奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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更新遅くなり申し訳ありません……


第二百三十五話 逃亡の果てに

「腹かかえてワロタ」

「どやかましいわい」

 

 野次馬、パパラッチ、ダンジョンプリンセス。数多の追っ手から必死になって逃げてきた兄に対して、指を指しながら嘲笑う妹が居るらしい。

 

 くそがっ

 

「イチローさん、お疲れ様デース!」

「お疲れ様でした。飲み物はコーラで良いですか?」

 

 休憩中だったのか、ヤマギシビルの共有スペースでくつろいでいたシャーロットさんとベンさんが声をかけてくる。シャーロットさんは基本的に巣から出てくる時は出かける予定があるか社長室だから、この二人がセットで並んでいるのは結構珍しい。同性のジュリアさんとはたまに食事に行ったりもするみたいだけどね。

 

 ベンさんはまぁ、日曜とかにチェックのシャツにジーパン履いてアニメ柄の紙袋を両手に持ってる時以外は奥多摩付近に居るから、休憩とかの時間に会うことも多いんだけどね。ベンさん用の部屋は結構大きいはずなんだけど、最近戦利品にスペースが圧迫されてるらしくもう一部屋どこかに借りるか検討中らしい。

 

 2年前と比べて賃貸の値段が2倍くらいになってる奥多摩でそれを検討してる辺り彼もウィルとかと同じ階級の人なんだなって(小並感)

 

「あ、ありがとうございます。あと、何か軽く食べたいんですが」

「わかりました。ピクルスも入れてぺっちゃんこに潰しておきますね」

「サンドイッチですねわかります」

 

 打てば響くような会話に、実家に戻った時とはまた別の『帰ってきた』という実感が湧いてくる。1,2週間は奥多摩に居るのにこう感じるのは、やっぱりこのメンバーだからだろう。

 

「最近は新しい仲間とぼうけんのひび、楽しんでるんでしょ?」

「まぁね。彼らとの冒険も勿論面白いよ。余計な視線を気にせずにすむし……間島さんの視線はたまにどこまで見透かしてるのかって気がして怖いけど。そこんとこどうなんですかね、シャーロットさん」

「マシマ……? ああ、イエスイチロー・ノータッチの。彼なら心配いらないでしょう」

「めちゃめちゃ心配になる単語が聞こえたんですが(震え声)」

「実害はない、って素敵な言葉だね!」

「(素敵じゃ)ないです」

 

 ベンさん、苦笑いしてないでこの二人を止めて下さい。あ、無理? はい。

 

「時に、風の噂でお兄ちゃんがお姉ちゃんになったとかならなかったとか聞いたんだけど。お兄ちゃんの口から」

「言ってません。御坂さんのデッドコピーに一瞬なっただけだぞ」

「……スパイダーガール?」

「いやぁ、ビリビリの方だからどっちかというと、って違うからね???」

 

 男の魂までは無くなったわけじゃないからな。いや、マジで。孫悟空式の確認? 女の子がはしたないことするんじゃありません。

 

 

 

 

「オジサマ、ちょおぉぉぉっと待ってくれない?」

「うん?」

 

 教育機関も残りわずか。卒業要件である5層到達も達成した間島班は、現在は個人の実力アップのためにオーク手前での魔石狩りと必修魔法の練習に時間をあてている。必修魔法というのは、まぁヒールやバリアなどの冒険者としての基礎の事だ。

 

 魔石狩りはともかくとして、大体の魔法が右手から出てくるという欠点がある俺には今回の練習は大変良い機会なので、これを機に練習し直したのだが。ミギーさん経由なら、なんと! それっぽく普通に発動しているように見せかけることが出来るようになった!

 

 いや、それが普通なんだけどさ。ロックバスターでヒール球ぶっぱなすとかスパイダーウェブにヒーリング効果つけるとかめんどくさい事やらないですむようになったんだ。喜びもひとしおだよ。

 

 と、今はその前に。

 

「如月さん、どうされましt」

「なああぁぁぁんで! 教えてくれなかったのよぉぉぉおおお!!?」

「うぉっ」

 

 受付から身を乗り出し、どころか飛び出てきた如月さんの勢いに圧され、思わず一歩後ずさった俺に如月さんが飛びかかる。あ、ちょ、止めて。胸柔らか、じゃなく!

 

「イッチがこんな案件で出てくるなんて! 折角ユニフォーム姿以外の生イッチを拝めるチャンスだったのにぃぃぃぃ!」

「ええ……」

 

 すわ大事か、と身構えていたらなんだか良く分からない事でキレられていた。思わず顔が真顔になりながらも、半泣きですがりついてくる如月さんを落ち着かせようと声をかける。

 

「あ、おう……その、ごめんなさい?」

「ごめんですむなら公務員いらないわよぉぉ! あ、私公務員だったあぁぁ!」

「よし落ち着こうか!」

 

 あ、駄目だ逆効果だこれ。

 

 完全に錯乱状態の如月さん。助けを求めて周囲を見渡すも、頼りになるはずの仲間たち(間島班の班員)はそっと視線をそらしてしまう。あの、仲間のピンチですよ?

 

 結局錯乱する如月さんはこの後も支離滅裂な嘆きを周囲にバラ撒き。後に如月の乱と呼ばれるこの事件は、他の受付嬢が彼女を鎮圧するまで続く事になる。

 

 大迷惑である。

 

「あれだけ近くに来て気づかないとは、同じイッチファンクラブ会員として恥ずかしい……ですよね?」

「俺に言われても困るんですがそれは」

 

 なお、その顛末を後ほど聞いた間島さんの言葉がこれである。あんた本気で隠さなくなってきたな?


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