会議室のような場所、というのだろうか。白く四角い部屋の中、パイプ椅子と机を並べただけのそこに数人の人間が居る。
事前に聞かされていた話では確か5名の生徒が居るという話だったが、今現在部屋に居るのは3名。自分を含めても4名であと一人はまだ来ていないらしい。
空いている席に腰かけ、テーブルの上に置かれた資料――実習マニュアルと書かれた書類を手に取る。
書かれているのは本当に基本的な事だった。これとこれを覚える。これをしたら危ない。こういった場合はこう対処する。全て奥多摩で俺達ヤマギシパーティーが纏め上げ、先達として後輩たちに教えていった事柄ばかり。
なるほど、こういった絵付きのマニュアルだとより分かりやすいな。教官訓練とかだともう実践で体に教え込む手法ばかりだったからある意味新鮮な気がする。
「えー、では揃ったようなので」
熱心にマニュアルを読み込んでいるとどうやら全員揃ったらしい。マニュアルを閉じ、ホワイトボードの前に立つ教師に目を向ける。
「私が今回、Eランク冒険者初期教育の担当を務める間島と申します。短い期間になりますが、どうぞよろしく」
「「よろしくお願いします!」」
教官の声に合わせて頭を下げる。
え、何をしているのかって?
そりゃあ勿論、新人冒険者になりにきたんだよ。
冒険者専門学校という物が出来た、という話を聞いたのはつい数か月前の話だ。これを聞いた時はようやく、という思いとついに、という思いが同時に過ったのを覚えている。
というのも、冒険者の教育機関については結構前から政治家さん達もわーわーとうるさかったんだ。ただ、圧倒的に教官免許保持者の数が足りず、ヤマギシがその教官を負担し続けるのもどうなのかっていう理由で中々前には進んでいなかった。
その状況がようやく変わったのが去年。各地のダンジョンで教官免許候補を育て、最終試験を奥多摩で行う方式に切り替えてからは一気に教官免許取得者の数が増えたのだ。
そして、これまでに数倍する速度で増えた教官免許保持者たちに喜び勇んで政府は飛びついた。日本は飛びぬけて冒険者の数・質ともに高い国家だが、それはヤマギシによるスタートダッシュがあったからの話。
ぼやぼやしていればあっという間にアメリカやイギリス、発展著しいドイツなどに抜き去られてしまう事になりかねない。現在、魔法技術のフィードバックによる最新技術やエネルギー開発によって好転している景気もどうなるかわかったものではないだろう。
また、冒険者の数が増えればそれだけ魔石やダンジョン由来の魔鉄などの資源が多く手に入るのだ。
冒険者の数は質に、そして国力にも直結する。ここ数年のヤマギシの躍進に政府はそう確信を持ち、全力で冒険者養成へと舵を切ったのだ。
現在は奥多摩と忍野、博多と京都という元々設備が整っていたダンジョンにしか学校は作られていないが、今後は全てのダンジョンに併設する形で作られる事になるだろう。
「えー、という訳で。教育期間使用する道具、武器や防具については全てこちらで用意してあります。通販サイト等の武具は当たり外れがありますので使用は禁止です」
「あの、それって……私達はいくら位負担するんですか?」
「ご心配には及びません。これは国の補助金で用意してありますので……ああ、それと教育を無事修了した後は貸与する武具は国からの補助という事でそのままご使用いただいても構いません」
学生だろう女性、最前列に座り熱心に間島さんの話を聞いていた人が手を上げて質問をすると、あらかじめ想定している質問だったのか。よどみなく間島さんは返答を返した。
その言葉にどよめく室内。学校と言いつつ授業料も殆ど取っていない上に、最も負担の大きい武器防具も用意してくれるという太っ腹ぶり。この辺りにどれだけ日本がこの施策にやる気があるのか見えてくるな。
気になった点などをメモりながら間島さんの話を聞いていく。大まかな教育スケジュールはほぼ奥多摩や他のダンジョンで行われている物と変わらない、か。まぁすでに初心者に対する冒険者の手引きみたいなのはほぼ完成してるからな。
「さて、それでは私の話は以上としまして。これから皆さんにはチームを組んで教育期間を過ごしてもらいます」
「チームっすか?」
間島さんの言葉に、最後尾でボールペンをくるくると回していたヤンキー風の兄ちゃんが質問を返す。
その言葉に一つ頷き、間島さんはホワイトボードの上の方に班長:間島 吾朗と書き、その下に1から5までの数字を書き込んでいく。
「チームワークは冒険者にとって基礎の基礎。それこそ真っ先に磨かなければいけない能力です。そのため、この教育期間中はここにいる私を含めた6名を1つのチームとして、全てのカリキュラムを共にする事になります。当然、飲食も含めて」
その言葉に若干のざわめき。主に女性陣からのものを受け、間島さんは「ああ、勿論寝所やお風呂とかは別ですからご安心ください」と慌てたように言い、ざわめきは一先ず収まった。
こほん、と一つ咳払いをした間島さんは、空気を入れ替えたいのか。少し大きめの声を上げてホワイトボードを指さす。
「では、こちらに今から自己紹介がてら皆さん自分の名前を書き込んでいってください……そうですね、では最年長の山田さんからお願いします」
1と書かれた部分を指さして間島さんはそう言い、そしてその視線を俺に向ける。
若干助けを求めるようなその視線に苦笑をもらしそうになりながら、俺は「はい」と小さく頷いて席を立つ。
設定年齢は30代後半。少し運動不足が見える立ち振る舞い。くたびれたサラリーマンのような佇まいのしがないオッサンというイメージ。
「山田太郎です。よろしくお願いします」
こちらを見つめる4対の視線ににこりと微笑みを返して、偽名:山田太郎の最初の一歩は始まった。
というか他の4名10代か20前半しか居ないんだけど。年齢設定ミスってない一花さん。一花さん?
間島 吾朗:教官免許保持者。真島の兄貴じゃありません