奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!


第二百三十六話 卒業

【それでは卒業証書授与式を始めます】

 

 物事には始まりがあれば終りがある。

 

【研修生代表、山田太郎】

「はい」

 

 スピーカーから流れる自分の名前。この名前とも今日で最後と考えると感慨深いものがある。幾らなんでも安直にすぎる名前だったが、名乗ってみると妙にしっくりくる。元の名前と似た系統だったからだろうか。

 

 壇上に上がりながら、この短い期間を共にした仲間達へ目を向ける。円城さんや小野島さんは涙ぐみ、手越さんはいつものようにメモを片手に。武藤君は……まぁ良いとして。

 

 良い半月だった。そう思えるくらいに、彼らとの日々は楽しかった。

 

 まぁ、心残りがあるとするなら。

 

【――卒業を認める。学校長代理、 間島 吾朗】

 

 最後まで謎を残してしまった事だろうか。

 

 

 

「卒業ぉ」

 

 小さく息を整え、手に持ったグラスを勢いよく上空に掲げながら。

 

「おめでとぉー! イヤッホォー!」

 

 頭上から降りかかるジュースも気にせずに武藤君は開始の挨拶を叫ぶ。酒が入っているわけでもないはずなんだがテンションがおかしい。相棒の小野島さんが物凄く恥ずかしそうにしているのだが良いのだろうか。

 

「おめでとう。全員合格、喜ばしい」

「おめでとうございます。無事終わってほっとしました」

「ありがとうございます。スーパー1先生もお忙しい中……」

「気にしないでくれ。教え子の卒業くらい祝う暇はあるから」

 

 そう笑ってスーパー1さんはグラスを掲げる。学食を貸し切ってのパーティー、しかも未成年も居るため今回は酒類を用意していないそうだが、烏龍茶でもイケメンが飲んでると絵になる。

 

「そう言ってもらえると嬉しいがね。最近は俳優業はほとんどやってないからなぁ」

「え、じゃあ今はどういった……」

 

 苦笑するスーパー1さんに手越さんがメモを片手に突撃する。折角のパーティーなのに一時もペンが止まっていないんだが。

 

「そういうとっつぁんは楽しみすぎでしょ……」

「当然だよ。日本での食べ納めになるしね」

「ああ……山田さんはお仕事でアメリカに行くんですよね」

「寂しくなります……山田さんには良夫ともども本当にお世話になったのに」

「私の方こそ、お世話になった。君たちと学べて本当に良かった」

 

 残念そうな班員達の言葉に本心で応える。短い期間だったが、実りある学生生活だった。

 

 彼らは卒業後もそのままPTを組んでダンジョンに挑むらしい。これから知らない誰かを探すよりも、苦楽を共にした仲間と組んだほうが良い。命の掛かった現場だ。背中を預けるなら信頼できる人がいい。ソロ冒険者? そんなのはある一定以上の実力者にのみ許されたスタイルだ。

 

 まぁ 中には新人のときからほぼソロで潜ってる例外(昭夫君や姫子ちゃん)も居るっちゃいるんだが。

 

「よーし、じゃあ写真とろうぜ! 手越ちゃんもメモってないでこっちこっち!」

「ちゃんをつけない!」

「まーまー」

「気にしないでいいわよ。ヨシオくんだもの」

 

 皆を引っ張るように声を上げる武藤君。それに対して苦言をもらす小野島さんを、円城さんと手越さんがなだめる。

 

 ――いいチームだ。彼らはきっといい冒険者になる。

 

 間島さんを中心に、班員とお世話になった職員さん、そしてスーパー1さんを始めとした教官たちも加わった輪の中。

 

 向けられたカメラに笑顔を浮かべながら、俺の冒険者学校生活は終わりを告げた。

 

 

 

「で戻ってきて早々ですが」

「はい」

「この惨状is何。三文字で答えてくれ」

「せめて三行は欲しいかなぁって……」

 

 部屋に積まれたダンボールの山、山、山。数日ぶりに戻った自室のあまりの惨状。あまりに不可解なこの事件を解決するため、俺は頼れる妹を召喚。何故こんな事を行ったのか、訳を尋ねるのであった……

 

「いや、私じゃないからね?」

「カツ丼、食うか?」

「それ有料な奴でしょ!?」

 

 なおカツ丼は下のラーメン屋さんに頼んだ。美味しかった。

 

「あむあむ。えーっと、なんの話だっけ」

「このダンボールの山に囲まれて忘れるんじゃありません」

「食堂で食べようよ?」

 

 全くその通りなんだが、こう。荷物の山の中で隠れたように食べる飯ってワクワクしないだろうか。隠れ家とかでおにぎりをほお張る感覚というかね。

 

 ほら、となりのトトロの冒頭の引っ越しのシーン。あの荷物の中にある狭っ苦しいスキマとか最高じゃね?

 

「うーん、良く分からんこだわりだなぁ。え、じゃあなんで私呼ばれたの?」

「それはそれとして何がなんだかわからない」

「もー。しょうがないなぁいち太くんは」

「昔のドラえもん映画見ると声の違和感が凄いんだよな」

「分かる」

 

 あまり似ていない青だぬきロボの声真似に素で感想を返すと同じく素で一花から返答が返ってくる。3代目って凄いよな国民的アニメ。

 

「げふんげふん。えーと、このダンボールについてだよね」

「うむ」

「とりあえず呼ばれる前に開いてほしかったんだけど、賄賂」

「ほー。賄賂……ワイロ?」

「そそ。悪い言い方だとね? どっちかというと贈り物ってのが正しいけど」

 

 ビリビリとガムテープを剥がしながら一花はそう口にし。

 

「要するに、あっちだけ贔屓しすぎだろこっちも見てーって事だよ、多分ね!」

 

 引き出されたジョーカーと書かれたコミックを手に、にやりと微笑んだ。


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