奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!


第二百四十話 ラーメンは飲み物

「そういえばお兄ちゃんってさ、コラボ配信とかってあんまりやらないよね!」

「うん?……うん」

「それはどういう意味のうんなのかなーって」

 

 とある日のお昼頃。ビル下のラーメン屋さんから出前を取る(割増料金)という有る種究極の贅沢を堪能していると、唐突に隣でずるずるラーメンを啜っていた一花がそう尋ねてきたため、二度三度と頷きを返す。

 

 どういう意味もそもそも一人の配信も進んでやりたい訳じゃないんだけどね。他の人が絡んでくるとか余計にやりたくないんだけどね?

 

 言外にそう意思を込めて視線を送るも妹君の面の皮を貫くことは出来ず、一花は意味わからないんだけど? と言わんばかりに首を傾げる。

 

「もぐもぐもぐ」

「口の中を空にしてから喋ろうか!」

「……………………ずずずー。ごちそうさまでした」

「その量で中断じゃなくて食べ終わるって選択肢があったかー」

 

 確かに礼儀がなっていないと判断し食べることに集中することしばし。スープを飲みきった俺の姿に一花は「うぅむ」と唸り声を上げた。味わう手間さえかけなきゃ丼半分くらいの残量なら成人男性は秒で食べられる。ラーメンは飲み物だしな。

 

「それは違う気がするんだけどなぁ!」

 

 納得がいかない、と表情に浮かべながら一花はカチャカチャとMikanBookのキーボードを叩く。来月からの大学生活で使うから、とつい最近購入したばかりの筈だがもう使いこなせているようだ。未だにスマホを電話と動画再生以外に使えない恭二や沙織ちゃんとはえらい違いである。

 

 俺? 俺はほら、余裕だし。なんならSNSや配信だって扱いきれるし。

 

「それ呟きの事前チェックで一回も引っかからないようになってから言ってほしいかな!」

「大変申し訳ありません」

 

 してはいけない表現や発言してはいけない事柄なんかの注意がやたらめったら多いんだよこの世の中。2,3年前までは同級生と下ネタでゲラゲラ笑ってた身としては結構辛いもんがあるんだがね。

 

「去年は最も影響力のある100人にも選ばれたりしてたからね。今年もノミネート濃厚なお兄ちゃんがテンテンくんのOPとか熱唱するのは不味いんじゃないかな!」

「テンテンくんのOPを歌う気は無かったぞマイシスター???」

「ま、そんな事はどうでもいいのさ重要な事じゃない! 実は丁度進行中の企画があってさ! お兄ちゃんも暇なら是非来てほしいって言われてるんだよね!」

「来週からこっちでの撮影も始まるから暇じゃないです」

「今は暇でしょ? お兄ちゃんのスケジュール管理、誰がしてると思ってるの?」

 

 貴女ですマイシスター

 

 いや、確かにこっちの予定とか諸々全部シャーロットさんと一花が管理してるんだから筒抜けなのは分かるんだけどさ。俺にも得体のしれない仕事を断る自由ってものがあると思うんだ……思うんですがその辺どうお考えなんでしょうかね我が妹様は。

 

 これで可愛らしい声で「逝け♪」とか言われたら兄としては涙を流してドナドナを歌うしか無くなってしまうんだが。

 

「いや、ほんとそんな怪しい企画って訳じゃないよ。参加者はほぼお兄ちゃんも知ってる人ばっかだし」

「ええー? ほんとにござるかぁ?」

「お兄ちゃんスマホゲーとか全然やらないのにそういう煽り文句だけはよく知ってるよね?」

「8割はお前か恭二経由だゾ」

 

 半目でこちらを見る妹に同じく半目でそう返すと、一花は心当たりがあるのかそっと視線をそらした。まぁ、うん。残り2割は面白外国人としてアキバのメイドさんに大人気のベンさん経由なんだがね。あの人ほど生まれてくる国を間違えたと言える人はそう居ないだろう。

 

 ヤマギシグループ全体の警備関連の差配を担当してるって超多忙な人の筈なのに、毎週金曜の夜までには一週間分の仕事を終わらせて土日はアキバ周辺に新しく借りたマンションで趣味を満喫してるらしい。今じゃジーパンに萌えT着て歩く風物詩みたいな存在になってるとかなんとか。

 

 確か奥多摩にも一つ戦利品収集用に部屋を借りるって言ってたから……いや、まぁそんだけ収入があるから出来るんだろうが、小市民の俺としては真似できない生活スタイルだな。

 

「お兄ちゃんこそ溜め込まないで使わないといけないんだけどね? 折角伝手があるんだから、自分用にカスタマイズした車でも買ってファンを喜ばせてあげなよ!」

「いっぺんライダーマンマシンで走ったら大渋滞を引き起こしたんですが」

「……公道以外で!」

 

 道行く人々が一斉に携帯電話を向けて動画撮影を始める異常事態を思い返したのか、一花は笑顔のままそう口にした。レース場でしか走らせられない専用マシンを購入してどうしろ。別にレーサーになる気はまるでないんだが。

 

 あ、でも最近大型免許を取ったらしい昭夫くんから福岡(こっち)に来たらツーリング行こう、とか誘われてるし公道で走れるバイクは持っていても良いかな。事故ってもバリアがあるし、エアコントロールで雨風も防げるからそこそこ経験のある冒険者はバイク持ちが多いんだ。

 

「あ、それ丁度いいかも!」

 

 その事を伝えると、我が意を得たり! と一花は笑みを浮かべながら手に持ったMikanBookの画面をこちらに向ける。

 

「さっきのオフコラボって話なんだけどさ!」

「……なんぞこれ?」

 

 見たことが有る人ない人が一斉にカメラに向けてサムズアップをするなんとも言えない集合写真と、その上部に位置づけられた『冒険者協会主催! 配信冒険者集合オフ』と書かれたページ。

 

 中央で満面の笑みを浮かべる麻呂さんに視線を合わせながらそう口にした俺に、一花はいつものように笑顔を浮かべたまま、いたずらっぽくこう言った。

 

「久しぶりにさ! 配信者っぽい事しようよ!」




気づいたら二百四十話……(白目)
これからもよろしくお願いします

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