誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!
思えば不思議なものである。
「マシンガンアーム!」
走りながら右腕のアタッチメントを切り替え、バラ撒くように魔力の弾丸が放たれる。毎秒1000発の暴力は室内のオーク達を瞬く間に蜂の巣にし、それを成した当人は足を緩めること無く部屋を駆け抜けていく。1部屋3秒ほどの蹂躙劇。バイク並の速度で駆けながらそれを成す、前をひた走る現代の英雄。
誰が他にこんな事ができるというのか。確かに低層のモンスターは弱い。そこそこ鍛えた民間人でもゴブリンくらいまでなら魔力強化なしでも倒しきれる。これは実体験でわかっている事だ。5層くらいまでなら自分も同じようなことはできるだろう。殲滅力の差こそ出るだろうが。
だが、目の前の男は違う。地下1層から地下2層。更に2層から3層へと。徐々に強化されるモンスター達を相手に、彼は最初から最後まで全く同じペースでそれら全てを処理し、時たま背後をチラと見ながらひたすらに駆け抜けていく。
こちらを気遣っているのだろう。すでに階層は地下7層。オークの次の初心者殺しと呼ばれる大鬼を片手間に処理しながら。こちらの息が切れていないか。ペースが早すぎていないか。そして恐らくは、モンスターがこちらを襲わないかすらも考慮しながら、彼は無人の野を行くが如くダンジョンを駆け抜けていく。時たま、進路とは関係のない方向に行う射撃は、つまりそういう事なのだろう。
背後を走っているだけの自分がそれを感じたのだ。より全体を見渡せる者なら更に顕著にそれを感じ取れるはず。解説として軽快なトークを披露するみちのくニンジャや一条麻呂の声に、どこか感嘆の声が含まれているのはそれが理由だろう。
そして彼らがより細かく、分かりやすく噛み砕いた話を聞いて視聴者達は目の前を行く英雄、鈴木一郎の行っていることの凄さを認識し、より彼を英雄視していくというわけだ。
本当に不思議なものである。
『シンにい! タロにい! カブトムシとった!』
『いっぱいいた!!』
『おまっ! それゴk』
『バッカ、棄ててこい! あ、虫かご開けあああああああぁぁ!!?』
真一の後ろを追いかけていたあの鼻垂れの悪ガキどもが。記憶の中、何かやらかしては恭二と共に真一にプロレス技をかけられていた姿と今の後ろ姿を重ね合わせ、なんとも言えない感覚を味わいながらカメラを構える。今の自分はカメラマン。目の前の英雄の姿を余すところ無くレンズに収める影の役割だ。
裏方に徹するというのは、久しぶりだった。ここ最近、妙に上がった知名度のせいでメインを張らされる場面が多くなったが、本来自分はそこまで目立つようなタイプの人間ではない。動画配信も自分の知名度アップが目的というより、ダンジョンに入ろうとする後輩たちへの餞別というか、指針になればいいと思って始めた事なのだ。
本来の自分は
「はっやっ!? ここ9階だよ!? まだ1時間も経ってないのに!!?」
「お、劇女さんお疲れ様です……えと、配信中です?」
「……普通にあと3,4時間かかると思ってたから、その……ついモンハン配信をね」
「お疲れっしたー」
だからこそ、不思議だった。自分の知る彼や恭二は、決して真一のような明星ではなかった。頭脳明晰、運動神経抜群、更に交友関係まで広い真一が凄すぎたとも言えるが、故郷を離れる前に見た、中学の頃の一郎と恭二が今のような。それこそ人類でも指折りの英雄なんて呼ばれるような人間になるとは少しも思わなかった。
あえて言うならば、彼の妹である鈴木一花ならまだそう思えたかも知れない。一郎達とはまた真逆の意味で、小学生時代の彼女から今の姿を想像することはできない。
「大分丸くなったよなぁ」
「はい?」
「痩せぎすくん、どったの?」
しみじみとした思いが口に出たらしく、一郎が立ち止まってこちらを振り返る。場所はボス部屋の手前。最後の基地局担当として『ここはボス部屋』と書かれたホワイトボードを持ったエセライダーの言葉に「あ、いや」と慌てながら声を上げ、チラと一郎を見る。
マスクの下から見える口元。先程まで昔のことを考えていたからだろうか。その姿に、中学生時代の、学ランを来た鈴木一郎の姿がダブって見えた。撮影中、疑問に思っていたこと。何か口にしなければ。いくらかの焦りと混乱。そして――
「いちろーってさ」
「あ、はい」
同郷ゆえの気安さが痩せぎす太郎の口を動かした。
「同世代でちゃん付けするのさおちゃんだけだけど、幼稚園の時きょーじと取り合ってさおちゃんにフラれたのまだ引きずってるの?」
「ゲップ」
「ファーwwww」
白目をむいて叫びだすエセライダーと、白目をむいて吐血する
「あの当時からあの二人はもうオシドリ夫婦みたいな感じだし……でも、挑戦することは大事だと思うよ?」
「ころしてください」
「止めまできっちり刺さんでも……」
ガクリ、と膝を折る鈴木一郎の姿はカメラに余すところ無く撮られたが、サーバーの死によって10層ボスの虐殺劇と共に闇に葬られることとなった。帰り道、一人では歩けないほどに憔悴した一郎に肩を貸すエセライダーの視線はどこまでも温かかったという。