奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、kuzuchi様ありがとうございました!


第二百五十六話 木こり

「俺たち木ーを切るー」

 

 カーン、カーン

 

「ホイホイホー」

 

 カーン、カーン

 

「ホイホイh」

「ねぇお兄ちゃん本気で気が散るからやめて?」

「ごめんなさい」

 

 身の丈ほどもあろうかという斧を振り回す妹様の言葉には真摯に対応すべきだろう。構えてる斧がちょっと怖かったとかじゃないぞ!

 

「ミノの斧がこんな所で役に立つとはなぁ」

「あいつがあそこに居たのもこれが理由かもしれないね!」

 

 カーン、カーン

 

『HAHAHA! 俺は5回で切れるぜ!』

『おいおい、なら俺は3回だ!』

 

 声のする方を見れば、景気の良い音を立ててマニーさん達ヤマギシBチームが斧を振り回してハシャいでいる。普段はゴーレム狩りで魔石とインゴット回収を主な業務にしているから、久しぶりの最前線業務で気合が入っているようだ。

 

 ううん、これは俺たちも負けてられんな。3回、いや2回できっちり叩き切ってやるぜ。

 

 えっ、何をしているのかって?

 

 そりゃあ木こりだよ。ダンジョンの中で。

 

 

 

 割と脈絡なく戻ってきた恭二だが、実を言うと恭二と沙織ちゃんの帰還自体は予定よりも大分遅れていたりする。

 

 あんなダンジョン狂いでも公称世界一の冒険者って肩書と、知られる限りで唯一の収納魔法使い。その上魔法作成能力を持っていて、見るだけで歴史の闇に葬られていたなんだかヤバい代物(遺物)を見抜く目と属性過多にも程がある奴だからな。

 

 これだけ並べるとどこのなろう小説の主人公だって話だ。まぁそんなヤバい奴だから母国である日本以外に長期滞在するってのは色々な思惑が動いちまうので、新層へのアタックという名目があれど数ヶ月も他国に滞在するのは良くないんだが――

 

「恭二兄! こっちの木は大体切り終えたよ!」

「オッケー。あ、右手の森は木人が多いから後回しな。あっちは燃やして木炭回収に回す」

「了解!」

 

 それらの諸問題をぶっちしちまう位に、この36層以降の森に生えてる木がヤバかったのである。

 

 日本どころか世界中に先駆けて36層以降の階層に挑戦した英国では、当然のように踏破した階層全域の調査が行われた。草木から虫、小動物、勿論ドロップ品に至るまで。

 

 恭二の収納能力に任せて森の一部をまるごと持ってきたと言っても過言ではないそれらの物資を、国家総力を上げて検証・研究したというのだから英国の本気度が伺えるというものである。

 

 そして、英国はこれだけの労力を費やした成果を手に入れた。

 

 この36層から下の森林エリアと呼ばれる階層に生えている材木、通称【魔樹】に関連する特許群だ。

 

「魔鉄と同じように魔力を蓄える性質。ある程度の魔力持ちなら魔樹に魔力を付与することも簡単だ」

「ただ握ってるだけで良いからね。魔石の魔力を吸わせることもできるし!」

 

 まぁダンジョンに生えてる奴はダンジョン内の魔力を吸ってるからそれほど吸い取るって感覚は無いんだが、魔力を空にした魔樹の魔力吸引は魔鉄よりも強力だった。一瞬右手が溶けかけたからな。

 

 まぁこれだけなら加工しやすい魔鉄くらいの扱いなんだが、この材木の特徴というか凄い点はこれじゃぁない。

 

 この材木の特徴は、むしろ他のモノと組み合わせたときにこそ発揮されるのだ。

 

「最初は偶然だったんだが、な。木人は倒し方でドロップ品が若干変わるからさ。これ使って何かできないかなって」

「倒し方でドロップの内容が変わるのは面白いよね! 燃やして倒すと炭になってるんだっけ?」

「丸太一本丸々の木炭ってのも凄いな」

 

 見た目は黒い丸太と普通の丸太だからな。実際に研究者達の前にだした時は結構な騒ぎになったらしい。

 

 で、炭が出てきたんだったらじゃぁ何か燃やすか。という話になり。

 

「で、この木炭を使ってバーベキューをしたんだが」

「お。いいねぇ」

「最初に食に目が向く辺り日本人だね!!」

「野外で肉焼くのは楽しいな。お前ん所のキャンプ場で今度やろうぜ」

「任せてくれ。あと爺さんが獲ってきた新鮮な肉を提供するぞ!」

 

 キャンプ場の跡取り息子として設営から処理まで全て仕込まれてるからな! なんなら仕留めた獣の処理までできたりもする。

 

 まぁ今は父さんもヤマギシの仕事が忙しくて管理を人に任せてるし、厳密に言うとウチのキャンプ場とは言いづらいんだが。管理人さんの給料はヤマギシ経由で出してるからあそこも一応ヤマギシグループに入るのだろうか。

 

「ヤマギシの従業員なら無料で利用できるし、完全にグループ企業じゃない?」

「なんてこった。俺は社長令息だった?」

「いや警備会社の社長だろお前は」

「完全に名ばかりだがな!」

 

 なんせ実務の殆どはあそこで斧構えて『マキ割ダイナミック!』とか叫んでるベンさんがやってくれてるからな。

 

「まぁ、その話は置いとくとして。良さげな炭があったら肉を焼くのは日本人として当然だが、そこからが凄かったんだ」

「良さげな炭があったら肉を焼くのは日本人として当然だとして、どんな事が起こったんだ?」

「肉に魔力が付いた」

「草」

「それ食べたら下手な魔石よりも効率よく魔力が増えた」

「料理バフktkr!」

 

 端的に起きた現象を一言で言い表した恭二に、同じく一言で返事を返す。いや、笑うっきゃ無いだろうこれ。横で話を聞いてた一花の喜びようも凄い。

 

 つまり、この魔木炭?で何かを調理するとそれだけで魔力にバフがかかるという訳だ。そしてこれは何も食物だけの話じゃなかったりするからヤバいという表現になる。

 

「実験した感じ、燃やした時にできる炎自体がこう、魔力を付与するような効果を持つというか。鉄を溶かすための炉でこの木炭を使ったら鉄が全部魔力帯びてたし、なんなら炉を構成する耐火レンガ自体が魔力を帯びてた」

「それ、恭二兄が見たらそうなってたって事だよね?」

「ああ。英国だと、今はこの木炭を使って耐火レンガを作る所から進めてる」

「で、その材料がこれ、と」

「木人とそこらに生えてる木の材質はほとんど変わらないからな。生えてる奴は一旦外の施設で炭にしないといけないけど」

「炭焼き職人さん達大歓喜だね!」

「まぁ炭にする材木が足りないと意味ないんだが」

 

 という過程があり、ヤマギシである一定以上のレベルにある冒険者達が大挙して36層に押し寄せ森林伐採を行っている、というわけだ。真一さんや研究室の先輩さん、それにヤマギシが囲い込んでる鍛冶屋さんグループもこの魔樹には注目してるらしいから、これはヤマギシ冒険者部最優先事項になっていたりする。

 

 需要と供給がまるで釣り合っていないせいで、外から仕入れると莫大な金銭が必要になるからね!!!

 

「マニーさん達はゴーレム退治から離れてこっちの伐採に本腰入れてもらうことになるかも?」

「ゴーレムの魔石+貴金属ドロップをあわせた金額より、魔木炭一本の方が2,3倍高い値段だからなぁ」

 

 初回の今回は冒険者部門全員での木こり作業だったが、次回からはこの経験を活かして効率的な伐採計画を練らないといけないそうだ。おそらくは今後も需要が満たされることは無さそうだし、せめてヤマギシ内部で使う分は自分たちで確保していきたい所だ。

 

 で、ちょっとそこのダンジョンバカ。しれっと次の階層に行こうとするんじゃない。上空からウェブ連打で楽勝? 俺も行く前提で話をすすめるのを止めろ。

 

 行くけど。


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