今回も導入部分。話が進まず申し訳ない。
誤字修正。244様ありがとうございます!
「だから俺、そいつに言ってやったわけっすよ。『俺は冒険者になってビッグになる』って!」
「へぇ、なるほど」
「山田のとっつぁんもそう思うっしょ? 男なら天辺目指さなきゃぁって」
間島さんの説明を受けている最中ずっとボールペンを回していた少年、武藤君はそう語りながらピシッと人差し指を天井に向け、恐らく決め顔のつもりだろう斜め45度くらいの角度で笑顔を向けてくる。
その姿に思わず、といった様子で同じテーブルに座った他の面々がくすりと笑い、それに調子づいたのか武藤君は更にテンション高く……何故か俺に話を振ってくる。
いや、恐らく同性だから話しやすいって言うのもあるんだろうが。外見のチャラッぽさとは裏腹に女性慣れしてないのかもしれないな。クラスとかに一人は居たお調子者タイプって感じかな。
「ちょっと良夫。さっさとご飯食べないと休憩時間無くなっちゃうわよ」
「へ? あ、やっべ」
そんな武藤君に、彼の右隣に座っていた少女から声がかかる。小野島と名乗る彼女は武藤君と同じ高校の同級生らしく、彼とはペアでこの初期教育に申し込んだらしい。こちらは武藤君とはかなりタイプが違う。真面目そうな少女だ。
最初に聞いた時は個人の免許取得に何故ペア申し込みが? と思ったが、むしろ学校が開設してからこちら、複数人か団体での申し込みの方が個人より圧倒的に多いらしい。
まぁ、これに関しては理由を聞いたらあっさりと納得できたのだが。というか俺達ヤマギシチームだってそれが理由でずっとある程度固定のメンバー組んでたからな。
命を預けるんだ。それなら、やっぱり気心知れた相手に預けたい。実際に自分が冒険者になるという段階に来て、皆それに気づいたんだろう。
「山田さんは、ご飯をそんなに食べて大丈夫だったんですか? この後、間島先生の話では結構動くって」
「ああ、心配には及びませんよ。腹八分目で抑えていますので」
「は、はぁ……私の5食分は食べてるように見えたんですが……」
そして一人で申し込みをするって事は
今俺に声をかけてきた彼女、円城さんもそんな変わり種の一人だ。
ほんわかとした空気の似合う柔らかな雰囲気の女性だが、役者の卵らしく余り大きな声ではないのに彼女の言葉は騒がしい食堂内でもはっきりと耳に届く。ダンジョン内でも彼女の声は良く通るだろう。
「……山田さんの食べっぷりでもうお腹いっぱい」
そしてもう一人の変わり種は俺を――というよりも俺の前にある食器を見て、少し引きつった表情を浮かべている。
彼女の名前は手越さん。神奈川の大学に在籍しているという学生さんで、先ほどの説明会では最前列でガンガン質問をして間島さんをあたふたとさせていた女性だ。
事前に冒険者についてもかなり調べていたらしく、魔法の取得についてや実際に冒険に潜る際の注意点などを熱心に尋ねる姿が印象的だった。
この昼休憩の間もご飯をそこそこに先ほど尋ねた質問についてをなにやらメモしているらしく、稀にポツリと「やはりオークで……」やら「練習するべき魔法は……」等と口にしている。
あらかじめ色々な場面を想定して備えるタイプの人なんだろう。想定外の時にどう動けるのか見たいところだが……と、これはどちらかというと教官目線だな。今の俺は教えられる側。しっかりイメージを持たなければ。
「さて、武藤君も無事飯抜きを免れたようだし」
「とっつぁん、ひでぇよ」
「ははは。まぁ、これに懲りたら時間の調節はしっかりとね。飯抜きでダンジョンに潜るのは嫌だろう?」
出来る限り落ち着いた声音をイメージする。今のこの場に居るのは30代後半の男、山田太郎だ。
設定としては山田太郎氏は『ヤマギシ警備保障』に今年度入社予定の元自衛官である。これは年齢と動きのギャップを少しでも誤魔化す為にある程度動ける理由が必要だったことと、『ヤマギシ警備保障』なら人員についての誤魔化しも容易だからだ。
ほとんど人に任せてるけど、一応俺そこの社長(名ばかり)だからな。仮に問い合わせがあった場合もちゃんとカバーできるようにしてくれている……一花が。
「間島さんからは130ま……失礼。13時には訓練室という施設に来て欲しいと言われている。そろそろ移動しようか」
「りょうかいっす」
「わかりました」
自衛官としての常識は中々抜けにくい、という話を同じヤマギシチームの浩二さんに教わっていた為、今回の為に付け焼刃だが自衛官っぽい仕草や言動を元自衛官のメンバーから学び、常にキャラがブレないように気を付けておく。
外見が完璧に違えばそうそうバレる事は無いと思うが、一花に口酸っぱく注意された部分だからな。十分気を付けておこう。
まぁ、演技の練習だとでも思えばいいだろう。ライダーマンの一路で20代半ばくらいの年齢までなら演じた事はあるが、今演じている山田太郎は40手前。実年齢とは倍くらいの差があるんだから。
……いつの間にか、演技の練習とかもちょろっと自前でやるようになってる自分が怖いぜ。
「山田さん、どうしました?」
「ああ、いえ。今日の予定と今後の流れを考えていまして」
「ああ。でも、皆さん移動されてしまいますよ?」
円城さんからのやんわりとした注意に軽く頭を下げて返し、いかんいかんと軽く頭を振って雑念を飛ばす。
今回の俺の役割はむしろここからなんだから、気持ちを切り替えていかないと。
「最初の訓練、何になるんですかね」
「さぁて、どうですかね。自衛隊の様にいきなり整列を覚え込まされるのは勘弁して欲しいですが」
「そうですね」
冗談と受け取ったのか、クスリと笑う円城さんに、実際にそんな訓練から始まったらいきなりボロを出すことになるから勘弁して欲しい、と若干の願いを込めながら苦笑を返しておく。
まぁ……実際にそんな訓練をやってきたら大問題なわけだがな。ダンジョン内で整列なんてやってる余裕はないし、そんなスペースがある場所もそうそうない。
仮にそんな訓練をやらせようとする教官が居るとしたら……それは。
「……まぁ、まずは少し様子見だな」
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
ポツリと呟いた言葉を聞きとがめたのか。こちらを見る円城さんになんでもないと笑顔で返して彼女と並んで廊下を歩く。
他人を疑うってのはあんまり向いてないんだがなぁ……偽装された小型カメラを指で弄りながら、俺は一つ溜息をついた。