『ん~、中々戻ってこないね!』
いきなりエラー画面になった更新されないチャットの流れ。複数の動画サイトを巡回するもどこも同じ状況が10分ほど続いた後。辟易とした様子でF5を押す視聴者達の耳に、少し低めの少女の声が響く。
『お、戻ってきた?』
『みたいだな』
『うんうん。流石は冒険者協会、力技に定評があるね!』
その声に反応したチャットを見たのか、声の主はぱちぱちと拍手をしながらそう口にすると画面中央に【お褒め頂き恐悦至極(震え声)】と書かれたテロップが現れる。そのテロップに合わせるようにカメラが動き――
ヘルメットを持った一人の青年を映し出す。
黒いレザースーツ、節々に補強されているのだろう硬質な輝きを見せるそれに身を包んだ青年は、戦乙女の名を関する単車をベースにしたマシンに跨ったまま、手に持った黒いヘルメットを被り――フェイスガードに白いドクロのマークが浮かび上がる。
『はいカットー!』
『今のは一号ライダーの映画中盤、戦いに赴く際のワンシーンですね! この前に地獄大使と一号の最初の邂逅が起き、窮地に陥った一号の元へと謎の戦士が駆けつける演出か~ら~の! ヘルメット一杯に広がるドクロマークで往年のファンを痺れさせ新規ファンを昭夫沼に陥れた作中屈指の名シーン! その甘いマスクから今やお茶の間でも大人気な昭夫パイセンが初めて全国区でいやいや元から知名度は会ったけど公共の放送でって意味で名前が知れ渡ったのはこのシーンのお陰と言ってもいいでしょう!』
『限界過ぎて意味がわからねぇぞエセライダー!』
『つまり、かっこいいって事さ!』
『は、恥ずかしか……』
ガヤガヤと昭夫を囲んで盛り上がる配信者達の姿。恐らくまだカメラ復帰が伝わっていないのか、リラックスした表情が見受けられる。そんな各人の表情をアップで写し、ゆっくりとした動作でカメラを動かす推定協会のカメラマン。【ニヤニヤ】とテロップが書かれている辺り半ば狙ったのかもしれない。
『うむ、思わぬトラブル……予期できたトラブルでおじゃったが一先ずは無事解決した事を喜ぶでおじゃ』
『10分以内にスピード解決! ニンジャ並のスピードだぜ』
『ニンジャとは一体』
『影に生きる者さ……さて、じゃあオレはあっちの車に戻るぜ!』
『うむ。準備が整い次第出発するでおじゃ』
カメラが切り替わり、これは車中だろうか。そこそこ広めの乗用車らしき車の中、運転席に一条麻呂、助手席にダンプ、後部座席に座っていたニンジャがそう言ってドアを開けて車内から出ていき、それに麻呂が笑顔で応える。
バタン、とドアが閉まり、少しの沈黙。そして、ちらとカメラを見た麻呂は『さて……』と呟くように口を開き、深い溜め息を一つついた後。
『ダンプちゃん……ハメたな?』
『モウシワケアリマシェン』
一切視線をダンプに向けずそう告げる麻呂にこちらも視線を向けず呟くようにダンプはそう応えた。
テロップすら流れずに場面が切り替わる。今度はもう一つ用意された車の
『さて、それじゃあそろそろ出発するぞ!』
『了解たい。お、カメラこっちに来とーとよ!』
『あらあらまあ。りすなぁの皆様、ご覧になっていますか?』
自身の持つ端末で確認したのか、野球のユニフォームのような姿をした配信者、タカバットの声に少し露出の多い赤い忍者衣装を身に纏った女性の配信者、くの一がカメラに向けててぴーすぴーすとVサインをみせる。
『車組も準備できてるみたいだね!』
『太郎先輩、もう一度考えて貰えませんか。真一さんも「タローが来てくれたら助かる」ってよく言ってて』
『あの、マジでそれ後でちゃんと考えて答えるからこの場では勘弁してくれないかな、して下さいお願いします』
『ん、今なんでもするって』
『言ってません』
再び画面が切り替わり今度は
本来は
『一郎さん、麻呂さんがそろそろって言うとるけん』
『あ、すまん。それじゃあ先輩、また後で』
『あ、はい』
『ヤマギシは人材不足だからさ、ごめーんね?』
『ふぁい』
【なぁにこれぇ(白目)】とテロップが思考を放棄しコメント欄も「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!」とポルナレフ状態に陥る中、画面内で真っ白になった痩せぎす太郎が膝から崩れ落ちるように倒れ込む。
その様子にコメント欄が涙する中、波乱のオフコラボはようやく幕を開けたのであった。
書きたい描写が多くて話が前に進まない(白目)