6月20日。夕方。
買出しを兼ねて実家の家業手伝いをやらされているだろう友人を激励しにきたら右手が飛ばされて友人も死に掛けてます。
比喩じゃなくて物理的に。全身ガラスで串刺しとかこれもうあかんだろうな・・・恭二、お前の事、嫌いじゃなかったぜ!それを庇おうとして俺も右腕千切れたけどな!
すまん。ヤバイって思った時にはもう間に合わなかったんだ・・・
「きゃあああああ!」
「恭二!い、一郎くん!沙織ちゃん、救急車!救急車を呼んでくれ!」
視界の端で友人の兄貴と幼馴染(巨乳)がパニックになっているのが見えるが、ショックがでかいのか血が足りないのか頭がボーっとして注意が動かせん。これは俺も駄目かもわからん。まさか高校も卒業できずにくたばる事になるとはこの海のリハ・・・駄目だ。痛みで現実に引き戻される。
意識が保っている間に止血をしなければならんのだろうが、恭二がさっきからパクパクと何かを呟いている。
助けを求めているのか・・・?俺はガラスの海の中、左手で右腕を押さえながら、恭二に近づいていった。流石に助けられるとは思えんが・・・知り合いの顔が傍にあった方が、少しは気が楽になるかもしれん・・・って。
「なんだ、こりゃ」
思わずそう呟いた俺の目の前。恭二を吹っ飛ばした鉄製の冷蔵庫の中に、真っ黒な穴が現れていた。
その穴から溢れ出るように出てくる白いもやに全身を包まれ、俺はつい右手でもやを飛ばそうと腕を振る。
淡い光が、コンビニの中を包み込んだ。
後に迷宮侵食と言われる事件は、そんな風に唐突に俺たちを巻き込んで、世界を変えた。
そして現在。
「俺たちどうなるんかねぇ」
「知らね」
病院に隔離されて早3日。精密検査から人体実験に変更されそうな予兆に戦々恐々としながら、俺たちは二人並んでベッドに寝転がっていた。
恭二の全身を貫くガラスは全てなくなってます。というか逆再生みたいな感じで抜けてったらしいです。救急車の中で。
・・・魔法・・・なんだそうだ。恭二もそう言っているし。恐らくそうなんだろう。
あ、俺も右腕生えました。前より色が白くなったけど。
奥多摩個人迷宮+
いつ人体実験をされるのか気が気でない中、入院から3日目に無事退院できました。
恭二の親父さんマジ感謝。うちの親父はシーズン前の駆込予約とかって仕事の対応に追われてて全然頼りにならんかったけどな!
持つべき物は行動力に溢れた友人の家族である。俺もお相伴に預からせてもらうぜ!
と一緒に出ようとしたら「君は別」とか玄関を出る前に病院側の人に呼び止められました。
勿論切れる山岸さん(恭二の親父さん)、タジタジでゴネる病院職員(多分偉い人)。結果保護者としてうちの爺さんが病院まで迎えに来る事で決着がついた。
流石にその段階でゴネられる事はなかったが、顛末を聞いた爺さんが凄い形相で怒鳴りこんで来たのも原因かもしれない。
70超えてるんだが最近まで現役の猟師やってただけあって修羅場のときの威圧感が半端ない。山岸さんと恭二が引いてるぞ。
病院から出た後は俺は爺さんの軽トラに、山岸さん家は自家用車でそのまま帰るそうだ。
後で出来たら一度顔出して欲しいって言われたから爺さんにその事を伝えたら、一度実家に寄った後送ってくれるそうだ。
「一郎」
「ん?」
「お前の母ちゃんによう謝っとけ」
「・・・ん」
病院からの帰り道。不意に爺さんがぽつりと呟いた。
軽く頷いて返すと、しわくちゃの手で爺さんは俺の頭を撫でる。
「ようやった。友達を大切にせぇよ」
「・・・俺なんもできんかったよ」
「何もせん奴の方が多い。お前は動けた。それでいい」
「・・・うん」
あ、やべすっげぇ恥ずかしいわ。
そっぽを向いて、車の窓の外を見る。
3日ぶりに戻った奥多摩の町は、世間の騒がしさが嘘のようにいつもの風景だった。
家に帰って、母さんに泣かれて、何とか落ち着かせること小一時間。
爺さんの軽トラにのって俺は恭二の家にきていた。
恭二の家は奥多摩駅近くにあり、何年前からか家業の雑貨屋を改装してコンビニにし、そこを家族で経営している。
まあ、今は見るも無残な状態である。
「やあ、一郎くんいらっしゃい」
コンビニ側は警察やらマスコミやらが一杯でとてもではないが入ることが出来ないため、自宅側の入り口に回って中に入る。
ここに入るまでにも記者やら何やらにマイクを突きつけられて邪魔されそうになったがそこは爺さんの睨みが功をそうした。
中には突っ込んでくる気合入った人も居たがな。
あの赤毛のねーちゃん美人だった・・・いかん。3日も禁欲していたせいで股間の反応が早いな。
ちょっとポジションを替えよう。
「山岸さん、この度は」
「下村さん。申し訳ありません。一郎くんを巻き込むような形になってしまい・・・」
「いやいや。もしあそこで恭二くんを見捨てるようなら叱り飛ばしましたわ」
大人同士の会話が始まったので余計な口を出さずに出されたお茶を飲んでいると、襖を開けて真一さんと恭二が部屋に入ってきた。
「やあ一郎くん、退院おめでとう」
「ご心配をおかけして申し訳ないです」
俺の顔を見て安堵したかのように顔を綻ばせる。相変わらずイケメンだなこの兄ちゃん。
子供の頃から恭二と一緒に可愛がってもらったから今はそれほどでもないが、顔も良い頭も良い運動もイケるという完璧超人で恭二と一緒にコンプレックス抱いてました。
でも超良い人なんだよな・・・最近ナンパ師みたいになってるけど。
「右腕、大丈夫なのか?」
「あ、はい。動いとります」
「そうか・・・」
そういえば真一さんもあの場に居ったね。そら心配になるか・・・肘より下無くなってたもんな俺。
ってそういえば。
「恭二、お前沙織ちゃんに連絡入れたか?」
「・・・あ。いや、まだだ」
「さっさと連絡入れとけ。沙織ちゃんすげー心配してたぞ」
その場にもう一人居た関係者を思い出して恭二に尋ねるが、恐らく忘れてたのだろうなこの反応は。いい加減愛想尽かされても知らんぞ。
電話でも何でも良いから連絡入れとけ、と真一さんと一緒に恭二を部屋から蹴り出すと、大人同士の話し合いが終わったのか山岸さんが「一郎くん」と俺に声をかけてきた。
「下村さんとも話したが、恐らく、これから先も似たようなことが起こるだろう。ほら、病院の」
「ああ。はい」
あいつら俺と恭二を完全に実験動物か何かだと思ってたみたいだからな。正直いつ解剖されるか気が気でなかった。
「今回は何とかなったが、相手は国家だ。どんな手を使ってくるかわからん」
「身辺に気をつけんといかんぞ。お前も、恭二くんも」
「・・・はい。気をつけます」
冗談なんか1mmも感じさせない大人二人の声音に、俺は神妙な顔をして頷いた。
その日の夜に相方の恭二が警官にボコボコにされて連行されちまったけどな!
俺の覚悟を返してくれ・・・
山岸恭二:原作主人公。原作で出てくる魔法は全部こいつが作ってるってくらいやベー奴。兄貴や幼馴染と比べて顔面偏差値が・・・と某掲示板で煽られても気にしない広い心の持ち主
山岸真一:恭二の兄貴。イケメン。大概の事は高水準でできる完璧超人。
下原沙織:恭二と一郎の幼馴染。巨乳。子供の頃から恭二が好きと態度で示しているのにスルーされ続けている。
山岸さん:真一と恭二の親父さん。日本版WIZは発売日に並んで買ったらしい。
鈴木一郎:オリ主。恭二とは小学校からの付き合い。中学時代は運動部に所属していたが体育会系のやり取りに疲れて現在は帰宅部。妹からの影響でゲーム等はライトオタ程度の知識あり。