奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百十五話 車中の雑談

『俺の指示で未成年組やお前と恭二には伝えないようにしてある』

「……あ、やっぱりですか」

 

 電話機越しに話す社長の声は普段とそれほど変わらなかった。内容が内容だけに深刻な声音で「実はな……」とか切り出されるんじゃないかと戦々恐々としていたんだが。

 

『前にちょろっと技術を寄越せって強請られたくらいでうちは中華系とは殆ど付き合いはないしな。お前らに伝えなかったのも変な罪悪感を持たれても困るから、若い連中には言わなかっただけだ』

「えぇ……」

 

 予想以上にあっけらかんとした社長の言葉に思わず呆気に取られながら、いくつか連絡事項を伝えて電話を切る。

 

『どうだった?』

「いや、うん。変な罪悪感持たれても困るから黙ってただけだって」

『ああ。そういう方針なんだ。別に君やマスターには伝えても問題ないと思うけどね、恭二は兎も角』

「あいつダンジョンと魔法に関してはほんっとに沸点低いからなぁ」

 

 ウィルの言葉に苦笑を浮かべながら、恭二にこの話が伝わったらどうなるかを頭に思い浮かべる。

 うん、ろくな事にならんだろうな。

 

『ま、協会本部に行く時に嫌でも耳にするだろうから僕のやらかしも必要だったって事で。いいよね? ね?』

「ケイティに一言言っとくわ」

『Nooooooooooo!!』

 

 まるでこの世の終わりだと言わんばかりのウィルの叫びに小さくため息をつきながら携帯を懐にしまい込む。

 

「というか、世界冒険者協会だともう周知の事実みたいなもんなのか」

『まあ、かなり注目してるよ。なんせ人間と人間が魔法を使って大規模な闘争を行う、初めての事例なんだから』

「……まぁ、そうなるわなぁ」

 

 撮影を終え、スタッフさんの運転する車で今日の宿泊先まで向かう道中。

 ウィルの口から出る中華と、それに中東などの紛争地帯での魔法技術の扱いは、平和な日本に住む俺には想像できないものばかりだった。

 

『流石にマスター門下の教官級には居ないんだけどさ。その下の段階の、彼らが教えている冒険者が、金銭で魔法技術を傭兵たちに提供しているらしい』

「それは、協会として良いのか?」

『勿論良くはないよ。というか、そもそも教官免許も持っていないのに一般人に魔法を教えちゃいけないんだから』

「そらそうだ」

『二種冒険者が一種冒険者を指導するのとは訳が違う。それに、魔法技術の中には許可なしで他国の者に教えちゃいけない物もあるんだ。攻撃魔法やバリアはこれに含まれるんだよ』

「つまり?」

『発見次第逮捕拘束。そして、ようやく準備された魔法使い用の刑務所にぶち込む事になるね』

 

 日本でのダンジョン内婦女暴行未遂事件以来、各国は魔法使いの犯罪者に対しての備えに追われていた。特に米国は日本の次に魔法使いの人口が多い事もあり前政権の頃から対魔法使い用の施策を準備していたらしい。

 魔法使い用、というだけありその内部はかなり堅固な代物で、独房周囲の建材は全てアンチマジック付与、囚人服や拘束用の手錠なども魔鉄を混ぜ込んだ特注品で、ストレングスを使おうしてもすぐにかき消されてしまう。

 仮に俺や恭二が捕まっても早々脱獄できない牢獄になっているらしい。

 

『唯一の懸念は、人数がどれだけ居るかだよ。魔法使いの刑事は少ない。そして、仮に捕まえても魔法使い用の刑務所はまだ一か所しかできてないんだ』

「あっという間にパンクされても困るわな」

 

 渋い顔でそう語るウィルに頷いていると、どうやらホテルに到着したらしい。都心部からもほど近い結構良さそうなホテルだ。

 ホテルの正面玄関に車を寄せると、タタっとベルボーイが駆け寄ってくるので荷物を渡す。

 最初は自分で持とうとしてたんだが、彼らもこれが仕事だからと以前注意されちゃったからね。ちゃんとチップは弾まないと。

 受け付けはすでに終わっているらしいのでそのままエレベーターに乗り、真っすぐに部屋へ。内装も良い感じだし、中々グレードの高いホテルみたいだな。

 

『じゃあ、明日の8時には声を掛けに来るから』

『お願いします』

 

 この部屋は俺とウィルが寝泊まりする為のものらしく、スタッフさんは下のもっと低い階層の部屋を取っているらしい。

 緊急時の連絡先と部屋番号を貰って室内へ。俺たちの部屋は最上階に位置しているだけあってかなりランクの高い部屋らしく、広々とした広間と寝室が備え付けられていた。

 

「広っ」

『中々良い部屋じゃないか』

「広すぎる。こんなんあっても使い切れんし落ち着かないんだよ」

『君、本当に一般市民っぽさが抜けないよね……』

 

 一般市民だからな? ウィルと何百回行ったか分からないやり取りをしながら荷物を置き、広間のソファにどかりと座り込む。

 撮影も順調。都市部と森林部での往復が多いせいで移動疲れがあるが、それもまぁ覚悟していた程じゃない。

 主演……前回のオールスターと違って主演。それだけが心を重くさせてくる。今からウィルにバトンタッチできないだろうか。

 

『僕主演の映画ももう予定されてるよ?』

「マジか。すげーなマーブル」

『サイドキックのつもりなんだけどね、僕は――呼び鈴?』

 

 二人してソファーに寝転んで駄弁っていると、来客を知らせる呼び鈴が鳴らされる。スタッフさんが戻ってきたのだろうか。

 念のために二人で変身とバリアを行い、何が起きても対応できるように準備をした後に玄関へと向かう。

 

『はいはい。どちら様……アンダーソンさん?』

『その声はイチロー先生ですね。お久しぶりです』

 

 備え付けのドアカメラとマイクを動かすと、画面の中には見知った顔の男性の姿があった。

 ニューヨーク市警のアンダーソン警部。対魔法使い用の訓練を受けた、俺達の教え子だ。

 

『え、アンダーソンさん? どうして』

 

 背後からウィルの声がする。警官への訓練は世界冒険者協会の肝いり施策で、ウィルもその現場に居た。当然卒業生で、しかも同国の人間であるアンダーソンさんとは面識もある。

 ウィルの声が聞こえたのか。アンダーソンさんは安心するように微笑み、そして表情を切り替えて俺たちにこう告げた。

 

『ジャクソン氏も居るなら大変助かります。お休みのところ申し訳ありませんが、急ぎ荷物を持って移動していただきたい』

 

 有無を言わせぬその強い口調に、ドア越しでもわかるアンダーソンさんの苦渋を噛み締めたかのような声。

 事情が呑み込めず、ウィルと俺は首を傾げて目を見合わせるのだった。

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