奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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沖縄あったかい

誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!


第二百五十二話 グランドフィナーレ

 そこは不思議な空間だった

 

 壁に埋め込まれた灯りに淡く照らされた近未来的な通路。ゴゥンゴゥンとうごめく謎の機械群を手で触れながら、みちのくニンジャは周囲を探るように見回した。

 

 そんな彼の耳が、コツ、コツ、という足音を捉える。振り向く彼の視界の先、深い闇が広がるそこに目を凝らす彼は、闇を切り裂くように伸びる赤い光を見る。

 

デーデーデー デッデデー デッデデー

 

 コー、ホーと呼吸音を響かせながら、彼は歩く。右手に握る剣、赤く光を放つライトセーバーを構えながら、闇の中を、まっすぐ。ニンジャに向かってまっすぐと。

 

デーデーデー デッデデー デッデデー

 

 壁に埋め込まれた光源が、その姿を照らし出す。

 

 黒くメタリックに光るボディーアーマーとマスク、黒いマントを身に着けた男の姿を。

 

 金縛りにあったかのように立ちすくむみちのくニンジャの前に立ち、黒いボディーアーマーを着た男、ダース・ベイダーのコスプレに身を包んだ彼は、右手の指でみちのくニンジャを指差した。

 

「あいむ ゆあ ますたー(私は貴方の師匠です)」

「ノォォォォォォォォォ!!!?」

 

 仮面を外したネズ吉の姿に、みちのくニンジャが雄叫びを上げ。

 

 うるさいでおじゃ、と姿を表した一条麻呂にツッコミを入れられながら、彼らのグランドフィナーレは幕を開けた。

 

 

 

『いきなりスター・ウォーズのパロディとは凄い度胸だね! 米国もそうだけど、冒険者協会って冒険心に溢れた人間しか居ないのかな?』

『一冒険者としてはお上の内情は把握いたしかねておりまして』

 

 ゲスト、と手書きで書かれた名札を指で弾きながら、老人は口を開いた。

 

 目の前で繰り広げられる喧騒に彼、スタンさんはそう感想を言葉にし、彼の言葉に思わず視線を逸しながら俺は政治家の答弁を参考にした返答を口にする。流石に全部が全部そういう訳ではないと思うんだけど具体例をあげろとか言われたら困っちゃうからね。色々と。

 

 視界の先では恥ずかしくなったのかネズ吉がすぅっと姿を晦まし、それを他の冒険者が追いかけるという騒動が勃発。超感知持ち+マスターアサシンばりの気配遮断が出来るネズ吉さんが本気で隠れたら正直見つけられる気がしないんだが大丈夫だろうか。

 

『君でも無理なんだ?』

『無理ですねぇ。見つけるだけならスパイディで行けそうなんですが、こっちが近づく前に向こうが近づいてるのに気付いちゃうんで』

『ああ。感知の方が得意なんだっけ。面白い題材だ。インスピレーションが湧いてきそうだよ!』

『まぁ、あの人の特性が面白いのは間違いないですね』

 

 魔法でメタ張って相手に何もさせずに倒す、という冒険者の基本スタイルとは全く別の、相手が気付かない内に倒すというどこの暗殺者なのかというスタイルの人だからな。本人が露出が嫌いなせいで有名じゃないけど、分かる人には彼のファンだって人も居たりする。一花ほど強烈じゃないけど。

 

『見る目がある人はどこにでも居るものだ。しかし彼は、うん。ウチだと誰だろうかなぁ』

『何かしら例えが出てきそうなのがスゲェわ』

 

 感知能力、プロフェッサー?いやスタイルが違いすぎる彼はそもそも、と独り言のように呟くスタンさんにそう返して彼から視線を外し、テーブルに肘を置き頬杖を突く。撮影セットとして用意された機材に、恐らくウェイトロスをかけてテキパキと運び出す現場犬と、彼の支持に従ってパタパタと動く他の配信者達。

 

 見る限り2mは越えていそうな鉄の塊をくの一さんが軽々抱えている姿を見ると、魔法の力の凄さを改めて感じさせてくれる。

 

『頭が痛い問題なんだよね。冒険者の存在って』

『ああ。まぁ、言いたいことはわかります』

 

 下手なスーパーヒーローよりもヒーローらしい能力。彼らは少なくとも3年前まではごく普通の一般人だった。今、あの重そうな機材を片手間に運ぶ面々の誰もが、100kgの荷物を持つことなど出来なかっただろう。

 

 ウェイトロス。それがなくてもストレングスさえ使えれば、10層くらいまで潜れる冒険者ならだれもがあの光景を作り出すことが出来る。出来てしまう。

 

『そろそろウチもアレをやるしかないかなぁって社内では話題になってるんだよねぇ』

『アレ、ですか?』

『全ヒーロー総出の修行回』

 

 絵面がどうしても地味になるんだよなぁと若干テンションを落としながら口にするスタンさんに無言で首を横に降っておく。マーブルの全ヒーローがダンジョンに殴り込みに行く話とか普通に面白そうなんだが。

 

『まぁ抜群の案内役も居るし案としては結構有力な』

『ウィルとかそろそろサイドキック卒業で良いんじゃないですかね。あ、スタンさんそろそろお仕事の時間じゃないですか?』

『君、こういう話題だと本当に対応が冷たいね。ああ、そこの君、そろそろ良い頃合いかな』

 

 まかり間違って変なシリーズになられてMS出演シリーズが増えられても困る。大変困るんだ。主にシャーリーさんのテンション的な意味で。俺の言葉に若干不満そうにしながら居住まいを正したあと、スタンさんは撤収作業に参加せず、カメラの準備をしていたスタッフさんに声をかけた。

 

 その言葉にスタッフさんは少しお待ち下さい、と一言英語で告げてから耳に有るイヤホンに手をかけ、何事か話し始める。ワイヤレスイヤホンマイクという奴だ。復讐者達の映画で社長や本家さんと戦うシーンだと、アレをつけてウィルと会話したりしてるんだよな。ダンジョンの中でも、チームメンバー同士のやり取りに使用できないか試してる装備の一つだ。

 

『OKデス』

 

 そんな考えを頭の中で巡らせている間に、スタッフさん側の準備は整ったらしい。用意されていたカメラがこちらを向き、それに気付いた周辺の撤収作業中のスタッフ達も集まりだす中。

 

 簡易的なパイプ机とパイプ椅子に座ったスタン・リードが口を開いた。

 

『ああ、ありがとう。それで、いつから話し始めれば良いのかな』

『スタンさん、もう始まってます』

『Wow! すまない、あまりこういう事には慣れていないんだ』

 

 耳打ちするようにそう言うとさもビックリしたというように両目を開けてスタンさんは謝罪の言葉を口にする。世界でも有数のインタビュー慣れした爺さんの言葉に、動画ページに繋いでいる画面は一面wに包まれている。草生えるという概念はどうやら諸外国にも広がっているらしい。

 

『ああ、すまない。折角面白い番組を楽しんでいたのに、急にしわくちゃの爺が出てきて驚かれているだろう』

『絶対そういう驚きとは違うと思いますよ』

『隣に居るこの老人に優しくない青年が居る事から分かるかも知れないが、今から始まるのは番組宣伝という奴なんだ。実は来月、私が所属している会社の映画が出る。映画スケジュールで知ってるだって? ありがとう、しかしこれから見せる映像はまだ見ていないだろう?』

 

 その言葉に合わせるように、スマホから流れ出すBGM。恐らく配信画面を見ている面々の耳には、このBGMと老人の声が同時に響いているんだろう。上手い引きだなぁ、と思いながらカメラから視線を外さないように笑顔を浮かべる。

 

『ああ、そうそう』

 

 そろそろ映像が始まる、というタイミングで何かを思い出したかのようにスタンさんは口を開き。

 

『次の映画では隣の彼は出てこない。それが何故かは……映画館で是非目にしてほしい』

 

 満面の笑みを浮かべた後、スタン氏はそう言葉を残し、配信画面は復讐者たちの新PVへと切り替わる。

 

 後に「そりゃねぇよスタン」という流行語候補を生み出した一幕は、こうして幕を閉じ。

 

 最後の最後でとんでもない爆弾を投げつけ全てを掻っ攫ったスタン氏の所業に、他の参加者から「あれはひどい」と愚痴を言いながら皆で札幌に繰り出し美味しい料理を食べて、今回の小旅行?企画は終わりを告げたのだった。


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