに飛び火しているがそこはマスコミなれしているファビアンさん。曖昧な表情を浮かべて口元に指を持ってきて「秘密だよ?」という風にジェスチャーを浮かべた後。

 

 マスターにフランスの大学を勧めたけどこっぴどく断られた、近いうちに映画に出演が決定している、内容はミュージカルで、そちらの演出も依頼したがマスターに断られた等と、割とそれ言っていいのかという内容の話をガンガン振って場を盛り上げ、変な方向に質問が飛びそうになったら自らネタを提供するスタイルで式典を乗り切った。俺には到底出来ないスタイルだ。あんな風に目立ちたくない。

 

「ファビアンぇ……」

 

 予期せぬ場所で飛び火した一花さんの顔が般若を超えるナニカになっているので、この後のファビアンさんの運命は酷く過酷な物になるだろう。俺達は決して彼の犠牲を無駄にしないよう、固く心に誓った。

 

「流石にんな事はしないよ!」

「実際は?」

「フロートを覚えるまでベタン責め……かな?」

 

 どうやらファビアンさんは潰れたヒキガエルのような姿にされるらしい。一刻も早くフロートを覚えられるようにアドバイスをしよう。顔の真剣さから『やる』と決意しているらしい一花の横顔を眺めながら、俺は再び固く心に誓った。

 

 

 

『お久しぶりです、教官方』

『オリーヴィアさんもおっひさ!』

『マスター、リヴァとお呼び頂ければ』

 

 ファビアンさんの尊い犠牲により気分を持ち直した一花を連れて、次の目的地のドイツへ俺達はやって来た。と言っても今回はフランスとは違ってプライベートで、前回の渡欧の際に寄る事が出来なかったドイツにも機会があれば来てほしいと、ドイツの冒険者組のリーダーであるオリーヴィアさんに請われていたからの来訪だ。

 

 実を言うと他のイタリアやカナダ、ロシアといった冒険者協会のある国からは、結構な頻度で一度来て欲しいって言われてるんだよね。大体最高の料理で御持て成しするって文面が続くんだけど俺はどれだけグルメキャラで通ってるんだろうか。流石に時間が合わないから受けたりはしていないけどいつかは訪れないといけないだろうなぁ。

 

『今回でイタリアに行けばよかったのに』

『……あそこは、その。ちょっと音楽性が違うって言うか』

『決して悪い方ではないんですがね。援護は出来ませんが』

 

 若干目を泳がせてそう弁護を行うオリーヴィアさん。いや、同期の桜というし、あの人が良い人なのは分かるんだけど……記憶が。思い出す事を拒否するというかね。前回カンヌに行った時も実を言うとちょっと無理すれば向こうまで行けたんだけど、向こうのリーダー……というかチームは何かね。うん。敬して遠ざけるべきというか個性的すぎてあんまり絡みに行きたくないんだよね。

 

 それとは若干違う理由でカナダも出来れば絡みたくない。あっちはまた別のベクトルで、何というか。むしろ80年代の日本人と言われても可笑しくない感じというかやたらと暑苦しいというか。アメリカでの撮影期、こちらから会おうとは一切思えない感じと言えば分かるだろうか。いや、決して悪い人物ではないんだ。あっちから勝手に来る時は拒まなかったし。ただ、あの時ウィルが逃げやがった事は決して忘れない。決してだ。

 

『……ち、近くに美味しいソーセージを出す店がありますよ!』

『……行こっか』

『そだな……』

 

 本格的に食い物で釣れば誤魔化せると思われてるのかは知らんが、この話題はちょっと方々にダメージが行ってしまうしね。悪い記憶は美味しいソーセージを黒ビールで流し込む至福で押し流すに限る。

 

 オリーヴィアさんお勧めの店でおススメを頼むと、シンプルなソーセージとジャガイモの料理が出てくる。あまり手の込んだ感じのしない料理だったが、一口食べたらついうぅむ、と唸らせられた。やっぱりドイツのソーセージは違う。それにシンプルに見えたジャガイモ料理がすごく良い。塩気の強いハムやソーセージにジャガイモが程よく絡んでんまい。こいつはビールが進むぜ!

 

『相変わらずのご健啖ですね』

『美味しいですよ?』

 

 パチパチと小さく拍手をしてくれるオリーヴィアさんに笑顔でそう返すと、ポっと顔を赤くしていやんいやんと頭を振る。相変わらず男に対する免疫が皆無な人である。この反応を見て俺に気があるとかそういう考えは一切ない。この人、ミーハーな所があるから最初の内は俺とかヤマギシチームだけだったんだが、最終的には同期の仲の良い男性全員に同じ反応で返してたからな。

 

 そこまで仲の良くない人には大抵鉄仮面で通すから、今ではドイツの女帝とか欧州の冒険者達の間では呼ばれてるらしいが……教官免許一期組では強い小動物扱いだったんだがな。オリーヴィアさん。

 

『あ、明日にはセルゲイも到着するとの事です』

『へー、セルゲイさんもこっちに来るんだ。どったの?』

『ロ、ロシアは国土が広いですから……どうしても自国のダンジョン管理に手が足りず、教育用の施設やノウハウの蓄積が遅れていまして……』

『ああ。そういえばまだポコポコ新しいダンジョンが山の中からとか出てきてるんだっけ? で、ある程度蓄積が出来てるドイツやらに研修生を派遣してると?』

 

 恐らく中国やインドみたいな所もそうだろうが、人間の手が一切入っていない場所にダンジョンが出来ていて、誰も気づかずに最近になって発見される、という事が未だに起こっている。冒険者協会があるアメリカやロシアでも未発見ダンジョンが出て来るんだから、他の地域は推して知るべしというか、多分欧州にもまだまだ未発見のダンジョンは存在するだろう。

 

 なら日本に聞きにくれば……とも思ったが恐らくそっちも行ってるんだろうな。俺は関わっていないが産業の乏しいシベリアに魔力電池工場を作るとかいう話も出てきてるみたいだし。その辺りの話もセルゲイさんから聞いてみるか。

 

 ところでこのお店って何種類くらいソーセージを扱ってるんですかね。あ、いえいえ勿論ただ聞いただけですよ。聞いただけ。




仕事を辞めると決まった時から物凄い勢いで体調が悪い。
多分、気持ちとかなんか色々切れたんだと思うんですが、総合すると今のタイミングで辞めれて良かったという意識でいっぱいです(支離滅裂)

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