奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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遅くなって申し訳ありません!


第二百四十七話 東北自動車道封鎖できません

 バババババババババ

 

 周囲に鳴り響くプロペラ音に視線を向ける。視線の先を飛ぶ白いボディのヘリコプターは、周囲を舐めるようにぐるりと旋回しながら俺たちの頭上を行き来する。

 

「TV局ですかねぇ」

「TV局かなぁ」

 

 ぼんやりとした表情でそう呟く現場犬に、同じくぼんやりとした表情を浮かべたみちのくニンジャがそう答える。彼らのやり取りを横目で眺めながら、一花がうぅむ、と唸り声を上げる。

 

「見誤ったかぁ」

「見誤ったか、じゃないが」

 

 視線の先。一面を埋め尽くす車・車・人の群れ。ここは高速道路の筈なんだが、と現実的な現実逃避を行ったのはつい1時間ほど前の話。駆けつけた警察による”決死”の交通整理によりモーゼの如く別れた車列の中を、低速で走る2台の車とバイク6台。気分は完全な護送車両である。改造車両が3台もある豪華ラインナップだからな。明日の朝刊は頂きだろう(白目)

 

 稀に飛び出そうとする人々と警察官の熱き戦い(やり取り)を眺めながら、徐行くらいの速度で道を行くことしばし。並んでいる車列の中に明らかに他の物見遊山とは様子の違う人々を見かけ、隣に座る一花に尋ねる。

 

「あの。何故、道行く車両が垂れ幕を掲げてるんですかね」

「『ありがとうヤマギシ! ありがとうイッチ!』……うん、標語かな?」

「あー……福島ですかねぇ。ほら、原発の」

 

 小首を傾げる俺と一花の疑問に、答えを返したのは現場犬だった。

 

「原発、ですか?」

「ええ。うちが扱ってた現場の一つもそうなんですがね。原発の解体、かなり進んでるんですよ。魔法のおかげで」

「ふーん? もしかしてエアコントロールかな!」

「そうですね。それもあるんですが……まぁ、機密でもないですしお二人には言っちゃいますが」

 

 助手席に座りながら後ろに振り返り、現場犬は少しだけ声を抑えながら口を開いた。

 

「エアコントロール、物にかけたらそれについてるウィルスとか……放射汚染とかも除去してくれるみたいなんですわ」

 

 

 

「ノーベル賞ものじゃないかな?」

「除去った放射線はどこいったんだろうな」

「それを言うとキュアとかリザレクションもよくわかんないからね!」

「魔法すげー」

「この場合は恭二兄すげーになるんじゃないかな?」

 

 それはあんまり言いたくないなぁ。いや、あいつが凄いのは分かるんだが、まぁなんとなく気分の問題でね? 調子に乗るだろうし。

 

「うし、到着だ。住み慣れた我がダンジョン、まさかこんな形で帰ってくるとは」

「夢にも思いませんでしたよ。パレードの主賓ってあんな気分だったんでしょうね。いい経験したわ―」

「スンマセン」

 

 明るい声で到着をつげるみちのくニンジャとほがらかに笑う現場犬の言葉に罪悪感を感じながらそっと視線をそらす。どう考えてもあの大名行列の原因は俺にある。流石に明け方前のこの時間にここまで人が高速に来るとは思わなかったのだ。

 

 車を降り、冷たい空気を吸い込む。みちのくダンジョン周辺はまだまだ開発が進んでおらず、少し前の奥多摩とよく似た草木の香りが漂っている。

 

「ドライブは諦めるちゃうの?」

「まぁ、予想より斜め上の大事になっちまいましたからねぇ」

「マジスンマセン」

「いやー、許可した協会も協会ですし、正直俺らにとっては普通にやるより数倍旨味のあるイベントだったんで全然気にしてませんよ?」

「さっきチラ見したらチャンネル登録数が3倍くらいになってて震えが止まらねぇよ……」

 

 しかも海外からのユーザーですよね。日本語分かるのかねぇ、という二人の半ば現実逃避気味なやり取りを行いながら、みちのくニンジャは勝手知ったる、という具合に敷地の中をズンズンと歩いていく。

 

 そういえば前回ここに来た時は車での移動だったから、ここは使わなかったんだよな。

 

 ダンジョン側に併設された平たいアスファルトで舗装されたその場所――魔導エンジン式大型ヘリの格納庫へ足を踏み入れながらそう考えていると、先に到着していた一条麻呂がこちらを見ながら笑顔で手を降っている。

 

 ――猛烈な悪寒を感じ、逃げ出そうとした所を背後から昭夫くんに取り押さえられる。昭夫くん!? 何を、な……

 

 あーっ!!!

 

 

 

『はい、それでは! ここからは予定を変更して、時間が浮きまくったのでイッチによる最速ダンジョンアタックをお送りするでおじゃ』

『陸路だと、色々な所からのお声がな。協会も無視できなくてな……!』

『見抜けなかった。この鈴木一花の目をもってしても……!』

『節穴乙。とはいえゲストに負担を強いるのは気が引けるでおじゃ。飛び入りゲストでおじゃるが。飛び入りゲストでおじゃったが』

 

 

東北自動車道まだ渋滞してるゾ

Itchi!

草生えるわあんなん

英断。イッチの影響力パネェわ

仕込みゲストじゃなかったのか(驚愕)

 

 

「飛び入り(本番前)とは思わなかったからなぁ」

 

 耳につけたイヤホンから聞こえる一花や麻呂たちの声にそう呟きを返し、手元の携帯画面で流れていくコメントを確認する。ふむ、今の所問題はなさそう、か。

 

「先輩、それじゃカメラマン、お願いします」

「ああ。うん、その……お、お手柔らかに?」

「任せてください。先輩の半径3m以内にモンスターは近づけないので」

 

 ダンジョン出現後すぐの頃。米軍が壊滅したカリフォルニアのダンジョンの件で、世間に公表された情報の一つにダンジョン内の情報のやり取りがあった。

 

 米軍はカリフォルニアダンジョンに入る際、有線・無線両方の通信網構築を行おうとし、有線で物理的に階層を跨げば通信網を築く事が出来、結果7層で壊滅するまでの間、米軍が築いた通信網はリアルタイムの情報を地上に送り届けることに成功していた。

 

 つまり、どういう事かというと。

 

『10層までの各階層の階段にケーブルを敷き!出入り口毎に基地局を設けて無理くりリアルタイムの情報をお届けするという超力技のこの企画!』

『普通は収録した後の映像で行うでおじゃ。協会の全面協力がなければまず無理でおじゃるな』

『それでも人手足らなくて配信者まで駆り出されて基地局持たされてるからね!』

 

「そこまで大変ならやらなければいいんじゃないか?」

「ま、まぁ臨時冒険者の女性陣のために5層までなら結構やってるし……」

 

 つい漏れた本音に心苦しそうな表情で太郎先輩が答える。太郎先輩を責めてるわけじゃないんだがな。久しぶりにダンジョンを気兼ねなく潜れそうだし、これ以上は気にしないでおいたほうが良いだろうか。

 

 まぁ、後ろにいる先輩を振り切ってもいけないし、速度重視のスパイダーマンはやめて……よし。

 

「ヤァッ!」

 

 両拳を胸の前で突き合わせ、掛け声を叫ぶ。笛の音のような甲高い音と共に両手を天に突き上げ、右手から発する光に包まれながら帽子を被るように両腕を下ろし――

 

「ライダー、マン!」

 

 とりあえず1時間を目標に頑張ってみようか。


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