ダンジョンが現れてから数年、世界の技術はそれまでとは全くベクトルの異なる新機軸、魔法の登場によって飛躍的な進歩を始めていた。
化石燃料に頼らない新エネルギー・魔力の登場、魔法による重力制御、回復魔法の発見による医療改革。これまで発展してきた技術体系の根本を揺るがす程の新発見。そして、山岸恭二によって世に示されたかつて存在したという魔法文明の再発見。
たった数年で、19世紀から20世紀にかけておきた産業革命並の衝撃が世界を駆け巡ったのだ。
いまや各分野の最先端は既存技術の発展ではなく、如何にしてこの新機軸を取り込んでいくかに焦点が絞られており、魔法を扱える人物限定となるが、ほぼ永久機関といえる魔導エンジンのように、魔法と科学のハイブリッドともよぶべき技術は毎日のように産声を上げている。
「この機体もそうです」
カタカタと膝の上に乗せたノートPCを操作しながら、発明王ヤマザキはそう口にする。
みちのくダンジョンに戻ってきた俺達は、準備されていた魔導ヘリに乗り込み空路で夕張ダンジョンへと向かうことになった。
用意されたヘリは2台。半分に分かれて乗り込んだ俺達は、それぞれの旅の暇を持て余す――わけもなく。
前方の方ではみちのくニンジャとエセライダー氏が「トレダカガー」と叫んでいるので、恐らく自分たちの配信用の動画を撮り溜めているのだろう。
「元は米軍が扱っていた兵員輸送用ヘリのテストタイプでしてな。色々問題が出てお蔵入りになる筈だったものを随分昔に日本が引き取りまして」
「へー。色々問題って、解決したんですか?」
「ええ。主問題がエンジンに関わる事柄でしてな。私も改修に携わったのですが、面白い仕事でした」
言いながら発明王ヤマザキはノートPCを閉じる。魔導バイクを運転する際、挙動についてを毎回レポートにしなければならないらしい。物ができてハイ終わり、というわけにはいかないのだろう。
「今までにない試みというのは、何が起こるか分からないということですからな。いきなりエンジンが大爆発という事も起こらないとは言えないわけで、故にデータを残すのは必要なことなのですよ」
「まぁ、そうですね。初見殺しって本当に死んじゃうから初見殺しですし」
「ヤマギシチームが残してくれたデータが無ければどれだけの人間が犠牲になったか。恐らく国内で……政府が禁じるまでと考えても3,4桁はくだらなかったでしょうな」
少し考える素振りを見せてそう口にする発明王ヤマザキに、曖昧な表情で頷きを返す。これ、かなり控えめな数字で言われてるな。アメリカ側の見立てだと、日本人なら恐らく更に多いと言われていたりするんだよね。中高生メインで。
今現在、日本国内でのダンジョンアタックは、ガッチガチに規制やら何やらで固められている。ダンジョンに潜る前にどこまで潜るのか、新規階層に行くなら対策は万全か、体調に不備はないかetc...
「1層から5層までのお客様方にとっては、入退場の作業の方がダンジョン内に居る時間より長いと評判ですな。それで犠牲者が出ないのならば続けるべきでしょう」
「臨時冒険者の方々は、まぁ、その。別枠というかですね」
”若さ”という最強のカンフル剤をキメたお姉さま方の姿を幻視し、若干震える声を振り絞って発明王ヤマザキに相槌を打つ。
この企画に参加している配信冒険者は全員10層を攻略した冒険者2種以上の免許を持っており、誰もが臨時冒険者の引率を経験したことが有る。
つまり、発明王ヤマザキもあの狂気を感じた経験があるわけで。
「……」
「…………」
互いに無言のまま差し出した右手をガシッと掴み、うんうんと頷き合う。あれは怖い。何が怖いってダンジョンが出た後はそれまでの狂騒が嘘のように穏やかな表情で「あらあら」「うふふ」と話しながら出ていく所がヤバい。つい20分前まで互いに魔石をひっつかみ合いながら口汚く罵り合ってたのに。
「ところで、この移動時間中は配信どうなってるんですかね。小休止になるんですか?」
「ニンジャ氏に聞いた話だと、『仮面ライダー』と『復讐者』になるそうです。まぁ、ちょうど4,5時間は潰れる計算ですからな」
「おっと予想外の方向だな???」
「日本冒険者協会は協賛に入っていますから。申請しやすかったのでは。よく考えればどちらもネット配信は初めてですか。この機会に初視聴というものも多いでしょうなぁ」
『復讐者』の方は確か地上波もまだじゃなかったかな。え、それでOK出たの? 冒険者協会強すぎでは……
「いや、どう考えてもイッチパワーだと思うんですがそれは」
「お。エセライダーさんども。撮影中ですか」
「イエース! いい機会ですからね。普段は炎上かコラボ以外だと地味is地味とか言われちまうから、ここで俺の撮れ高となってくれいイッチ!」
「欲望一直線なその思考、嫌いじゃない」
右手でビデオカメラを持ち、左手の親指をグッと立てて笑うエセライダーにグッと親指を立てて返す。まだまだ夕張までは時間が有る。暇もあるし、とことん付き合わせてもらうぜ!