第五十話 世界冒険者協会
「世界冒険者協会?何じゃそりゃ」
「本部はアメリカのロサンゼルスにあるらしい。一応日本の協会にも連絡来てるらしいぞ」
そう言って恭二はヤマギシ宛に送られてきた手紙をヒラヒラとはためかせる。
世界冒険者協会ねぇ。俺達に何のようなのか。
「喜べ一郎。ぜひお前に名誉会長になって欲しいらしい」
「謹んでお譲りします」
「俺もヤダよ忙しいのに」
「それな。日本の協会だけで手一杯だしアメリカまで手を伸ばすのは無理だろ」
毎日手分けして教育と魔石の確保に走り回り、何かあれば協会や企業に呼び出されて質問され、と非常に忙しい日々を送る俺達に、わざわざアメリカの仕事まで背負い込む余裕はない。
IHCが発表した魔法燃料とそれを使ったタービン発電機も実験機を更に発展させた商用発電機の評価が始まったし、民間企業が自社工場の自前の電源に使いたいとかの話も来ていて、燃料用ペレットは現状まるで足りなくなっている。
お陰で単独でもゴーレムを狩れる俺と恭二は連日14層に潜り続ける羽目になった。だが、恭二が新しく開発したゲートの魔法のお陰で帰りは楽々出口まで行けるようになったから大分負担はなくなったけどな!
このゲートの魔法の存在は一瞬日本冒険者協会に激震を走らせたが、魔力消費が酷すぎて外では使えない、いわばダンジョン専門の魔法だとわかると一気に沈静化した。そのダンジョン内部でもまともに使えるのが恭二だけだから余計にな。
「いや、それでも将来、魔力問題さえ解決出来れば外でも使えるかもしれない」
そう言って真一さんは最近、忙しい合間を縫ってその時暇な人員と一緒に1、2時間狩りを行っているらしい。ゴーレム等の大型の魔石以外は自分で吸収して自力を高めているそうだ。
「いつまでも弟達におんぶに抱っこされるわけにはいかないからな」
「いやいや頼りにしてますよ。ダンジョンの中でも外でも」
「・・・・・・」
ダンジョン内なら前衛も後衛もこなせる上にリーダーとして指示まで出してくれるオールラウンダーで、魔法のセンスも抜群。
外に出たら新しい魔法関連の特許にはほぼ名前が出てくるヤマギシの要で、次期社長。
政財界からの覚えも目出度いらしく、最近では社長よりまず真一さんと繋ぎを取りたい、という人も居るらしい。
俺や恭二が好きに動けているのも真一さんが居るからって所か大きい。
実の弟からは言いにくいかもしれないから俺の方から頼りにしてると伝えると、真一さんは少しだけ目を閉じて、深く息を吐いた。
「そうか・・・・・・そうだな。なら、もっと頑張らないとな」
「体に気を付けて下さいね?」
「ああ。俺程度の忙しさで倒れてたら親父に笑われちまうからな。お前も程々にしとけよ」
「完全にルーチンワークになってるんで。適当に切り上げますよ」
朗らかに笑う真一さんは、悩みが消えたのかますます精力的に動くようになった。リーダーの行動力が乗り移ったのか開発中の商品や技術が立て続けに成功し、ますますペレットと魔石の需要が過熱していく。
といっても俺達も限られた人数で無理くり回しているので、現状以上の成果を出すことは難しい。
一先ず、国が主導で行っている火力発電機の開発に注力し、そちらが軌道に乗り次第他の案件に着手することにして、新規の開発や技術協力については一時保留となった。
ここから先は更なる教育が進まないと対応できない。マンパワーの不足を今居る人員で無理して何とかしても続かないからな。
「ううぅ、悔しい!」
「さお姉、ドンマイ!」
そんな忙しい中のある日。キッチンで朝飯でも食べようかと部屋を出ると、沙織ちゃんと一花がノートPCを弄りながら何事か騒いでいる。
「何してんの?」
「あ、イチロー君。な、なんでもないよ?」
「なんでもないなんでもない!」
「お前ら誤魔化すの下手すぎ。何見てるんだ?」
ノートPCの画面をバタンと閉じて必死に隠す姿は疑ってくれと言ってるようにしか見えない。
「とりあえず見せて?」
「はい・・・」
「わ、悪いことしてたんじゃないからね?」
素直にノートPCを明け渡す沙織ちゃんに比べて一花は往生際が悪いなぁ。
とりあえず開いていた画面を見ると・・・にちゃん?
「ダンジョン考察スレ。なんだこれ」
「まとめサイトを巡回したら偶然見つけて。これ、書いてる事酷いんだよ!事実無根だよ!」
なになに。ヤマギシはケチ、魔石を独り占めしてる。可愛い子が多いのは人気取りの為。レイヤーがいる。兄貴に比べて弟は微妙。あんな小さな子を働かせてるのは違法。
ほーん。良くある批判スレじゃないか?
「こんなん無視しときゃ良いじゃん」
「でも悔しいよ!皆一生懸命頑張ってるのに!」
「やっぱり良く知りもしない奴に言いたい放題されるのは腹立つからねー。私もちょっと知り合いのスーパーハカーに依頼してこいつらを地獄に」
「厨房乙」
俺としては無視一択で良いと思うんだがなぁ。こんなん一々気にしてたら身が持たないぞ。
とりあえずボロを出しそうな二人にはもうここを見るのを禁止しておく。
「露出が多い以上、そういった声に振り回されるのは仕方ありません。二人も、自分からそういった所には近寄らないようにしてください」
「はーい・・・」
「ごめんなさーい」
キッチンに居たシャーロットさんに顛末を話すと、シャーロットさんは呆れ顔で二人に注意を促した。
君子って訳でもないけど、危うきには近寄らないのが一番だからな。
しかし、そうか。外部ではヤマギシが完全に独占してるようにしか見えないのか。
これからウチの会社がどう進むべきか、一度皆で話し合ってみるべきかな。
世界冒険者協会:名前がうさんくさい。