戻ってきた理由とか詳しくはまた次回か次々回あたりに
誤字修正、244様、灰汁人様、kuzuchi様ありがとうございます!
「うお」
「お」
今日も今日とて積んだコミックの処理を、と山盛りのコミック雑誌を抱えて談話室に足を踏み入れる、共用のテーブルに座ってどんぶり一杯の米をかき込む珍しい奴と遭遇した。
「あれ、イギリスに永住するんじゃなかったのか」
「なんでやねん。あー、米うめー」
「美味しいね、恭ちゃん」
山岸恭二と下原沙織。チームヤマギの誇る全一冒険者とその嫁の帰還である。
ベリベリと音を立ててマジックテープを剥がし、腕を通して貼り直す。ヤマギシの、というよりも日本冒険者協会が指定している冒険者のユニフォームは金属を使っておらず、ジッパーの代わりにマジックテープが使用されている。
金属を使っていない理由はまぁ、あれだ。ファイアボールを食らって金属部分が溶けたら悲惨な事になるからな。
「支払いは任せろー(ばりばりばり)」
「やめて!」
「――イェア!」
ピシガシグッグ!
「恭ちゃん、楽しそう」
「ジョジョネタ乙。お兄ちゃんハシャいでるなぁ!」
着脱の際に良くやるネタを交わし合い、恭二と両腕をぶつけあう。これだよこれ。このノリが最近足りなかったんだ。
「このユニフォームも久しぶりだね」
「最近は円卓騎士団のユニフォームばっかだったからなぁ」
感慨深そうに呟く沙織ちゃんに、恭二が頷きながらそう応える。円卓騎士団っていうのは30層より下の深層攻略の為に結成された、英国冒険者のトップチームだそうだ。オリバーさんがリーダー、と思いきや、なんかリーダーはリアル王子様がやってるんだとかやってないんだとか。
「まぁ実質はオリバーさんがリーダーだったけどな」
「真面目な人だったけどねー、王子様」
関わり合いになりたくない単語ぶっちぎりナンバーワン、”政治案件”の匂いがプンプンする内容ですね。くぉれはさっさと帰ってきてて大正解のパターンか。
ドイツのトップチームも何とか騎士団だったし、欧州系の冒険者は騎士の系列でチーム名を決めていくのだろうか。
「ソッチのほうが国民から理解されやすい、とかじゃないかな!」
「ウチやアメリカみたいに企業名がってのは意外と少ないんだな」
「宣伝代わりに企業名、ってのも勿論あると思うけど、ウチとかブラスコみたいなインパクトは難しいだろうね! 看板になる冒険者で劣っちゃうから」
各国の代表クラスはその国のトップチームに参加してるし、その他の冒険者でチームを組んだとしてもやっぱり知名度や注目度では見劣りしてしまう。企業勢がトップチームなんて日本と米国だけだしな。
「その二国が勢力図的にはぶっちぎってるしねぇ。恭二兄とさお姉が居なくなったら、円卓もどこまで潜れるのかな? っと」
そう言いつつブーツに足を通した一花は、紐をギュッと結んだ後に立ち上がり。
「じゃ、行こっか! ダンジョン防疫局の開局記念!」
笑みを浮かべて振り返り、そう口にした。
校長先生と政治家の挨拶は長いって相場が決まってるんだ。俺は詳しいんだ。
「んなの日本人なら誰でも知ってるよ」
「炎天下で何十分も立ちっぱなしって、普通に虐待不可避だよねぇ」
ボソボソと口を動かすと隣に立つ恭二と一花から心温まる回答が帰ってくる。実際今はどうなってるんだろうな。俺の場合、高校途中から通信制だし卒業証書は郵送で送られてきたからその辺がよくわからん。
最後に出た式典ってなんだろう。高校の入学式だったかな。
「山岸記念病院とかヤマギシ・ブラスコ設立の時の式典とか色々あった気がするけど、学校行事はそういやぁ」
「私は高校の卒業式と大学の入学式があったからね! またかよおいって感じ!」
一花の言葉に「ああ……」と恭二が軽く頷きを返す。通信制とはいえ高校を卒業した俺と違って、こいつはそのままヤマギシに就職したからな。同じ環境だった沙織ちゃんは大検はとったっつぅのにこの男と来たら。
いや、まぁこのダンジョン狂いがダンジョン以外にそこまで労力使うとも思えんのだが。免許系はダンジョンで使うから頑張ってたけどなぁ。
「免許といえば、そういえば国際免許はどうなったんだ。あっちのダンジョンでも運転したんだろ」
「あー。一応ライセンスは取った。向こうでもずっとダンジョンってわけでもなかったからなぁ」
「ソレ以外の日は大英博物館?」
「思い出させるな」
「お、おう」
茶化すような口調で大英博物館の名を出すと、ピキリと表情を固めたまま恭二が絞り出すような声でそう口にする。
その反応に逆に聞きたくなってきたが、流石に難しそうだ。というか日本でも大概だったのにそれに輪をかけて酷かったんだな。大英博物館。
「まぁあっちは数百年単位の略奪の歴史があるからね! 呪いの逸品の十や二十は転がっててもおかしくないでしょ!」
「その程度なら笑えたんだが」
「おおっと?」
ネタにできる範疇を飛び越えそうなのでどうやらこの話題はここまでのようだ。流石に無駄に胃を痛めるような趣味は俺にも一花にもないからな。
……現地に居るオリバーさん達がなんかあったら頑張るだろう。多分。
『と、いうわけで~』
「お。そろそろ終わるか?」
「いや待て、フェイクかもしれんぞ」
「フェイク挨拶は斬新だねぇ」
口元だけを動かして会話すること暫し。
どうやら話す内容が尽きたらしい厚生労働省のお偉いさんは「あ~」だの「う~」だの唸りながら数分ほど時間を引き伸ばし、やがて司会進行を務める職員のジェスチャーに屈してすごすごと壇上から去っていった。
なんで話す事もないのにいつまでも引っ張ってんだ?
「長く話すのがああいう人にとっては偉いってスタンスなんじゃないかな」
「そうなのか?」
「ん、ごめん適当言った」
「こいつぅ」
表情を変えずにバカ話を繰り広げること暫し。
最後に壇上に上がった我らが社長にアイコンタクトを送り、きっちり三分で挨拶を終わらせた後。記念撮影を終えて、日本ダンジョン防疫局は開局の運びとなった。
この日のためにしっかりと教育を受けたスタッフ達が奥多摩ダンジョン前に新設された施設に陣取り、これからダンジョンに入る人間、出てきた人間の検査を行い、人間に有害なナニカが入り込まないかを確認していく。
勿論未知の存在、ダンジョンが相手だ。これだけの準備をシても未だに万全とは言えないかもしれない。だが、できうる手は全て打ったと言っても良い状況である。
ということは、だ。
「さて。じゃぁ久しぶりに集まったことだし」
「おう」
「今日は学校もお休みだしね!」
式典が終わった後。ユニフォームのままダンジョン前に集まった俺たちは互いの顔を見合わせて小さく頷き合う。
「行くか」
ダンジョンである。