36層のボス、一花命名の「18くん」こと大木人をロケラン祭りでぶっ飛ばし、出てきた人間が丸々入れそうなバカでかい枝を恭二が収納する。こいつの木材に関しては希少過ぎて未だに研究が進んでいないらしい。でかすぎて持ち運べるのが収納持ちの恭二だけだからな。
そのまま大木人が消えた後に地下へと続く階段を発見。これが37層へ続く階段だという。この階層はボスを倒さないと次に進めない仕組み、という訳だ。
今までの階層だと基本的にボスをスルーして次に、という事も出来たんだが。ここから先は最低でもこいつを倒せる実力がないといけない、という事だろうか。
まぁロケラン祭りじゃなきゃ確かに倒すのに苦労しそうな奴だったが。
「じゃぁこのまま37層へ行って、38層チラ見してくる感じで」
「メンバーはどうする?」
「お前は確定。沙織と、頭脳役で一花かシャーロットさんのどっちかもしくは両方が来てくれるなら嬉しいな」
「いっそ全員で行くか?」
「いや、1……なにかあった時用に2パーティで良いだろ。魔樹集めは冒険者協会からの頼まれごとだし今回はそっちがメインだからな」
階段を眺めながら、恭二と俺は雑談するように段取りを進めていく。
となると前衛になる1PTの方には大概の問題に対処できる俺と恭二の2トップで、シャーリーさんに判断役を任せる形で、2トップの補助として沙織ちゃんを入れてあと残り2名を埋める。
2PTの方は本人たちの承諾があればだが、一花とベンさん、岩田浩二さんの3名で3トップ、後を後衛型のメンバーで支える形が良いだろうか。こっちは1PTが危機に陥った時に助太刀に入る役目があるから、判断力に優れた人が望ましいだろう。
二人で話し合った結果に頷き合い、一先ずの計画は立った。後はこれに付き合ってくれる人が居るか、である。
「んじゃぁ、そういう訳でこれから新層に行こうと思うんですが――」
そう口にしながら後ろを振り返った恭二の言葉が、徐々に力を失っていく。
無言の圧力、とでも言うべきものだろうか。こちらを見つめる、その場にいたヤマギシ冒険者部全員の視線。その圧力にさらされながら、俺は無意識の内にゴクリとツバを飲み込んだ。
これは、アレだ。こないだ北海道まで遊びに行った時、誰がライダーマンマシン2号を運転するか尋ねた時と同じだ。
『OK! 勿論俺たちBチームは全員準備万端だぜキョージ・サン!』
「待ってください。それだとBチームは一花さんに負担が集中します。同じ大学出身の先輩として僕が――」
「医療役は大事ですよね?」
つまり、全員がガチ。にこやかに、少しも目が笑っていない表情で口々に自身をアピールする彼ら彼女らの姿に、恭二と俺は互いに視線を向け合う。
互いに思っていることは一つ。それを確認できたからか、恭二はすぅっと息を吸い。
「じゃあ、じゃんけんで残りは決めましょう」
「『「「『さいしょはグー!』」」』」
全てを運否天賦に任せることに決めた。いや、この場に居るメンツなら誰が付いてきてくれても問題ないからさ。うん。
1,2PT総勢12名。争奪戦に破れた面々の恨めしげな表情を背にしながら階段を下りていく。材質的には35層から36層へ移動するさいの土作りの階段と同じ、だろうか。一応サンプルにいくらか土を削って持っていくか。
「お前と一緒にこの階層に挑戦したかったんだ」
そんな探り探りの移動の最中。36層から37層へと向かう階段の途中で、ポツリと恭二はそう言葉を漏らした。
そういえばこいつと新層に挑むのは随分と久しぶりだ。36層以降が森林地帯という特異性もあったとはいえ、思えば長い足止めを食らっていたんだな。
「だから、正直。いま、すっげーワクワクしてる」
「恭二、お前……」
感慨深い
見た目は36層と似ているが、ここには厄介な木人が居ない代わりに更に厄介な……攻撃しづらいという意味では厄介な妖精と、そいつらに紛れる悪妖精、グレムリンが居るらしい。
らしい、というのはその情報はあくまでも英国の物で、日本ではまだこの階層は未チャレンジな領域だ。ここ最近、全般的な冒険者の成長により30層台まで到達する国も増えてきているのだが、一部のダンジョンの作りが国によって変わっていたり、というのはどの国でも起こっている事らしい。
国というよりも地域、というべきか。島国である日本や英国は現状、どのダンジョンも同じ造りだが、米国やロシアなんかは地域によって差異が出ていることもあるという。
特にロシアはシベリアと呼ばれる地域にあるダンジョンの30層台が極寒の雪山らしく、かるく挑戦するだけで試された気分になるらしい。エアコントロールが無ければ死んでいた、とは挑戦したセルゲイさんの言葉である。
……北海道はそうじゃなくて良かった。
ま、まぁ出てくるモンスターに差はないからそこは助かったそうだが、これ以降の階層でもそうだとは言えないからな。
可能性の高い妖精や悪妖精なら対処法はすでに英国で判明している。アンチマジックを切らさなければ直接攻撃手段を持たない連中は完封できる。
仮にソレ以外のモンスターだった場合は……まぁ、俺と恭二の二人なら対処出来るだろう。
……尤も、どうやら保険は必要無さそうだが。
「わぁ、お久しぶり!」
沙織ちゃんの周囲を飛ぶ、ティンカーベルのような妖精たちの姿に、悪妖精こそ確認できていないがどうやらこの階層のモンスターは英国と違いがないようだ。
さて、彼らが出てきたという事は。変身をスパイダーマンに切り替える。ビンビンとスパイダーセンスにくる悪意の群れ。なるほど、たしかに妖精と気配が似通っている。これは通常の感知魔法だと対処が難しいだろう。
無言でPT全体がアンチマジックを張り直す。やがて、開けた場所に陣取った俺たちの前に、それらは姿を表した。
なんというか。確かに、グレムリンと評した恭二の気持ちも分かるグロテスクな見た目の妖精たちは、妖精たちに紛れながらこちらにめがけて真っ直ぐに走り寄ってきて――
その殆どは上空から連打された俺のウェブに周囲の妖精たちごと捕まり、身動きも取れずにその場に拘束されていった。言葉通り、一網打尽である。
連中、近づかなければ魔法は撃たないらしく、一度拘束しちまえば大人しいもんである。これを繰り返しながら進んでいけば、この階層の突破は問題なく行けるだろう。
「そう、これこれ。お前が見た目幼児な妖精たちをウェブまみれにするシーン。これが見たかったんだ」
「恭二、てめぇ!?」
「……アリ、ですね」
「シャーリーさん!?」
ゲラゲラ笑いながらヘルメットについたカメラを動かす恭二に、資料撮影用に持ち歩いていたカメラでパシャパシャと現場を撮影し始めるシャーリーさん。仕事用の備品で何やってるんだこいつらは。
というかこの光景、そう言えば2PTも見るんだよな。一花がこれを見たらなんて反応を返すか……
「よし、こうりゃくがんばるぞー!」
「おう」
結論。なかったことにしよう。無理か?
……無理かなぁ。