奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百十話 一花の新技

油断していた、という訳じゃあない。一花の強さを俺は誰よりも知っていたし、実際に俺では出来ない事をいくつも実現しているこの小さな妹を俺は最大限に評価しているつもり、だった。

 

「ふふーん。どうよ?」

「……おったまげた」

 

一撃の衝撃で折れ曲がった模擬刀を片手にふんぞり返る妹に、何とかそう返事を返して自身の右脇に手を当てる。この右脇から左肩にかけて袈裟懸けに入れられた一撃は、俺の油断や慢心とは全く関係なく入れられた一撃だった。

 

一花が手に持つ刀が模擬刀ではなく、キャンセルかアンチマジックを施された魔法刀であれば間違いなく今の一瞬で俺の体は真っ二つになっていたわけだ。

 

つまり、なんだ。

 

たった今、俺は妹に人生で初めてって位の完全敗北を喫した訳だな。

 

「思った以上に衝撃が大きくてむしろ冷静になった気がする」

「私は人生の目的の一つを達成したからさ! もっと大きく反応してほしいんだけど!!?」

 

バリアを張っていた為に肉体的にはダメージはなかったが、模擬刀のペイントはバリア越しでもしっかりと体に付着しどういった形で一撃が入れられていたのかを示している。これがなければどこからどう攻撃が来たのかもわからなかっただろうな。なんせ一花の動きが速すぎて、いつ斬られたのかもわからずに勝負が終わってしまったんだから。

 

「ドイツまで来た甲斐があったってわけか」

「んー、そうだね。まだまだ改良点は沢山あるけど……お兄ちゃんに通用するなら使えるかなぁ」

 

そう言って一花は、ふんぞり返った姿勢のまま思案するような表情を見せる。この一撃を身に着ける為だけに制限の多い日本を飛び出して各国の大学でスポーツ医学とか色々話を聞いて回り、実質この1週間ほどで実用にまで持っていったのはわが妹ながら素晴らしいの一言だ。

 

まぁ同じポーズで固まったまま喋ってる辺り、恐らく後遺症で動けないのだろうがな。さっさと自分でリザレクションでもかければいいのに見栄を張ってまぁ。

 

ぷるぷると震える一花の足を見ながら、苦笑を浮かべて一花へ向かって足を進める。頑張った妹を全力で褒め称えるのは兄の義務だからな。決して負けた腹いせとかそんな事を考えているわけではない。

 

本当だぞ?

 

 

 

「お兄ちゃんは鬼畜。はっきりわかんだね」

「頭を撫でただけなんだよなぁ」

 

たったそれだけの動作をされただけで全身の痛みで絶叫する羽目になる技なんか使うんじゃないと声を大にして言いたい。いや、確かにくそ強かったけど。これ初見で対処できる奴居ないだろうな。恐らく、恭二でも無理だ。

 

一花のしたことはごく単純な事だった。俺が戦闘態勢に入る前に俺の懐に入り込み、袈裟懸けに切り捨てる。これを俺が反応できない速度で行っただけだ。恐らく音速は出てたんじゃないだろうか。

 

「まさか本当に再現するとはな。【天翔龍閃】」

「どっちかというと瞬天殺とかかなぁ、二撃目は出来ないし。あ、後遺症もあるし一刀修羅かも」

 

人間の限界を超える速度を出している為に負担もでかいらしく、一撃で武器を破壊し尚且つ自分の全身にも多大なダメージを残す自爆技。確かに一刀修羅……むしろ羅刹の方な気がする。自分でリザレクションが出来る一花だから利用できるが、その系統の魔法が苦手な人物はまず使用できない魔法だろう。

 

まぁ、最低でもエアコントロールとストレングス、ウェイトロスに一歩目とブレーキの時のみ使用するエドゥヒーション。たったの一秒未満にこれだけの魔法を同時に制御できないと使用できない超々高難易度な技だからそもそも使えそうな人が殆どいないんだがな。

 

『難易度もそうですが、これを使われた際に対処できる人間はまず居ないでしょうね』

「もっと褒めてたもれ。ふんすふんす」

 

オリーヴィアさんの言葉に鼻を高くする一花に、その姿を見て『ああ、マスターが今日も可愛い!』と幸せそうなオリーヴィアさん。ある意味マスター教徒で一番一花の望む反応を返すのはオリーヴィアさんかもしれない。ウィルとかのは仰々しすぎてウザさが勝ってしまうからな。あいつも決して悪い奴じゃない。悪い奴じゃないんだがな。

 

「大事な友人の一人だけどそれはそれとしてマスター教の件は絶対に許さない」

「残当」

『ノ、ノーコメントで』

 

固い決意を秘めた一花の言葉に、マスター教徒であるオリーヴィアさんはそっと目をそらした。

 

 

 

数日滞在したドイツともお別れの日がやってきた。

 

『なぁ、最後にもう一回だけ一路に』

『姉 さ ん ?』

『ごめんなさい』

 

ここ数日ですっかり見慣れた光景に苦笑を浮かべながら、俺と一花はオリーヴィアさんとアガーテさんの見送りを受けて空港ターミナルの中へと入る。

 

「じゃあお兄ちゃん、暫く会えないけどお腹冷やさないようにね。シャーロットさんやスタンさんにも宜しく!」

「お前は母さんか。そっちも受験頑張れよ」

「あはっ。よゆーよゆー」

 

一花は一旦イギリスに行った後、受験のために日本へと戻る予定だ。学校の方はというと、一花の通っている芸能クラスはその特異性からすでにこの時期から授業自体はなくなっていて、一部の受験組は各自で追い込みをしている状況である。

 

そんな大事な時期にのんびり海外旅行してて良いのかというと、「ぶっちゃけ覚える事がもうない」らしい。少なくともここ3、4年の過去問や赤本の内容はすべて覚えてしまっているらしく、問題集なども既知の問題ばかりで行う理由が薄くなってしまっているそうだ。

 

「冒険者になってから、やたらと記憶力が良いんだよねぇ。やっぱり魔力で脳が活性化されてるのかな?」

「その理論でいくと恭二は」

「恭二兄ちゃんは、ほら。特化系だから」

 

そっと目をそらした妹の言葉に恭二ぇ……と呟きを漏らしながら、一花と二人並んで飛行機を待つ。

次に会うとしたら、年末年始か受験後か。暫くは離れる事になるし、たっぷり話をしておかないとな。

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