教育期間も半ばを過ぎ、色々見えてきたことがある。
「とっつぁん、すまねぇ!」
「了解」
突出してメイジを始末した武藤君を横合いからオーガの小剣が襲う。が、その前に盾を持って俺が割り込みをかけ、盾でオーガの一撃をはじき返す。
そのままシールドバッシュを仕掛けてオーガを弾き飛ばし、武藤君と共に後方へ駆けて距離を空ける。そして空いた空間に他のメンバーがファイアーボールを打ち込み、残った敵を一掃する。
うん、良いパターンだった。魔法抵抗力のあるメイジをさくっと武藤君が無力化できたのもそうだし、合図通りに動いてくれた後衛の動きも良かった。前衛の動きに後衛が思考を合わせる。傍から見れば簡単に見えるが、これこそダンジョン内で最も重要な要素。チームワークの基本中の基本だ。
「山田さん、今のシールドバッシュですが」
「ん、ああ。相手の出鼻をくじく意味合いでね」
「ええ、そこは問題ありません。後ははじき返す方向を――」
一戦が終わったらその場で今の一戦の良かった点、反省点を洗い出す。勿論再度襲撃がある可能性もある為、斥候担当の手越さんが常に周囲に気を配っている。手元のメモ帳に色々と記入しながら。
それ大変だしどちらか変わろうか? と一度訪ねた事があるが、どうもメモを取らないと落ち着かない上に集中が出来ないらしいのと、思った以上に斥候役として周囲を見るのが性に合っているらしくこのまま続けさせてくれと懇願されてしまった。
その際に彼女のメモ帳を少し見せてもらったのだが、周囲のスケッチやら気付いた点やら反省点やらと教育機関のこれまでの歩みの殆ど全てが小さなメモ帳に網羅されている非常に出来のいい資料になっており、思わず素を出してコピーさせて貰えないか頼みそうになってしまった程だ。
一花やシャーロットさんが喜びそうな人材なので、一応報告の際に伝えておいたがどうなるやら。
「良夫、あんまり突っ込み過ぎないでよ」
「大丈夫さ。とっつぁんと俺、息ぴったしだもん! な、とっつぁん!」
「はははっ……事前の打ち合わせ通りに動きなさい」
「あっはい」
頬をひくひくとさせながら調子のいい武藤君の言葉に応えると、笑顔を引きつらせて武藤君がそう答える。武藤君と小野島さんカップルも大分こなれてきたのだが、この二人も面白い成長をしそうな片鱗が見えてきている。当初の印象通り武藤君は前衛、しかも特化型。ストレングスやバリアという補助魔法は覚えられたのに攻撃魔法はど下手という面白い尖り方をしている。
それとは逆に小野島さんは気真面目そうな発言や何かと武藤君の世話を焼きたがる姿からサポート型かなと思っていたが、意外に攻撃魔法の方に才能があり逆に回復魔法やストレングスなどの補助魔法に苦戦している。割れ鍋に綴じ蓋というか互いに互いの苦手をカバーしている、ある意味ベストともいえるペアだ。
「皆さん、怪我はありませんか?」
「大丈夫っすよエンジョーセンセ」
「良夫君みたいに大きな生徒は持ってません! 山田さんは、大丈夫ですか?」
「ええ。盾で綺麗に受けられたので問題ありません」
「それなら、良いんですが……」
ほっとしたように息を吐く円城さん。彼女はある程度前衛もこなせる他の班員と違って、動きながらの魔法行使を苦手としている。しかし攻撃・補助・回復魔法のどれもに適性を見せていて、現在の時点でバリア、ヒール、ファイアーボールの初球冒険者3点セットを覚えおり、現在はサンダーボルト・ストレングスなどの先に進む為には必須と言える魔法の習得を行っている。ゲームで言う所の魔法職という所だろうか。
俺が今まで教育に携わった教官候補生達には居なかったタイプであり、非常に興味深い相手だ。
「よし、それじゃあドロップ品を集めよう。間島さん、『カーゴ』をお願いします」
「了解です」
俺達の話し合いに口を出さずに見ていた間島さんに声をかける。一番最初の冒険以降、彼は基本的に俺達の行動を見守り、何か問題がある時に口を出すというスタンスで俺達の教育を行っている。
「先ほどの武藤君へのカバーはお見事でした。タンクとしての役割が板についてきましたね」
「ありがとうございます。『カーゴ』はそこに浮かせて下さい」
相変わらずたまに見られている感覚があるが、心配していた彼からのアクションは今のところない。一花の予想が外れていた、という事を切に願いながら、彼が引いてきた『カーゴ』に手をかける。
車輪の無い荷台付きバイクという形をしたこれは、ヤマギシと某大手自動車メーカーが手を取り合って開発したダンジョン用の新装備。
浮遊型荷物運搬機である。
「結構溜まったっすねぇ! これ何ポイントになるかな」
「前回の換算から考えるに……今回で一人頭1000ポイントは超えるかもしれない」
「1000……! 一週間しないで10万かぁ!」
「こら、雑に扱わない。錆びたナイフで手を切ったら、破傷風になるかもしれないんだから」
「あ、すまん」
手越さんの言葉に鼻息荒く武藤君が叫び、ついで小野島さんからの注意にしゅん、と項垂れる。
彼等が言うポイントというのは、冒険者専門学校におけるドロップ品買取の際の単位だ。普通に円でも良いんじゃないかと思うんだが、換金の際に法律がどうたらこうたらでこういう単位を設けているらしい。パチンコ屋みたいだな。
「オーガの小剣は確か30ポイント位だから、うん。1000は超えてると思うよ」
「ゴブリンのナイフと全然ポイント違うんすよねぇ」
「まぁ、この位の階層のドロップ品は素材としての価値しかないからね。10層より下なら研究品として買いたいってものもあるだろうけど」
武藤君の言葉にそう答えながら小剣をカーゴに乗せる。実を言うと買取価格は各組織で結構ズレるんだが、その辺りはまだまだ知らなくても良い知識だ。変に教えて変な期待をさせても良くないだろうしね。
「さて、じゃあ切りも良いし今日はこのまま戻りましょうか」
「……地獄も、多分終わった時間帯ですしね」
「はははっ……」
その言葉に何も答えず、間島さんはカーゴに跨る。将来的には各冒険者につき一台カーゴを、と言われているらしいが、今はまだまだ高価な代物だ。一般の冒険者にいきわたるにはまだ時間がかかるだろう。
バックアタックの警戒の為最後尾を歩きながら、カーゴを中心に歩く仲間達を見る。
俺達の時は周囲が騒がしすぎて、純粋にダンジョンに向かい合ってたのは恐らく恭二だけだった。俺も仲間達も、それぞれ理由を持ってダンジョンに向かっていたが、それはしがらみや仲間、家族の為といった意味合いが強かった。
そして……今。何のしがらみもなくダンジョンに挑戦する人たちと出会って。未知を喜び、先へと進む彼らと共にあるいて。彼らにも、ヤマギシの仲間たちと同じように仲間意識を持つことが出来ている。冒険が、楽しいと感じることが出来ている。
「……恭二が、ダンジョンに拘る理由。少しだけ分かった気がする」
「……? 山田さん、どうかされました?」
「ああ、いえ。何でもありません」
ぼそりと呟いた俺に円城さんが振り返るが、首を横に振って誤魔化す。いかんいかん。今メッキが剥がれかけたぞ。
まぁあいつほどダンジョン狂になる気はないが……俺ももう少し、ダンジョンと向き合うべきなのかもしれんな。右手の事もあるし。
まぁ、その前に。
折角できた新しい仲間達の門出を大過なく祝う為にも、細かな不祥事はさっさと消えてもらった方が良いか。
ポケットの中のポイント表を握り潰し、そう独り言ちながら俺は仲間達の後を追い歩き出した。