第四十九話 ゲートの魔法
翌日の教育はダメージの大きな沙織ちゃんと一花を休ませて、俺がヘルプで沙織ちゃんの代打をする事になった。流石にまだ経験の浅いベンさんや美佐さんを俺達と同等の扱いにするわけにはいかない。低層とはいえ事故は起こりえるからな。
今日の訓練は午前と午後でしっかり行い、夕方のミーティングで昨日のダンジョン探索についてを外部組に伝えた。
反応は半信半疑といった感じだが、映像付きでパーティーが全滅しかけた瞬間を見せると押し黙る。
まぁ、あの状態異常は一度経験しないと理解できないだろう。
「あれを一度味わってもらうのをこれからの教育に入れるべきかもしれないな。初見殺しが実在するって、身をもって知ることが出来る」
「まずは教官組から行こうか。今ならすぐ20層へ行けるけど、体力は大丈夫ですか?」
浩二さん達は互いを見回してから、真一さんの提案に頷いた。
そして二時間後。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・そ、外」
リザレクションで体力は回復しているはずだが、青い表情で浩二さん達はダンジョンを出た。
浩二さん達ほど基礎が出来ていないベンさんと美佐さんは、顔を真っ青にしたまま無言で道を歩いている。
「あんな奴、知らなければ、皆殺しにされてもおかしくない・・・・・・」
浩二さんの呟きに一同が頷いて、再び会議室に足を向ける。
カリキュラムを一部修正する必要がある。後は派遣元への連絡が必要だな。
そんな形でこの秋、俺達は教官をやる傍ら状態異常に対しての研究も進めることになった。
特に致死率が高いと思われる麻痺や盲目状態、毒と言ったゲームなどでもポピュラーな状態異常に、熱や寒さ等といった環境を変えるような魔法等も視野に入れて新規魔法を開発したり、対策を練っていく。
とりあえず今回最大の成果としては。
「エアコントロール!」
恭二が発動させた魔法が薄緑色の膜を周囲にめぐらせる。
この中は常に一定の気温に保たれていて、暑さや寒さといったマイナスな状況を防ぐことが出来る。また、この膜の中には毒煙や麻痺煙といった空気に混ざる有害な物質を防ぐ機能もある。
頭に超が付くほど便利な魔法が生まれてしまった。
「これを付与したペレットを個人で持ち運べるようにすれば、花粉症から解放される!」
魔法の詳細を聞いた委員の1人がその瞬間にこう叫んでしまうほどの効果に、周囲は色めきたった。
と言っても、幾ら俺達でもそう何度も新製品を開発し続けることは出来ないため、真一さんたち経営陣は国内の空気清浄機などを作っているメーカーに相談してみるようだ。
「現状、まだまだペレットの数が足りないからな。発電機の方が優先になる」
「頼むぞ、恭二、一郎!ガンガンエレクトラムと魔石を取ってきてくれ!」
社長にガシッと肩を掴まれて頼み込まれる。最近、事務作業から解放された分社長は色々なお偉いさん達と話をする事が多くなったそうだ。
で、大体の人が二言目には発電機か魔石の話をするらしい。
ゴーレムの魔石が一つあれば大型の火力発電所をフルで一日動かす魔力を得ることが出来るそうなので、俺達の最優先対象はエレクトラムゴーレムの討伐だ。
現在は俺と恭二の二人組で一日にエレクトラムゴーレムを20体、普通のゴーレムを4、50は倒すことが出来ている。
移動の距離さえなければもっとバリバリ倒せると思うが、フィールドの広さが広さだからこれはしょうがない。
「なぁ、恭二、何かワープとかそんな感じの魔法は作れないのか?流石に嫌になってきた」
「ああ・・・一応俺も考えてるんだが」
バイクを転がすのは好きなんだが、ずっと同じ風景を見るのは流石に気が滅入ってくる。
駄目元で魔法博士に尋ねてみるも、感触がよろしくないようだ。
「いや、出来るかもしれん。ただ、転移した先が知っている場所かとか、転移したときにほら。何か虫とかが体に入り込んだりしないかが怖くてな」
「ああ・・・・・・『いしのなかにいる』って奴か。なら、転送室みたいに転移先を指定して、そこにゲートみたいなのを作れないのか?ダンジョンの入り口みたいな奴」
「いやいや流石に・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「恭二?」
「・・・・・・いける。イチロー、お前天才かもしれんぞ」
恭二はにやりと笑うと、地面に足で×印をつける。
「よし、ここに一度出してみる」
「マジか。マジか!?」
「成功するかはわからんがな。ゲート!」
恭二がそう呪文を唱えると、ボンヤリとしたもやが×印をつけた辺りを覆う。そしてもやが晴れると、見覚えのある黒い穴がそこに出現した。
間違いない、ダンジョンの入り口だ。
「ちょっと見てみる。どこに繋いでるんだ?」
「一応、ダンジョンの入り口のつもり・・・・・・・これ、やばいわ。維持するだけでガンガン魔力が」
「もうちっとだけ頑張ってくれ」
念の為右腕をミギーに変えてゲートに向かって伸ばす。最悪これで変な場所に繋がっていてもこちらに大きなダメージは無い。
ミギーの視界をこちらと共有すると・・・・・・
「間違いない。ダンジョンの、ゲート前に繋がってる」
「っし!大成功だ!って、ああ!」
成功を喜んでガッツポーズをする恭二。だが、そこで気が緩んだのかゲートが消滅してしまった。
一緒にミギーも飛ばされてしまったが、元々魔力で組まれた物の為魔力以外の損失感はない。
「すげぇな。ついに転送まで出来ちまうようになったか」
「・・・・・・・いや、外だと無理だ。これ、魔力消費がヤバすぎる。魔力が空気に満ちてるダンジョンじゃなかったら多分あっと言う間に消えるし、行き先のゲートも展開しないといけないから1人じゃ間に合わない」
「お前で駄目なら・・・・・・少なくとも暫くは空間転移はダンジョン内限定だな。それでも、すげぇよ」
疲れ果てたという表情の恭二に肩を貸して立たせる。
これでパーティーが全滅する可能性がグッと減った。20層以降の攻略に良い弾みがついたな。
エアコントロール:自身の周りに空気の結界を作る魔法。基本的に一定の気温を保ち、外気に混ざっている有害な物質を排除する。
ゲート(現状恭二専用):ダンジョンのゲートと同質の空間同士を繋げる穴を作る。莫大な魔力を消費する為、現状は恭二しか使用できない。ダンジョン外での使用もほぼ不可能。