今年も拙作をよろしくおねがいします。
誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!
風もなく、穏やかな波の音に包まれた防波堤でのんびりと糸を垂らす。釣りが趣味というわけではないが、この穏やかな空気は好ましい。
持参したレジャーチェアに腰掛け、年齢の近い男3人、並んで座りながら駄弁る。ここ最近は中々なかった時間だ。
話す内容は色々ある。カメラの目もあるため下世話な内容は互いに禁じているが、それ以外。例えば共通の話題であるダンジョンの事、誰それが腕の良い冒険者である事、次の教官試験について。
ただ、まぁ話が盛り上がるというと趣味に関するものが一番というか。
「奥多摩中央っすか。聞いたことなかねぇ」
「強豪でもないし、近くの学校が合併して十年くらい前に出来た新設校だからね。校舎は古い奴を流用したらしいけど」
「ほー」
「奥多摩中と東和大中と……たしか東和大中がうちの父さんとかが学生の頃全国制覇したらしいけど、それも今や昔。どこにでもある田舎の学校だったよ」
「首都に有る田舎の学校」
「案外言い過ぎでもないのがなぁ」
東京都内とは一体、と話を聞いた時に思ったもんだ。
「中学の頃はシニアの方がメインやったけん、あまり詳しくなかと……あ、でも東京ならあいつは覚えとる。武蔵ブレイブスの吉田! シニアと甲子園、両方でけちょんけちょんにさね……あのえっぐいカーブ打てる気しなかとよ」
「武蔵の吉田って神奈川マリナーズ行ったヨシタク? 確かにあれは打つの難しかったかな。たまに飯食べに行ったりするよ」
「あれ打てってえ、友達!? うわ、世間狭かねー! 博多大堀の鷹条ち覚えとーか聞いてくれんかね!」
「あいよ。今メッセ送っとく」
「ありがとう! あ、やべ本名」
「タカバットさん、甲子園ネタでしょっちゅうそん時の映像流すから今更じゃ」
「ドンマイ」
名前からして野球好きというタカバットが居る以上、話す内容が野球に偏るのは当然のことだろう。俺もスポーツで言うなら野球が一番好きだし、話題にこまることはない。それに彼ガンガン話を振ってくるから間が持たないって事もないし。
まぁ俺たち二人につきあわされる形になった昭夫くんがちょっと可哀想だけど。
「あ、いえ。俺も野球は嫌いじゃなかよ。家の手伝いでスポーツはやった事なかですが」
「うーん、苦学生。今度暇な時に一緒にやってみる? キャッチボールくらいならすぐ付き合えると思うよ?」
「それなら俺の付き合いのあるメーカーにグローブとボール用意してもらったほうが良かです。冒険者の力じゃ、あっという間に駄目になるけん」
「あ、やっぱり? 俺も最初の冒険の時につけてたレガース、すぐ駄目になったんだよね」
「イッチはキャッチか、俺ピッチやけん今度相手してほしかね! 山岸情報でアイテムも使い込めば強くなるち言われとーけど、やっぱり限界は有るとよ。素直に買い替え――とキタキタ! 引いとーと!」
会話を交わしながら急に竿を引き上げ、タカバットはワーワーと楽しそうにリールを回す。おしゃべり好きで、リアクションが大きく、何よりも一つひとつの事柄を心から楽しんでいるのだろう。今まで周りに居なかったタイプの人だ。
釣り上げたカレイだかヒラメだか良く分からない魚をドヤ顔でカメラの前に持っていく姿に、こちらまで楽しくなってくるような感覚を受ける。他の動画配信者と接する事は麻呂さん以外ほとんど無かったが、予想よりも面白い人が多い。
今回のイベント、最初に来た時はどうしようかと思ったし太郎さんは本気で首を締めてやろうかと思ったけど、来てよかったかも知れない。太郎さんは、うん。思い浮かべないことにしよう。まだ傷は深い。
「いやー、しかしこれ結構デカか! これは一等賞狙えそうやなぁ」
「おっと、勝負はまだまだ終わらない。秘密兵器でここから逆転∨やねん」
「な阪関。使い所としてはただしくはある、のか……?」
「どういう意味があると?」
「「世紀の逆転劇フラグだね(たい)」」
当時は子供過ぎて理解できなかったが、後々見返すと本当にタイミングが神がかってたんだな。ミギーを伸ばして海に突っ込ませながらうんうんと頷いていると、ちょん、ちょんと肩をタカバットに叩かれる。
「うん、どうしたんだい鷹条くん」
「いや生配信中だからタカバットじゃなくて。それ何しとーと?」
「素潜り漁」
「これ釣り番組やけんね!?」
アウトー!と声高に叫ぶタカバットと手で大きな☓を作る昭夫くん。多数決の原理に破れ、泣く泣くタコを掴んだミギーを戻しながら俺は心に誓うのだった。
次までにフィッシングアームを開発しなければ、と。
「グランダ○武蔵でも始めるの?」
「へいシスター、それ兄も生まれる前の漫画だゾ!」
「じゃあ○釣りキチ三平?」
「もっと古い上に隠せてない!?」
他愛もない話を一花と交わしながら、紙皿に乗せたタコの切り身を醤油につけてパクリと口に入れる。うむ、上手い。
俺たちは今、仙台港にある食事処を一つ借り切って昼食会を行っている。釣り上げた魚は新鮮な内が一番、と妙に気合の入った麻呂さんが主張し、時間的にもそろそろお昼時だったからだ。
焼き魚、刺し身、天ぷら、少し変わってあら汁。釣りたてこそが一番、と言うだけありどの料理もご飯に合う。ついつい箸が止められなくなってしまう。
「あの」
「あ、はいなんですかくのいちさん」
「えぇと、その。イッチは、もしかしてふーどふぁいたぁという職種で」
「いえ、自分は冒険者ですが」
「あ、はい」
「お兄ちゃんぇ……」
隣に座ったくのいちさんの視線が気になるが、もしかしたら彼女の食べたい物に手を付けてしまったのだろうか。それは流石に申し訳がなさすぎる。
「絶対そういう訳じゃないよ?」
「……?」
「お兄ちゃんほんと食べてる時食べることしか考えないよね」
そいつは流石に失礼だぜマイシスター。しかし口は物を食べることに集中しているため返事が返せない。仕方ない、美味しいんだから仕方ない。
「……あの。イッチ、これ」
「あ、俺も。一郎さん、どうぞ」
「じゃあ俺も」
「私も……」
ガツガツ食べていると、何故か周囲の人々が1品、また1品と小皿や盛り皿を俺の前においていく。その光景を見ていた店員さんも、何故か台所からおひつを持って、ドンっと俺の座る机に置いていく。
「ここは天国か? 俺は夢を見ているのだろうか」
「悪夢かなぁ」
ポツリと呟いた言葉に諦めたような声の一花の言葉が挟まるが、最早気にもならず俺はおひつに手を伸ばした。米は主食だからね。仕方ないね。仕方ない。