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右手を伸ばし、石の真上にかざす。普段は特に意識して行う仕草ではない。だが、こうやって人の前に立ち、他者の説明を受けながら行ってみると幾つかの気づき、のようなものが出てくる。
まず一つ。この石から魔力を抜き取るって感覚、初めにこの現象を発見した奴はなにを考えてこれを『魔力の吸収』だと思って行ったのかという事。
普通見た目ただの石を触ってなんだかわけのわからないパワーが体に伝わってきたら怖いだろう。
あんときは状況が状況で正直頭の色んな部分が麻痺してた気もするけど冷静に考えたらおかしいよな。恭二って奴のことだけどさ。
「山田さん、どうでしょうか」
「あ、ええ。はい、なんだかわけのわからない感覚ですが、流れこんでくる感覚はありました」
「分けの分からない。まぁ、確かにそうですね」
俺の率直な感想に間島さんは苦笑を浮かべながら頷き、俺が魔力を吸収した後の魔石を持って手に持った籠にいれていく。
魔力吸収後の魔石も研究対象の一つだからな。魔石はダンジョン資源の中でも最も需要の多い資源で、その重要性が認識され始めた頃から再利用が出来ないか、もしくは魔力を失った後の石も何か特性がないのか様々な研究機関が調べている、らしい。
ヤマギシでも研究しようとしてたらしいんだけど、新発見に次ぐ新発見にそこまで手を出せる余裕がなかったようだ。一分野を丸々ヤマギシだけで扱いきれるわけでもないし、他に振れるところは振った方が良いって事だろう。
「うぉっ!? び、ビリってきた!?」
「きゃっ!」
さっさと魔力吸収を終えて周囲を見渡すと、初めて魔力を吸収したのだろう高校生組が驚きの声を上げる。彼らほどではないが、他の2人も驚いたような表情を浮かべて力を失った魔石に視線を向けている。
覚えのある光景だ。初めてこれをやれと言われた時はついに恭二がおかしくなったのかと思ったなぁ。
「うん、皆さん終わったみたいですね。これがダンジョンと関わる人間にとっての最初の一歩。魔力吸収です」
パン、と手を叩いた間島さんに全員の視線が集まり、それを確認した間島さんはにこやかな笑顔を浮かべながら口を開いた。
「テレビやインターネットでも言われていますが、冒険者にとって魔力は全ての基本。また、魔力発電なども耳にしたことはあると思いますが、魔力とは現在最も高価でそれ以上に有用なエネルギー資源です」
間島さんの言葉に、隣に立った手越さんがうんうんと頷いている。勉強熱心な彼女は事前に一般に広まっている知識はあらかた集めていたらしい。手元にメモを用意し、知らない単語が出てくればすぐにメモ。逆に知っている知識があれば今の様にうんうんと頷いて間島さんの話を聞いている。
「今、貴方方が吸収した魔石はオオコウモリの魔石。ダンジョン第一層に出てくるモンスターで、当然最もダンジョン内部で弱いモンスターです。恐らく最も多くの人間に倒されたモンスターで、落とす魔石の魔力量も最低の物となります」
自分の話を聞く生徒達が理解できているのか、確認するようにゆっくりと全員を見回しながら、間島さんは話を続ける。
「つまり殆どの冒険者は。今、貴方方が行ったようにオオコウモリの魔石から初めて魔力吸収を行ったわけです――それこそ、ヤマギシチームですらも」
にこりと笑いながらそう告げる間島さんの言葉。その言葉に騒めく自身の生徒達を目にしながら、彼は一呼吸入れた後に声を張り上げた。
「これが、最初の一歩だ。全ての冒険者にとっての、最初の一歩だ。おめでとう。新たな冒険者たち。僕達は君達を歓迎する!」
胸を張り、自信に満ちた表情を浮かべて。自分の言葉に目を輝かせる生徒達に満足げな表情を浮かべて、間島さんはうんうんと小さく頷いた。
素晴らしいスピーチだ。彼を教官として採用した日本協会の担当者は有能な人なんだろう。
――こっちを様子見するようにチラ見するのが無ければもう少し感動できたんだがな!
苦笑いを浮かべて頷くと、あからさまに安堵したような表情を浮かべて間島さんは笑みを浮かべる。ヤマギシチームの名前を出した時も明らかにこっちに意識を向けていたし、これは何かしら気づかれているのだろうか。
いや……ヤマギシ系列の社員だから忖度してるだけって可能性もある、か?
彼については一度、一花に相談してみる必要があるかもしれんな。教官免許保持者なら一花の記憶に残ってる可能性もあるし。
「さて、これで最初の講義は終わりました。次は小休止を挟んで武具の授与を行う、予定でしたが。丁度皆さんの体術指導を行う先生がいらしていたのでご紹介したいと思います」
「……えっと、体術指導、ですか?」
「ええ。魔法や冒険者としての知識なら私でも教えられますが、体の動かし方などはやはり専門家の知識が必要ですからね」
手越さんの質問にそう答え、先生という人物を呼びに行くのだろう、間島さんは訓練室の入り口へと歩いていく。
まぁ冒険者はあくまでもダンジョンの専門家だ。奥多摩でも安藤さんや初代様のように剣術や体術の指導者は別途で居るんだから、教育機関であるこの学校にもそういった人物が居てしかるべきだろう。
胸に付けた小型マイクを指で弄りながら、願わくばまともな人であればありが……た……
「初めまして、新たな冒険者の諸君。私はスーパー1、短い期間だがよろしく頼む!」
「うっそだろおい」
すでに変身まで行った状態で現れた良く見知った人物の姿。ちらちらとこちらを見る彼の姿に思わず素の口調に戻ってしまったが俺は悪くない。悪くないだろ、うん。