奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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遅くなって申し訳ありません!

誤字修正。244様、ありがとうございました!


第二百十三話 立食パーティー

「煌びやかなパーティってのは苦手なんだよなぁ」

『君の場合、人目が集まるのが苦手なんだろう?』

「そうともいう」

 

 壁の華ならぬ壁の男と化した俺の言葉にウィルがそう返し、二人してけらけらと笑いながらグラスを合わせる。勝手知ったるなんとやら。こういう空気になるからウィルと居るのは疲れないんだ。あ、このシャンパン美味いな。

 

 大統領閣下から『この後に歓迎のパーティーがあるから是非参加してくれ』と招待という名の強制連行を受けて行った先で俺を待っていたのは、やたらと偉そうな肩書の方々がやたらとキラキラとした視線でサインを強請る立食形式のパーティーだった。

 

 多分1、2時間くらいずっと知らない人とあいさつを交わしてただろうか。そろそろ限界だという頃合いに、何故か紛れ込んでいたウィルが壁際に連れ出してくれなければまだ人の中に居たかもしれない。

 

『ミスター・ウィルソンと対面で話したんだって?』

「おー。すげぇなあの人」

『まあね。僕も初めて会った時はピリッと背中に電流が走ったよ。君がスパイダーセンスを電気信号で例えていた理由がなんとなく分かったかもね』

「大統領……?」

『ちゃんと大統領選でドランプ対立候補を下したれっきとした大統領だよ?』

 

 冗談めかしているが目は笑っていないウィルの姿に、思わず疑問の言葉を投げかける。いや、俺がすごいって言ったのは雰囲気とかそんな話なんだが。もしかして伝説の傭兵だったとか超敏腕エージェントだったとか付加設定ついてくるのだろうか。

 

 俺の疑問にそっと目をそらしながら応え、ウィルはさも今思い出したかのように『あ、そういえば!』と手をポンと叩く。いや、とりあえず乗っとくけどそれで普通誤魔化されないからな?

 

『ケイティもこの会場に』

「さーてっとちょっくら大統領に声かけてくるかな」

『それは露骨じゃない?』

「やかましい」

 

 ジト目でこちらを見るウィルにそう返事を返し、ため息をついて頭をかく。正直な話、俺個人としてはケイティに対して怒りだとかそういう感情は殆どないんだが。正直な話、非常に気まずい。俺の為に一花はケイティに怒りを爆発させ、ケイティはそれを甘んじて受け入れていた。その間に原因となった俺が入っても碌な事にならないと思うんだが。

 

 しかし、うん。

 

 どうやらその決断は少し遅かったらしい。

 

『お久しぶりですね、イチロー』

「……よ。久しぶり、ケイティ」

 

 硬い表情を浮かべて歩み寄る彼女の姿に、立ち止まってそちらに向き直る。これはちょっと覚悟を決めてお話しないといけないかな。

 

 

 

 男二人に女一人。皆揃ってパーティー会場の壁の華となれば男二人が一人を争って、とでも思われそうな場面だが流れている空気には欠片も色気って物が感じられない、

 

「…………」

『…………』

『でさー、ダンプちゃんったら面白いんだ。マスターに突っかかっていったと思ったら一言二言交わしただけで涙目になって『きょ、今日はこの位にしておきますわ!』って完璧すぎる捨て台詞で』

 

 無言で視線を交わす俺とケイティ。その傍で恐らく場を盛り上げる為だろう、ウィルは過去に遭遇した面白冒険話をぺらぺらと大きな声で話し続けている。というかその話初耳なんだけど後で詳しく教えてくれないか? ケイティもぴくぴく眉動いてるから超気になってると思うんだ。むしろそっちに話をシフトして。

 

『その。わた、私は』

「あ。うん。ごめんちょっと待ってね」

『……はい?』

 

 見事に空気がずれていたので少し天井を見上げて息を吐く。緊張するとつい冗談めかした事を考えてしまうのはスパイディの影響だろうか。いや、ちゃんと問題と向き合えていないのは俺個人の意気地のなさで、ピーター()のせいにしては失礼だな。

 

 深く息を吸い込んで、吐き出す。視線をケイティに戻して、彼女を見る。

 

 相変わらず見事な金髪をこれまた見事なツインドリルで纏めて、トレードマークのゴシック調のドレスに身を包んだ姿は以前日本で見た時となんら変わらないように思える。だが、以前は対峙した時に感じていた覇気のような物が感じ取れなくなっている、ような気がする。

 

 交わした視線に感じる熱量が違うのだ。前のケイティは、何というか。どんな時も情熱のような物を全身から漲らせていた。生まれた時から死と隣り合わせに生きていた彼女はそこから解放された時、これまで閉じ込められていたエネルギーの全てをその奇跡を世界に広める事に費やすと決めたのだろう。傍から見ているだけの俺たちにもそのひた向きさは伝わっていた。

 

 ある種恭二の仲間なんだこの子は。一つの事を自分の中で定めたらただひたすらにそれを邁進する。恭二にとってのダンジョンが彼女にとっての魔法で、その魔法を彼女にもたらした恭二は彼女にとって最高のヒーローなんだ。正直な話、そこまでの情熱を持てる彼女を尊敬もしていた。俺は、ただ恭二に付き合う事しかできない。同じ熱量の感情を持つ彼女に少し嫉妬していたりもする。

 

 だから。

 

「あれはさ」

『はい』

「恭二や俺がこれからもダンジョンに潜るのに、必要な事だったんだろ?」

 

 今にも消えいりそうな彼女の姿は、少し見て居られない。

 

「それなら俺は良いよ。一度、一花とはしっかり話し合って欲しいけどさ」

 

 ぽりぽりと頭をかき、気恥ずかしさから少しだけ彼女から視線をそらして。

 

『……はい!』

 

 そっと差し出した俺の右手を、ケイティが握り返す。

 

『ふふっ』

「おい、笑うなよ。自分でも恥ずかしいことをしてると思ってるんだから」

『いえ……イチロー、キョーちゃんと同じこと言ってましたから、つい』

 

 そう言ってけらけらとケイティは笑い始める。あ、その。ちょっと今の流れもう一回リテイクいいですかね。あいつと被るのはちょっと気に障るって言うかさ? おいウィル、ちょっとお前も手伝ってくれ。俺の名誉の回復のために……!

 

『そしてダンプちゃんの配信にマスターが現れたときが傑作だったね。「何してんの?」ってただマスターが横合いから声をかけただけであの子それまでの取り繕った顔がいきなり作画崩壊しちゃって』

「お前はいつまでやってるんだよ! それとその配信のナンバー教えてくれ!」

『プッ、クッ…………も、もうだめッ』

 

 限界を超えたのか。口元を押さえて笑い始めるケイティに延々語り続けるウィル、そして頭をかきむしる俺。豪華絢爛なパーティー会場の片隅で集まった駄弁り合いとでも言うべき話し合いは、さすがに見かねた大統領(ホスト)が挨拶に来るまで続く事になった。

 

 大体ウィルが悪い。


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