奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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お久しぶりです(白目)
以前のような更新頻度は無理ですが空いている時に更新していこうと思います。

誤字修正。244様、kuzuchi様ありがとうございます!


第二百七話 ドイツ協会協会長

「私に捧げられてもその、困るんだよね」

「祖国と同列に並べられたらなぁ」

 

 闘技場にて二人の戦士からの熱い奉納を受けた一花は「いやぁ」だの「しかし」だのとぶつぶつ呟きながら首を傾げる。嬉しい事は嬉しいんだろうが、それ以上に困ったという印象だ。

 まぁ実際困るだろうな。祖国と同じくって重すぎるわ。

 

『ま、まぁあの二人は……ちょっと思い込みが激しい方だと、思いますので』

「それあの二人だけだよね? 本当にあの二人だけだよね?」

『あ、そろそろ着きますよ教官! ここがドイツ冒険者協会です!』

 

 大事な事なので二回繰り返した一花の言葉に、オリーヴィアさんは解答せずに目的地についた事を告げる。頬を落ちる汗は見なかった事にしよう。

 

「さて……これすげぇな」

「こういうのはちょっと想像してなかったねぇ」

 

 車から降りた俺達は目の前にドーン、と佇む大きな城に思わず目を点にしながら感嘆の声を漏らす。そんな俺達の様子に少し誇らしげな笑みを浮かべてオリーヴィアさんは『こちらにどうぞ』とエスコートするように俺達を促し、正面玄関だろう門へと足を進める。

 

 何故か西洋風の鎧らしきものを身に着けた門番さんに挨拶をしてオリーヴィアさんが門の前に立つと、ギギィ、と音がして巨大な門が……開くと思ったら、門の一部分に見えていた所がスライドするように左右に分かれていく。まぁ毎回こんな大きな門開け閉めしてたら不便だろうけど肩透かしをくらった気分だ。

 

『見ての通り、ここは元々とある貴族の保有していた御城を買い取ってドイツ冒険者協会の本部施設として使用しています。外観は協会長の意向で古いように見えますが、内部は改装して最新設備にしてあります』

「へー。協会長さん中々ロマンが分かってるんだね」

『……ロマン、ですかねぇ』

 

 一花の言葉に意味深な、というよりは微妙そうな表情を浮かべるオリーヴィアさん。その表情を見るだけで不安に駆られるようになってしまったのは、なんだろう。慣れという奴なんだろうか。いやよそう、俺の勝手な推測で一花を混乱させたくないからな。

 

 協会長室です、と案内された分厚い木のドアの前でオリーヴィアさんは軽く服装の乱れを正すと、コンコンとドアをノックする。数秒ほど間が開いた後にそっとドアに耳を寄せたオリーヴィアさんが引きつった笑みを浮かべると、ガチャリとドアノブを回して俺と一花に笑いかける。

 

『大変申し訳ありません。少し見苦しい姿をお見せします』

「へ?」

「どういう」

 

 事、と言おうとした時。開かれたドアから猛烈な勢いで白い煙が噴き出してきた。

 予想外の状況にすわ襲撃か!? と咄嗟に判断した俺は、一花を小脇に抱えるとスパイダーマンに変身し天井に飛び移る。眼下ではドアから溢れ出る煙の中、大きく開かれたドアから室内へと入るオリーヴィアさんの姿がある。

 

「オリーヴィアさん!?」

『ああ、もう。少しお待ちを。エアコントロール!』

 

 鼻をつく刺激臭に顔を顰めながら部屋の中へ入ったオリーヴィアさんに声をかけるも、彼女は少し待つように声を上げてからエアコントロールを発動させ、そのまま中へと消えていった。

 

「エアコントロール! お兄ちゃん、ちょっと下ろして」

「お、おお」

 

 どうやら襲撃ではないらしい……が、これはどういった状況だろうか。一先ずエアコントロールと翻訳を発動させてからひょいっと廊下に降り立ち、小脇に抱えていた一花を下ろす。

 

 室内はまだ煙が蔓延していて視界が悪いが、恐らくオリーヴィアさんだろう影が奥の方でガラっと何かを開く音……恐らく窓だろうか……がすると、急速に煙が薄れて行き中の様子が見て取れるようになる。

 

『もう平気かな。オリーヴィアさんは大丈夫?』

『すみません、お騒がせをして。すぐに起こしますので』

『あ、いえいえ……起こす?』

 

 煙が晴れた部屋の中は予想以上に酷い惨状だった。何が酷いというと、とにかく酷いとしか言えない。まず、まっすぐ行った先にある上質な木材で作られただろう執務机は書類の山で埋もれている。何百枚という枚数の書類の束がいくつも並んでいるというか。片付けられないサラリーマンの机と言えば伝わるだろうか。

 

 またその周囲も酷い有様だった。いくつも並んだ本棚からは乱雑に本が抜き出されており、中に収められていただろう本は周辺にバラバラに出されている。中には読みかけなのか開かれたページのまま投げ出された物もある始末だった。

 

 そして、極めつけは。

 

『起きなさい! お姉ちゃん! 今日はお客様が来るって言ってたでしょうが!!』

『うーん、もう食べられないよぉ』

『うっわベタな寝言』

 

 何に使うのか良く分からないフラスコやそれらに入った液体……黙々と煙を吐き出している様子を見るにあれが先程の煙の元だろう……の前で大の字になっている小さな人影に、オリーヴィアさんが馬乗りになってゆさゆさと胸元を掴んで揺り起こそうとしている姿を見る。その姿に思わずといった様子で一花が言葉を漏らすと、オリーヴィアさんの揺さぶりが更に激しくなる。

 

 あれ頭取れるんじゃないか? 逆に心配になって来たんだけど。

 

 

 

『酷い目に遭った』

『自業自得です』

『残当かなって』

『まぁ、うん。ノーコメントで』

 

 結局数分ほどジェットコースターのような揺さぶりを受け続けてようやく目を覚ました小さな人影、ドイツ冒険者協会の協会長はふらふらと頭を揺らしながら自身に『ヒール』をかけて立ち上がる。

 

 随分と背の低い女性だった。もしかしたら一花と同じくらいだろうか。会話を聞くにオリーヴィアさんのご家族なんだろうが、背の高いオリーヴィアさんと比べたら下手すると2、30センチは差があるかもしれない。やたらと童顔なのもあり、会話を聞かなければどう考えてもオリーヴィアさんの妹さんにしか見えない。

 

 そしてその格好も凄い。魔女のようなとんがり帽子にぶかぶかのコート。コートの下はどうやらYシャツのようだが、ぱっと見はどこからどう見ても魔女にしか見えない姿だった。

 

『お恥ずかしい所を見せてしまったね。私がドイツ冒険者協会会長にしてドイツ錬金術師組合筆頭『水銀の錬金術師』アガーテ・バッハシュタインだ。お会いできて光栄だよ、オンリーワン・ヒーロー、そしてマスター』

 

 くいっと帽子の鍔を少し下げ、気取ったような調子で協会長……アガーテさんはそう言った。

 

 どうしよう、この人レベルの高い厨二さんだ。




アガーテ・バッハシュタイン:オリキャラ。ドイツ冒険者協会の協会長にして研究者。というよりむしろ研究者としての方に重点を置いている人。何故会長なんかやってるのかは次回。あと恰好や言動が厨二っぽいのはまごう事なき厨二病のため。

オリーヴィア・バッハシュタイン:姉に振り回されている。自分は常識人だと思っているが割と彼女も周りを振り回すので姉妹だなぁとドイツ協会内では思われている。

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