皆さん良いお年を。
誤字修正。244様ありがとうございます!
「悲しい、悲しい事が起きました」
「太郎兄ちゃん、鬼だね」
「……オイは恥ずかしかっ! 生きておられんごっ!!」
「介錯いる?」
「素で返すのはやめろよマイシスター。ついさっきイギリスから「ごめんね?」って電話が来て余計に死にたくなって」
「はい、この話終了。やめっ! やめっ!」
焦り気味に俺のセリフを食うように言葉を重ね、一花は強引にこの話題を終わらせた。ネタにすることも出来ないか。妹の気遣いが痛すぎて、割と真剣に腹を切るべきか悩む。つらたん。
「ま、まぁ放送事故はともかく。1時間での10層攻略おめでとう! 記録されてる限りじゃ最速なんじゃない?」
「恭二辺りが本気だしたらすぐ塗り替えられそうな最速記録だけどな」
「それ言うならお兄ちゃんも本気じゃなかったしね!」
本気でやったら
――駄目だな。どうにも気分が落ち込んでいる。
深く鼻で息を吸って、口から吐き出す。潮の香りが体に染み込むような錯覚。今、自分が海辺に居ることをこの時初めて俺は意識した。気持ちを切り替えようと思い立つまで、周囲の状況さえ頭に入っていなかったらしい。もう一度深く深呼吸をして、気持ちを切り替える。
流石に完全に、とはいかない。多分夜、寝る前あたりで布団の中でごろごろするハメになるだろうが、なにか考えていたり行っている間くらいは大丈夫だろう。少しずつテンションを上げていって、元の状態に――
「いちろーくん、そろそろ――」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!?」
「ちょっ、太郎兄ちゃん!? せっかく落ち着いてきたのに」
「え”っ”あ、いや。ごめん!?」
戻ろう、と考えた瞬間、目の前にひょっこり現れた痩せぎす太郎の姿に走馬灯のように一連の場面が脳内で再生され、ムンクのように悲鳴を上げながら右往左往を繰り返す。騒ぎを聞きつけた一条麻呂が一喝してくれなければ、しばらく戻ってこれなかったかも知れない。
恐るべし、痩せぎす太郎先輩……っ!
「色々言いたいことはあるけどね!!! 地元の先輩がこんなに厄介だとは思わなかったよ!!!」
「なんか、ごめんなさい」
「太郎兄ちゃんは本気で反省してね」
めったに見れないマジトーンで詰めよる一花に、痩せぎす太郎はコクコクと、無言で頷きを返す。その姿をじっと眺めた後、深い息を吐いて一花は背を向ける。一花の場合、テンション上がってるときより静かな時の方が本気度が高いからな。下手な言葉を返すと絶対零度の視線が飛んでくるから、付き合いの長い人は何も言えなくなるんだ。
俺? ああいう詰め寄り方されたらその瞬間、条件反射の土下座が出る。経験が違うよ、経験が(白目)
「ヘイ姫k――ダンプちゃん! 乙女トークタイムの時間だよ!!」
「待ってお前今本みょ」
「気の所為だよ! 多分きっとメイビー!! というか隠してるつもりだったのそのハンドルネーム!!」
「隠してるに決まってるだろうがマメチビっ!? お前マジでポロッと地元トーク出てきそうなの気をつけろよ? 痩せぎす先輩じゃないんだから」
「ぐふっ」
「あら。それならわたしもおとめとーくに」
「……くのいちパイセン、乙女トークって年れグワアアアアアァァァァァ!?」
「エ、エセライダインーーーっっ!? しっかりしろ! 傷は致命傷だっ!?」
そして途端に巻き起こす騒動を少し離れたところで眺める。姫子ちゃん、多分気を利かせてくれたんだろう。ノリツッコミが普段より大人しい上に矛先を痩せぎす太郎さんに向けている。
流石にその後の誘爆までは読めなかったのか。ワイワイと騒ぐ乙女(大人)女性陣とボロクソにされているエセライダー達の一陣から距離を取り、あっちの地元勢3名は固まって行動するようだ。太郎さんは、暫く乙女(少女)達に囲まれて針の筵になっててもらおう。
「イッチはどう行動する予定でおじゃ?」
「取り敢えず一番先っぽまで行ってみようかなって思います。川なら結構経験有るんですがね」
「うむ。まぁ未経験よりは勝手も分かろうが、川と海では色々と違う部分もある。分からぬ事があれば聞きに来て欲しいでおじゃ」
普段つけている烏帽子をワークキャップに切り替え、白粉をつけたままサングラスを着用する一条麻呂の姿に吹き出すのを必死で堪えながら頷きを返し、隣に立つみちのくニンジャに視線を向ける。ふるふる震えているのは、そういう事なんだろう。頑張って欲しいものである。
「一郎さん、俺も一緒して良かですか。俺、初めてで」
「俺もお願いしたかです」
「あ、うん。一緒に行こうか。といっても俺、川ばっかりで海は初めてなんだよな」
「いえ、俺ら全く経験なかですから、少しでも教えてもらえれば。それにイッチとは一度、ゆっくり話して見たか思うとったです。中学の頃、野球やっとったち聞いとったので」
「ああ。うん、いいよ。というかタカバットさん同い年でしょ? もっと砕けた話し方でも良いよ」
「いやー流石にそれはキツか」
ヘラヘラと笑いながら男3名、連れ立って防波堤の上を歩く。背後をちらりと見れば、どうやらそれぞれが2,3名のグループを組んで問題なく準備を終えているらしい。
ダンジョンアタックが予想以上に早すぎてまたも急遽組まれたイベントであるが、空は快晴。風も穏やかで、もしかしたら最初からこっちにしていた方が問題は無かったのかも知れない。悲しい、悲しい事が起きることも無かったかも知れない。鬱だ。
え、何をするのかって? そりゃあ健康な男女が十数名海に集まってるんだ。やることなんか決まってるだろう。
「釣れると良かですね」
「お昼ごはんが掛かってるからね。皆、全力で」
「一郎さん、流石にミギィで海釣りは絵面がやばすぎるけん……」
海釣りである。釣果なしは米と野菜だけになっちゃうからな。育ち盛りとしては全力、出すしかあるまい。