『お前、厄介ごとのバーゲンセールやー』
「おまえ、コロチュ」
助けて恭二えもん!と愚痴混じりの電話をし十数分。全てを聞き終えた後に恭二が放った言葉がこれである。やはりこのダンジョン狂いはどこかでとっちめなければならない(使命感)
『悪いって。まぁいつもの事で安心したわ』
「おい?」
『こっちの方でも新作の。ほら、マジックスパイダーかっこ今回は本当かっことじのCM流れてたけどさ。まさかそっち以外からも話が来るなんてな』
「その括弧づけはいりません。割とどうしてこうなった。俺の平穏は、平穏、どこ……」
『まぁ、あれだ。うん、強く生きろ。ダンジョン潜る?』
「潜りてぇよチクショウメェ!」
学校から戻ってすぐに現実に打ちのめされるなんて思わなかった。楽しかったな、冒険者学校。武藤君がどつかれてるシーンをもう一度見たい。時間を巻き戻せないだろうか。
いや待てよ、限定的とは言えワープまで生み出したプロフェッサーキョウジならワンチャン時間遡行とか逆行も可能性が微レ存。
『ねーわ。想像できんし仮に出来たんなら未来の俺がどっかで会いに来てると思う』
「どんな理由で?」
『ダンジョン面白かったぜって言いに』
「ネタバレ乙」
ゲラゲラと笑い合いながら近況を軽く伝え、互いに互いの健闘を祈り合い、からかいながら電話を切る。
うむ、やはりバカ話こそ精神安定には重要だな。古事記にも多分書いてる。読んだことないけど
「いやー、流石に古事記にも書いてなかったと思うよ!」
「読んだことあるの?」
「うん。今の時代ネットでも読めるよ?」
電話が終わるのを待っていたのか、スイカバーをペロペロと舐めながら一花が声をかけてきた。一先ず食べてから話しなさい。溢れたらもったいないでしょ。
というかスイカバーとか懐かしいものを。まだ売ってるんだな。
「うん。ヤマギシストアに売ってたよ」
「あのコンビニそんな紛らわしい名前だったか」
一花の言葉に首をかしげるも、律儀に黙々とアイスを食べ始めたので返事は返ってこない。まぁ良いかと気を取り直してぬるくなったコーヒーを口に含む。
会社の入った建物には各階に一つ、コンビニ等に置いてあるコーヒーメーカーが導入されている。なんでも社長曰く「ああいう大型店舗にしか置いてない機材使いたかったから」らしい。未だにあの人の中ではコンビニ業は家業の位置づけにあるんだろうか。
「あるんだろうなぁ。後継いだ店長さんも幹部扱いだし」
「ん、元バイトリーダーさんの事? そりゃあの人山岸家が大変だった時も文句も言わないでついてきてくれた生え抜きのヤマギシ社員じゃん。それに真一さんの先輩で根っからの奥多摩っ子だし、あの人冷遇はできないでしょ?」
「ああ、そう考えると確かに」
「コンビニ部門は社長の思い入れも強いしね! その割に主張の少ない人だから影薄く感じるけど!」
「それ絶対に本人には言うなよ?」
本人めっちゃ気さくないい人なんだけどね。あの人、本社会議とかがあると「なんで俺ここにいるんだろ」って内心思ってそうな顔して話聞いてるんだよな。俺も最近よくそういう表情でカメラの前に立ってたから、店長さんの気持ちがよく分かる。
……今度、缶コーヒーでも差し入れよう。恭二が戻ってきた辺りで。
「で、なんか用事だったのか?」
「あ、そうだ! まさか恭二兄と被るとは思ってなかったけど、映画のトレイラーの件!」
「ああ、見たのか?」
「うん! スタンさん気合入ってるよね! 同時期にアベンジャーズ本編も発表予定なのに!」
「みたいだな。あっちには俺出ないけど」
「その次が集大成でそこに向けてなんだよね。お兄ちゃんの映画も布石みたいな扱いで! くぅ~楽しみだよ!」
興奮した風に一花がテーブルをバンバンと叩きながら話し始める。限界オタク化するほど面白かったのだろうか。それはそれで嬉しい話である。
「まぁ私も元々そっち側興味あったし、だからお兄ちゃんに勧めたのもあるからね!」
「こんな状況になるとは1ミリも思わなかったがな」
「んふー」
んふーじゃないが?
軽くイラッと来たが、満面の笑みでどうだ凄いだろと言わんばかりの表情を浮かべられると毒気やらなんやらが抜けていってしまう。なんだかんだで頭脳面ではこいつやシャーロットさんにおんぶにだっこだし文句も言えんか。
ため息と一緒に色々なものを流しながら、飲み終わった紙コップをゴミ箱に捨てる。
「そういえばさ!」
「うん?」
「今回のトレイラーでさ、色んな人種が出てきたじゃん? 前の奴だとオークと殴り合ってる映像で終わってたけど、その辺どう関わるのかなって!」
「お前日本で撮る場面の協力頼まれてんだろ? そこで聞きゃいいじゃんか」
「やだなー。お兄ちゃんの口から聞きたいんだよ臨場感たっぷりに! 録画して恭二兄に待って痛い痛い」
左手で一花の額に優しくアイアンクローをかますと、ギブアップとばかりに手をぺちぺちと叩いてくる。兄を裏切る妹に遠慮などはない。
「ごめんって! 冗談じゃん」
「次はミギーにやってもら」
「本当に申し訳ありませんでした(震え声)」
「よろしい」
ミギーの名前を出した瞬間、俺の言葉を遮るように一花が頭を下げた。あいつ俺の一部の筈なのに割と冗談通じない上にやたらと器用だからな。後遺症が残らない一歩手前でギリギリ締め付けてきそうな気がする。
「でも、聞きたいのは本当だよ! スタンさん、ギリギリまでこっちにも情報流そうとしないからね。今のうちにイメージつけたいし!」
「うーん」
一花の言葉に軽く首を捻って考える。事前にどこまで情報を開示していいかはマーブル側から伝えられていて、一花には結構深いところまで話しても良い、とは言われているのだ。
問題は一花の場合ある程度情報を渡したらあっさりと大筋を看破してきそうって所なんだよな。スタンさんが伝えてないって事はその辺考えてるのかもしれん。集大成に繋がる布石ってあたりまでもう把握してるっぽいし。
「まぁ、強いて言うなら」
となると、言えるとしたら。
「今回の敵はオークじゃない」
これくらいになるんだよな。