奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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久々更新。お待たせしました

誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!


第二百二十三話 帰郷

「おひけぇなすって! おひけぇなすって! 手前、生国は――」

「久しぶりに会った後輩がいきなり仁義を切ってきたんだが」

「ごめん、この娘テンパると急にアホになっちゃうから……」

 

 待ち合わせに指定されていたカフェに入り、スマホで連絡を取り。

 

 久しぶりに再会した妹は、相も変わらず小生意気な口調でにやにやと笑っていて――久々に会った後輩は、なんだか変な感じになっていた。

 

 というか、その。黒を基調としたゴシック調のドレスでそれは合わんだろ。いや、ある意味絵になってるのか?

 

 続きの言葉が出てこないのか、「おひけぇなすって!」を連呼する姫子ちゃんの姿に爆笑する妹の頭を小突き、外へ出ようと促す。

 

 一応変装してるが、一花も姫子ちゃんも素の格好だからな。間違いなくパパラッチが嗅ぎ付けてる。スタンさん経由で雇ってるSPさんが対応してくれるとは思うが、人込みからはさっさと出た方が良い。

 

「お、お兄ちゃんが業界人っぽい言葉をしゃべってる!」

「いや、流石に2本も映画出てるんだからそれ位はな。と、そうだ一花」

「うん?」

 

 まだ実感の方はそんなにないが、ハリウッドのスター達と何度も出かけたりしてるんだ。彼らの行動を見て俺だって色々成長したりするんだよ。

 

 まぁ、今はそんな小さい事はどうでもいい。重要な事ではない。

 

「大学合格、おめでとう」

「――うん!」

 

 この一言を言う為に、日本に帰って来たんだ。

 

 誰かに邪魔される前に、きっちり言っておかないとな。

 

 

 

「おう、お帰り」

 

 ガラリと引き戸を開ける。玄関の配置。廊下の間取り。置かれている物の違いに細かな違和感を感じながらも、ふわりと香る懐かしい空気。

 

 ここ数年は専らヤマギシビルの自室にばかり行っていたが、この空気を感じる度に帰ってきたと感じる。

 

 ああ。実家はここなんだなと思わされる、そんな一瞬。

 

「ただいま、爺ちゃん」

「ただまー!」

「お、お邪魔……します……」

「おう……姫ちゃんか、久しいな。ゆっくりしていきな」

 

 そのままヤマギシビルの自室に――と思ったんだが一花と一緒に姫子ちゃんも居るし、一応部外者になる彼女をビル内に連れ込むのもどうかと一花から突っ込まれたのもあり。

 

 新年になってからまだ爺ちゃんに顔を見せてなかったし、行き先を変更して実家の方へと顔を出す事にした。

 

 数か月ぶりに顔を見た爺ちゃんは、そろそろ80が見えてくる年齢とは欠片も思えない矍鑠とした様子で俺達を出迎えてくれる。

 

 うーん。爺ちゃんと言いブラス老といいこの前の老師といい。魔法に関わりを持った老人、誰も彼もパワフル過ぎないかね?

 

 あと姫子ちゃん。爺ちゃんにそんな怯えなくていいから。この人、強面だけどそんな無作為に噛みついたりしないって。

 

「いやぁ、姫子がここを出てった経緯知ってるとそれはキツいんじゃないかなぁって」

「……流石に姫ちゃんにゃやらねぇよ」

 

 バツが悪そうな口調で爺さんがそう口にする。

 

 まぁ、檀さんと爺さんのやり取りをその場に居た人から又聞きした時は、正直檀さん可哀そうだなって思ったけどさ。

 

「そういえば爺ちゃん。今日は仕事、大丈夫だった?」

「ん、ああ。いや、実は予定が空いちまってな」

 

 爺さんはぽりぽりと頬をかきながらそう言うと、「茶菓子取ってくらぁ」と立ち上がりのそのそと部屋を出ていく。

 

「実はさ」

「ん?」

 

 そんな祖父の背中を尻目に。

 

 一花はにやにやと笑いながら俺の耳元に口を寄せ、ひそひそと話し始める。

 

「お兄ちゃんが久々に帰ってくるから、今日の予定全部空けちゃったんだよ。おじいちゃん」

「……ちょっと手伝ってくる」

「行ってら。私は、このぽんこつにちょっとお説教しなきゃいけないから」

「だ、誰がぽんこつか!」

「お前だよ! 化粧してドレス着てやるのが仁義切りってどこの極道!? うら若き乙女がする事!?」

「あ、頭が真っ白になったんだよ!」

 

 ピーチクパーチクと姦しい妹と妹分に苦笑を浮かべながら席を立ち。台所の入り口へと向かう。

 

 爺さんは台所の中、棚の上段に置かれていた菓子箱を取ろうと手を伸ばしている。

 

「爺さん、手伝うよ」

「ん、おお」

 

 爺さんの代わりに菓子箱に手を伸ばす。いつの間にか爺さんの背を超えて、いつの間にか大人って年齢になって。

 

「茶、淹れるぞ」

「うん、お願い。湯呑これ使って良い?」

「おう」

 

 それでも変わらず、爺さんは爺さんで、俺は鈴木一郎のままだ。

 

 最近、自分が何なのか。誰なのかが少しわからなくなっていたけど、この家の空気は昔のままで。

 

「おぅい、一花。姫ちゃん。羊羹でいいかね」

「あ、ありがとうお爺ちゃん! 姫子、続きは後ね」

「ふぁい」

 

 それが堪らなく嬉しい。

 

 

 

「なんてしんみりしてた空気を返してくれ」

「まぁ、うん。しょうがないんじゃない?」

 

 思わずぼやくように呟くと、付き人代わりについてきた一花がにやにや笑いを浮かべながらそう返す。

 

 いや、わかってたよ? スタンさんもなんかやけにすんなり日本に帰してくれるなと思ってたし。絶対に何かあるって。

 

「はい、それでは本番入りますので、鈴木さん。今日はよろしくお願いします!」

「あ、はーい」

「はーい(震え声)」

 

 ADさんの元気な声に答えて右手を振り、そのまま帰ろうかと悩んでいる間に気付けば舞台袖にまで連れてこられてしまった。

 

 え、何をするのかって?

 

 もちろん……映画の番宣だよ。

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